第62話:邯鄲への道
大国でも中国。中華風の国です。邯鄲以外の都市名は適当。
ぼくが草を食べてるとテントの中から晶龍君が出てきて「人間の国に行くぞ」って言ってきた。あー、いや、晶龍君? ぼくらの目的地はぼくの故郷の森なんだけど。その、そういうのは一旦たどり着いてからに……えっ? 間に合わない? よく分からないけど間に合わないなら仕方ないなあ。
トゥグリルさんが護衛についてぼくらはゆっくりと草原を進んだ。しばらく歩くと街道のような場所に着いた。
「ここから東に行けば大国の都、邯鄲にたどり着く。気をつけていくがいい」
「あんたは来ねえのか?」
「我らは入っても奇異の目で見られるだけだからな。居ない方がマシという感じだ」
トゥグリルさんが顔を伏せる。なるほど。ぼくたちのことを考えて言ってくれたんだな。それならぼくらは素直にお言葉に甘えよう。
道を歩いているとちらほらと人とすれ違う。人間の通俗はよく分からないけど、服は少し作りが違うみたいだ。着る時に上からとか下からじゃなくて背中からみたいな。ぼくには必要ないからなんて言っていいか分からないんだけど。
「おら、小僧、一人か? オレたちがついて行ってやろう」
「護衛料は安くしといてやるぜ」
いかつい顔のおっさん達が近寄ってきた。こういうの違法じゃないのかと思うんだけど、別に武器を持って脅してる訳でもないのでセーフなんだと。いわゆる売り込みなんだそうだ。
「いや、間に合ってます」
晶龍君はそんな風に言うんだけど、どう見ても商家のお坊ちゃんにしか見えない晶龍君じゃあ説得力がない。
しつこくされて困っているのでもういい加減ぶちのめして何とかした方がいいだろ?みたいに晶龍君がイライラしてきた。これは良くない。相手が法に触れてない以上はこちらの暴力である。下手したら捕まるよ?
「お困りかな?」
そこに声をかけてきたのはなんか袖とか足とか涼しそうな服を着た、腰に刀を差した男性。見るからに冴えないなりである。口には何か木の枝の様なものをくわえている。食べれるの、それ?
「おい、貴様、邪魔するな! 今こちらが雇ってもらうところだ!」
「いやぁ、オジサン、そういう風には見えないんだけどねえ〜」
「うるせえ、黙ってろ! やっちまえ!」
どうやら短絡的な手段に出るようである。それならば晶龍君が暴れれば済むだけの話。都合が良くなってきた。さあ、晶龍君、暴れるよ。
「まあ待てよラビ。見てみろ」
晶龍君に言われるがままにそっちを見る。おおっ、なんて食べ応えのありそうなシロツメクサ! じゃないよね。ええと、オジサンの方か。
オジサンはぷっと口にくわえてる枝のようなものを口から吹き出すと、腰の刀にかけていた手が素早く動いた様に見えた。いや、本当に見切れなかった。
「いやぁ、オジサンとしても剥くのは女性の方が好きなんだけどねえ」
再び口に枝をくわえて(どうやったのかは分からない)刀の鍔をガチャリと鳴らすと、男たちの下半身がふんどし姿になっていく。
「うわっ」
「なんだこりゃ!?」
「お、覚えてろ!」
口々に叫びながらふんどし姿を晒して逃げていく。滑稽な姿だ。オジサンはにっこりと微笑みながらぼくらに話しかけてきた。
「一応聞くけど怪我はないかい?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「そりゃあ良かった。そこで相談なんだがオジサンを雇って貰えんかね? こう、頑張って働くよぅ」
「……報酬は?」
「腹が減ったから食事が欲しいかな」
「わかった。よろしく頼む」
晶龍君がえらいあっさりと護衛を認めた。話を聞いてみると元々護衛は手配するつもりだったけど、これだけ腕が立つなら一人で大丈夫そうだというのが決め手らしい。関わる人間は少しでも減らしたいもんね。
「自己紹介がまだだったねぇ。オジサンは……モンドって呼んで欲しいなぁ」
「ショウです。ここからずっと西の方の国の商人の家に生まれました。世界を見て回っています。こいつはぼくのペットでラビ」
「そうかいそうかい、よろしくねショウ君、ラビ君」
悪い人では無さそうだ。それから森で狩りをして晩御飯を獲る。いや、一応貰った携帯食はあるけどそこまで美味しくないしね。ぼく? ぼくはシロツメクサ食べてるよ。
そのうちぼくらの野営地に商人の馬車とかが止まって小さな集落みたいなのが出来た。邯鄲の街まではまだまだあるそうだ。ここから先にあるのは御宇という都市だ。小さい都市ではあるがそこそこに流通はしているみたい。
「アラボウヤ、こっちで一緒に寝ましょう?」
集まって来た中の商人の奥さんらしき色気過多のお姉さんが近寄って来て晶龍君を誘っていった。まあショウ君はうぶな商人の息子って設定だからせいぜい可愛がられて終わりだろう。ぼくは外で十分。お腹空いたらすぐ草が食べられるからね。おやすみなさい。頑張ってね。
「あらこっちの子も可愛いわね。おいで」
あ、ちょっと、ぼくは、草の、上で、あーれぇー




