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第57話:占星術師の託宣

ドロテアさんはそのうち出してあげたい。

 冒険者ギルドに盗賊団を運び込み、騎士団を待つ。今まではグリード子爵の息のかかったやつが来てたらしい。今は領主様がちゃんとその辺を見直してるんだって。


 ぼくらは南の森へと帰る為にここを離れようと思ってる。確かにラシードさんもヨクバルさんも、ナダメルさんも、ライラさんやドロテアさん、マーサさんだって面白くて好きだ。でも、ぼくらの目的地はここじゃあない。ハサン? そういえば居たっけ。


 そんな訳でみんなにお別れを告げるととても残念がってくれた。ライラさんとドロテアさんには両側から引っ張られてさ……痛い痛い痛い!


「寂しくなるわね。そうだわ、私があなたの道行きを占ってあげる!」


 マーサさんがやる気満々とばかりに道具を取り出す。マーサさんはぼくを抱きしめに来ない。そういう意味で言えば安全だ。


「いくわよ」


 マーサさんが鏡を広げて、そこに水を垂らした。鏡にぼんやりと像が映って、段々とその輪郭がはっきりしてくる。


 鏡像には晶龍君が映っていた。呆然と何かを見詰めているよう。燃え盛る森林。夜闇に飛ぶ火の粉。災害がそこに映されていた。


 晶龍君の視線の先には赤く染ったホーンラビットが一体。いや、ホーンラビットってそこまで大きくないよね? サイズにして晶龍君を遥かに上回っていた。それに毛の色も、今のぼくよりも鮮やかではある。当然ながら晶龍君の腕の中にぼくはいない。このホーンラビットはもしかして……


「な、なんなんだよ、これ!」

「ごめんなさいね。私も何かを見せてあげようと思ったんだけど、選べないのよ」


 マーサさんが晶龍君を宥める。ナダメルさんはぼくをギューッと抱きしめてきた。いや、柔らかいのは良いんだけど、ちょっと苦しいかな?


「お母さん酷い」

「ひどー」


 ドロテアさんとライラさんがマーサさんの鏡をどかす。ライラさんがカードを並べ始めた。


「塔、運命の輪、世界……全てが変わるような覚醒が起こる」


 晶龍君が覚醒するの? いや、それもなんかおかしい。ライラさんはずっとぼくを見てる。


「ああ、もう、私も見るわよ。ええと、ショウ君ショウ君……なんかお腹パンパンで動けなくなってるわね」

「そ、そんなことある訳ねえだろ!」

「ショウ君、なんか人が変わった?」


 そうか、ショウ君は商家の息子だから礼儀正しくしてたんだっけ。もう今更という気もする。


「ほ、本当はこっちの方が楽なんだよ。でも、お行儀良くしなさいって言われてっから」

「そっか。私はこっちのショウ君の方が好きだな」


 ドロテアさんが微笑む。おっ、これはラブロマンスが始まっちゃう? いや、晶龍君はそんなつもりないかもしれない。まあ異種族間の婚姻はしばしば寿命がネックになるからね。晶龍君は古龍だからなんだかんだで千年単位で生きるはずだし。


 ライラさんの熱視線はぼくに向かって来てる。これはラブロマンスが……って始まらないからね! どう見てももふもふしたいとかいうもふもふ欲だよ! なんなら手がワキワキしてるもん。その手つき怖いからやめて!


「じゃあそろそろ行くぜ」

「何処に行くの?」

「南へ。ラビの故郷の森までな」

「また、戻って来てくれる?」

「うーん、わかんねえな。でも、居心地はまあ悪くなかったかな」

「今度来たら私がお料理作ってあげる。それまでに上手くなってるから」

「お、おう。まあじゃあ楽しみにしとく」

「きっとよ!」


 晶龍君とドロテアさんの間でそんなやり取りがあったのをほのぼのと見てた。まあ多分晶龍君は忘れちゃうんじゃないかと思うけど。ドロテアさんの方も忘れちゃうんじゃないかな?


 ライラさんはぼくの方をずっと見てる。ずっとずっとずっと。なんか物欲しそうに指くわえてる。ぼくはあげませんからね?


 ヨクバルさんから今回の報酬だとお金を晶龍君が貰って南に向けて旅立った。お金は街にいかないと使わないんだけど、そこは晶龍君に任せよう。ぼくは街の外でも美味しい草があればいいからね。そしてこっち側は草原が……広がってなかった。砂漠だったよ。暫くは走らないといけないなあ。


 ひたすら砂漠を走る。足元が砂の砂漠なので足が取られて上手く進まない。道らしきものもないことはないけど、砂が直ぐに覆い隠すから踏み心地は変わらない。


 二日ほど砂漠を進むとそこにはオアシスがまたあった。ここは小さいオアシスの様で、街とかは出来ていない。小さな掘っ建て小屋みたいな建物がポツンと一つあるだけだ。誰かが住んでるということも無い。


「ラビ、ちょっと休もうぜ」


 晶龍君に言われて、ぼくはオアシスに飛び込む。バシャーンと水音が……しなかった。なんだこれ、砂だよ! ここ、オアシスじゃない!


 びっくりしてると砂の中からゆっくりと蛇のようなものが鎌首をもたげた。


「ワシの領域に入り込むとは生命が要らんようだの」


 おどろおどろしい声が響き渡った。

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