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第61話:アシュリーとの密談(晶龍視点)

ラビ君は一回休み。外で草でも食べてます、

「彼はラビというのですね」


 巫女姫、いや、アシュリーはそう言った。さっき覗る事が出来ると言っていたのに、ラビの事が分からないのだろうか?


「見えなかったのか?」

「はい、赤い霧がかかったみたいになっておりまして」


 なるほど見えないのな。もやじゃなくて霧なのか。そりゃよっぽど濃いんだな。いや、そんな事は考えてないのかもしれない。


「オレの事は見えたんだな」

「はい。龍の一族と」

「母上や父上の事も見えたのか」

「あの、ティアマト様の息子というだけで」


 母上だけか。親父は意図して隠してあると思うんだけど、母上は何故だろう? 自分の息子と分からせるため? わからん。


「まあ嘘は言ってないみたいだな」


 オレには嘘を見抜く能力はない。だけどこう言ってみた。だってその方がかっこいいじゃん?


「はい。ラビ様の方は名前すら」

「あー、多分名前は今は違うんだよ」

「どういうことでしょうか?」


 仕方ないので説明してやった。ラビを外に出したのはこの説明を聞かせたくないからでもある。


「ホーンラビットみたいな魔物は元々個体としての名前を持ってねえんだよ」

「ですが、晶龍様は彼、か彼女かは分かりませんが、ラビと呼んでいらっしゃるのでは?」


 まあラビの性別とか分からないよな。ひっくり返せばつくものついてるんだけど。


「彼、って呼んでやってくれ。んでだ、オレがラビって呼んでるのは昔の名残からだ」

「昔の名残、てすか?」


 アシュリーはキョトンとしている。そりゃあ人間なら生まれた時点で名前がつけられるから名付けなんて分からねえと思う。オレたち古龍とかなら自分で名前付けたりするけど。あ、あと人型とるやつもか。


 ラビの場合は初めてつけた時がテイムした時なんだよ。つまり、テイマーがテイムしてる間の名前であって、そいつ固有の名前ではないんだ。


 何が言いたいかと言うと、グレンがテイム契約を解除した時にあいつはラビじゃなくなったって訳だ。


 ラビに言わないのかって? 主を無くしてそれでも時々グレンの事を思い出してるようなやつだぜ? グレンから貰ったもので残ったのは名前だけなんだ。それがもう失われてるとしたら……正直ラビがどうなっちまうかわかんねえ。


「事情は分かりました。私もラビ様の種族も名前も見えませんから名前が無くなっているなどということは私からはばらせません。ばらしたら晶龍様が疑われますから」

「なるほどな。まあそうだな。ところで、お前はオレたちに何の用だったんだ?」


 警戒を新たにしてアシュリーを見つめる。アシュリーはゆっくりと頭を下げた。


「何の用もなにも。私は先程も申し上げた通り、砂漠の化け物を手懐けたいだけです」

「いや、そりゃあいい。問題は何のために、ってところだ。草原にいるなら全然要らねえだろ?」


 そう、あのトゥグリルとかいう男、やつを見てもいくさの心得はあると思う。ちょっと若さが前に出て逸り過ぎだが。


「……我々はワザリアは遊牧の民。ひとつところにとどまらず、移動しながら過ごしております」


 それは知っている。ユルトと呼ばれる移動式の住居。おもしれえなって思うし。オレも一台欲しいが管理しきれねえからなあ。


「その我らを砂漠に追いやろうとしている者たちがいまして」


 砂漠に追いやるとは穏やかな話では無い。この辺の奴らにはこの砂漠が死の砂漠だと認識されていると言っていた。そうするなら地獄の釜のふちから蹴落とされるようなもの。


「それでお前らはそいつらには従うのか?」

「はい、仕方ありませんから。我々では太刀打ち出来ない大国ですので」


 悲しげにアシュリーが目を伏せる。なるほど構図が見えてきた。つまりは大国が版図を広げる為に遊牧民たるワザリアの土地に目をつけたという事だ。


 それでワザリアは精鋭とはいえ少数。大国を相手取っての戦など出来ない。それならば砂漠の化け物を何とかして砂漠に住むしかない。砂漠までは追ってこないだろう。何せ開墾して畑を作ることができない土地なのだ。


「争いが嫌いなのか?」

「我が祖先の血に誓って争いは厭いません。ですが、泥沼の戦いで仲間を失いたくは無いのです。私は彼らに死ねとは命じることが出来ないのです」


 正直な話をすれば、このアシュリーとかいう巫女姫には戦争は無理だ。さっきのトゥグリルとかいうやつの方がよっぽどマシだろう。まあそれほどの大国なら戦ったところで長くはもたないだろうけど。


「よぉし、ならちょっとその大国とやらを見に行ってみるか」

「えっ、あの、砂漠の化け物の件は」

「ああ、蜃のやつにはオレから言っとく。でもとりあえず草原から出なくてもいい様に探ってみるわ」


 オレの言葉にアシュリーの顔が明るくなってボロボロと涙を零し始めた。いやいや、頼む、勘弁してくれ。涙は苦手なんだよ!

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