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第63話:化生の襲撃

狒々(ひひ)は山海経にも出てくるサルの化け物です。

 昨夜はお楽しみでしたね、みたいな幻聴が聞こえる。ぼくは昨夜色気過多のお姉さんたちに取り合いされてもみくちゃにされて、そのまま抱っこされて寝た。


 良かったのは誰も彼も脂肪が多くて柔らかかったということ。普通に布団に包まれているよりも柔らかかったのかもしれない。こんなのに溺れてたら草の上に寝られなくなるよ。


「ラビ、無事だったか」


 土気色した晶龍君がヘロヘロになりながら商人のテントから出てくる。昨夜はぼくと晶龍君、そしてモンドさんが別々に離された。モンドさんは護衛じゃなかったのかとは思ったけど、晶龍君なら大丈夫だと思ったしね。


 晶龍君が出てきたテントからは服装がキチンと着飾られているお姉さんが出てきた。それも四人ほど。お姉さんたちは晶龍君にひらひらと手を振っている。とてもにこやかな顔だ。


「晶龍君、何があったの?」

「すまん、聞かないでくれ」


 ぼくみたいに身体中をモミモミされたのだろうか。まあそのまま時の流れに身をまかせていれば時間は過ぎていくからね。


 ドンッという音と共に放り出されたのは別のテント。ここには色っぽい女性が怒り心頭でモンドさんをどついている。


「金がないのにタダ乗りかい? いい度胸だ。官憲に突き出してやるから御宇ぎょうに着いたら覚えときな!」

「いや、ごめんなさい、これには、深い訳が」

「女遊びするのに深い意味もクソもあるか!」

「ひぇ〜」


 正直、見なかったことにしたい。でも一応「飼い主」だしなあ。雇い主? いや、あの姿見たらそんなオブラートに包んだ言い方は良くないって分かるよ。あれは、ぼく以上のケダモノだよ!


「あの、お姉さん」

「お。おや? なんだい、ボウヤ? 危ないから近づいちゃダメだよ?」

「いえ、あの、その人、ぼくらの護衛の人でして、お金なら払いますから」

「まあボウヤ! そんな優しいことしなくてもいいんだよ。こいつは最低最悪のやつだからあんたが金払わなくても」


 そう言いながらモンドさんを蹴っている。心做しかモンドさんの顔がにやけてる様に見えなくもない。もしかして蹴られて喜ぶ人? そんな人もいるんだと葛葉くずのはに教えてもらった事がある。


 晶龍君が必死に説得してお金を受け取ってもらってモンドさんが泣いて感謝してた。いや、もっと真面目に護衛して欲しいんだけどなあ。


 朝ごはんは軽く炙った肉を頬張ってた。朝から肉だなんて二人ともすごいなあ。ぼくはその辺の草をんでるけど。


 昼過ぎぐらいに野生の野うさぎと遭遇した。二人ともぼくに遠慮してるみたいでなんかやりにくそうに見てたけど、晶龍君に龍と蛇くらい違うからって言っといた。


 結局、何羽か野うさぎが獲れたのでお昼ご飯と晩ご飯のオカズになった。だから食べる度にぼくの方を見なくていいんだってば!


 夜。また商人たちと野営場所が重なってしまった。商人さんたちはかなり先行してた様に思うけど……そう思っていたら若い商人さんが教えてくれた。夜になると徘徊する魔物が出るんだって。


 そこから二日程は何も無く過ごせた。問題が起こったのは三日目。もうそろそろ御宇ぎょうの市壁が見えてくるという頃だ。ことが起こったのは夜中である。


 ぎゃあぎゃあぎゃあという声がして夜の外が騒がしくなった。今日は新月。月のあかりが全くと言っていい程ない闇夜。まあぼくには見えるんだけど。


 闇の中に蠢いてる影がある。よく見ると人間の成人男性よりかは一回り大きい、全身が毛むくじゃらのサルみたいなのが二三匹で近寄ってきていた。


「なんだよ、あのサルどもは!」

「ふむ、狒々(ひひ)だねぇ。オジサンも久々に見たよぅ」


 ぼくらを見ると狒々は大笑いし、唇が捲れて目まで覆ってしまった。なんというか、赤い。異様な表情だ。


 唇が目を覆って居るのを好機とみたのか、モンドさんが動いた。腰の刀を素早く抜くと、唇の上から額を突き刺した。ぐぎゃあという叫びが一頭からあげられた。


 他の二頭が黙っているはずもない。モンドさんに襲いかかろうとするが、晶龍君が一匹を蹴り飛ばした。タイマンならまあ晶龍君の勝ちだろう。どんないやらしい手を使われるのか分からないけど。


 残り一頭、モンドさんが返す刀で斬り飛ばした。剣筋が一閃すると次の瞬間には首が転がっていた。えっ、実はモンドさんって相当強い? 弱かったらぼくが守ろうと思ったんだけとね? 何も出来ないだろうって? ほっとけ!


 晶龍君がもう一体を頭砕いて絶命させたら周りから拍手喝采が飛んできた。それから夜遅いのに宴会。いや、もう子どもは寝る時間なのだけど。


 晶龍君が楽しそうに狒々退治を語ってるからね。商人の人が買い取ってもいいけど冒険者ギルドに行けばもっと高く買ってくれると言っていた。これで街での次の目的地は決まりだね。

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