第6話:しつこい奴ら
オレたちは!
決して!
諦めねぇ!
「そろそろ大丈夫じゃろう」
ある日の特訓が終わったあとにミネルヴァさんはそう言った。つまりはそれはお別れの時だということだ。
「ここから南に走ると草原がある。そこには人間の街があるから出来るだけ迂回して進みなさい。人間に捕らえられたら売られてしまうか、食べられてしまうだろうからね」
そうだ、人間はぼくたちホーンラビットを捕まえてシチューに入れて食べちゃうんだってグレンが言ってた。そんなに美味しいの、ぼく?
「そのまま進むと途中に川がある。橋もあるがそこには人間が多いから、川幅が狭いところを見つけて飛び超えればいい。上流の方に進めば川幅は狭くなる」
上流ってなんなのか分からなかったけど、山の方って言われたら分かった。海と反対の方だね。海はグレンと一緒に見たことあるよ。水がしょっぱくて飲めなかった。川の時は普通に飲めたのになんで海だと飲めなくなるんだろう?
「その川を超えてずっと行けば故郷も見えてくるのではないかと思う。まあキミの故郷がどれだけ遠くか分からないけど一番近い南の方の森はそこだ」
「ありがとう、ミネルヴァさん」
「達者でな。また会えるかどうかは分からんが元気で暮らすのだぞ」
「はい!」
ぼくは勢いよく返事をした。お別れだ。昼間だというのにミネルヴァさんはぼくを見送ってくれる。ぼくは頑張って走った。途中で大きなヘビに襲われそうになったけど、ミネルヴァさんの風切羽を見せたら引っ込んだ。すごいな。
ぼくは飛ぶように走って森を抜けた。するとそこには大きな草原が広がっていた。草が沢山ある。ぼくはそこで食事をすることにした。日当たりがいいからか草も柔らかいものが多い。
夢中になって食べてると日が落ちてきた。何処か穴を掘って夜を過ごさなきゃいけない。森の中なら身を隠すのも楽で良かったんだけど。
辺りを見回すと小高い丘の様な場所がある。そこの根元の方に少し穴を掘って隠れよう。穴掘りはあまり得意じゃないけど、出来なくはない。
掘った穴に潜り込んでおやすみなさい……沢山走ったから疲れちゃった。
【side森の中(第三者視点)】
「納得いかねえ、納得いかねえぜ、アニキ、それにちい兄貴!」
「バカが。大人しくしてねえとあのフクロウに狩られるぞ」
「フクロウごときにビビってんですか? あんなの単なるハッタリですよ。オレたちに敵うはずもありませんや」
そう話すのはシルバー三兄弟の末っ子、ブロンズ。まだ血気盛んというやつですが、兄たちの言うことは聞いてるので五体満足に生きています。
「じゃあどうすんだ?」
「あのフクロウを殺っても良いんですが、それだとまずいんでしょう? ならやつがフクロウのところから離れたら追い掛けて仕留めるんですよ」
「出来るのか?」
「やつの臭いは鼻の中にこびりついてますぜ」
「……分かった。なら今は見張るだけにしとけ。やつがいなくなったら……」
そして、ラビの旅立ちの日。
「おっ、やつが旅立ちましたぜ」
「夜には追うぞ」
「ええ、今追わないんですかい?」
「すぐ追ったら気付かれるだろうがよ。なぁに臭いで居場所は分かるんだ。焦るこたァない」
シルバーは不敵に笑います。カッパーもブロンズも頼もしさを感じていました。そして夜も更けてハイエナたちは進軍を開始します。ラビは休み休みで動いてましたから全力で走ったハイエナなら一日で追い付ける距離です。そしてこいつらは狩人としてはエリートでした。
「あの丘の辺りで臭いが途切れてますぜ」
「きっと穴蔵を掘ったんだ。その辺にいるさ」
「文字通り袋の中のうさぎってやつですね」
「違いねえ」
そうこう言ってるうちに穴蔵は見つかってしまいました。中にはラビが居ます。
「見つけたァ!」
「このまま待つか。あのサイズじゃあ入れねえからなぁ」
「鼻面突っ込んで蹴られるのもゴメンですかい?」
「カッパー、口は慎めよ」
「すいやせん」
【sideラビ】
外の五月蝿さにラビは目を覚ましました。なんでこの場所がバレたんだろうか。でも、あのハイエナの奴らはぼくを狙っている。まさかまだ追いかけられてるなんて思ってもみなかった。
「どうしよう……」
ぼくは途方に暮れていた。ふと見るとそこには今までぼくのピンチを救ってくれた風切羽かまある。ヘビ以降も襲ってこなかったのはきっとこの羽根があったからだ。
ぼくはお願いと風切羽に魔力を込めていく。あいつらはきっと見せるだけじゃどうにもならない。ぼくが魔力を込めると風切羽は緑に光ってそのまま光を失った。えっ、不発なの?
「ちっ、気付かれたみてぇだなぁ」
「もう諦めてとっとと出て来いよ」
「おおっと鼻面を蹴ろうとしても無駄だぜ?」
「ブロンズ!」
「ひっ、すいやせん」
絶体絶命だ。ハイエナが穴を取り囲んでるんだ。諦めるかな? いや、きっとしつこいから諦めてはくれないだろう。