第55話:sideグレン その2
グレンたちのお話。ブリジット、怒られるのを免れる(笑)
「ただいま」
「おかえり、グレン」
「あれ? エリン一人かい? ブリジットは?」
「あ、えーと」
ぼくたちがダンジョンから帰ってきてエリンしか留守番が居ない事に気付いた。魔王軍の襲撃を警戒して身構えるエリン以外の全員。
魔王軍との初っ端の戦闘で赤子の手をひねるかのように退けて以来、味方からは英雄視され、ごく一部の味方からは疎まれ、魔王軍からは警戒されているから。
つまり、宿に居たところで安心できるものでもない。そういうことだ。みんなは心配ないというのだけど、ぼくは誰一人欠けて欲しくないからね。それは今ここにいない、大事な友達もだ。
「ふう、やれやれ、楽しかったわ……」
「ブリジット! 無事だったのかい?」
「えっ? グレン? 無事って?」
「魔王軍に襲撃されたんじゃ?」
ぼくの問いにブリジットが固まった。他のみんなもブリジットを見てる。エリンはあーあ、みたいに顔を手のひらで覆っている。
「だ、だだだだ大丈夫よ、ほほほ、ほら、妾、強いから!」
なんか違和感があるなあ。戦闘自体してきてないんじゃ? まあだいたいの相手はブリジットの場合、畏怖威圧だけで何とかなるからなあ。
「グレン、その小娘からラビの臭いがするぞ」
そんなことを言い出したのはブランだ。フェンリルだけに鼻は利く。
「ブリジット?」
「はい……ごめんなさい。会ってきました」
「ずるい、ずるいですブリジット! 私だってラビきゅんに会いたくてこの大空に翼を広げ飛んでいきたいのに!」
「マリーの場合は肋骨ですりおろす為やないの。せめて、うちくらい豊満やないと不便やよ」
「これはこれで痛気持ちいいってラビが」
そんなこと言うわけない。常々ラビはマリーのハグを何とかして欲しいって愚痴ってたんだよ。でもそれやると他に犠牲者出ちゃうからね。特にぼく!
「ブリジット、それでラビは元気そうだった?」
「ええ、妾の血族が手を出しそうだったから釘をさしておきました」
「そうかい。助かったよ、ありがとう」
なるほど。ブリジットは自分の血族、それも真祖を感じたから乱入したんだな。いざとなったら護る気だったんだろう。
「そういう事ならば私も少し行ってくるとしよう」
そんな事を言い出したのはフレイだった。いつもはそんな事言わないのにどうしたんだろう。
「なあに、昔なじみの精霊の気配がラビの辺りから感じられるんでな。ちと介入しておこうと思ってな。まあラビならば心配は要らんと思うが」
「イフリートと同格の精霊? 大変じゃないか! ラビ、大丈夫かな?」
ぼくは不安に押しつぶされそうになる。元々ラビを突き放したのは魔王軍との戦いに巻き込まれないようにする為だ。それなのに危険な目にあってたら元も子もない。
「案ずるな、主よ。私が行ってくれば済むことだ。ラビの身は私が守ろう」
「そうか、助かるよ」
そう言うとフレイは窓の外へと飛び去った。しかし、そういうのが分かるものなんだろうか。
「一応同族ならば会えば分かるがそんな便利な能力はないな」
「そもそもベヒーモス自体が少ない種族だから多分無理にゃ」
「妾は言った通り血族なら大丈夫よ」
「くっ、私にそんな能力あれば翼で飛んで行くのに!」
マリーに無くて良かったよ。
「私は、まあ、木のあるところなら、ね、ほら、ドライアドだし」
「うーん、観よう思たら見れますけど、わざわざ見んでもええんちゃいます?」
「ワシは見れんこともないぞ? まあ水があるところの方がええがなあ」
「見れるが息子もいるしな。信じておる」
どうやら見ようとすればってのがチラホラいるみたい。なるほどなあ。
「しっかし、そのホーンラビットがそんなに気になるんなら追い出さなきゃ良かったじゃねえか」
「フェザー、君が分からないのも無理は無いけど、ラビは単なるホーンラビットで」
「はっ? アレがホーンラビット? 冗談も大概にしろや」
「フェザー?」
妙なことを言う。ラビは単なるホーンラビット。だからこそぼくらの旅にはついて来れないと思って故郷に帰したんだ。
「あー、すまねえ。主様は人間だからわかんねえか。あいつの身体の中のデカい魔力の塊がよ」
魔力の塊? そんなもの、ホーンラビットにあるはずがない。ホーンラビットは魔法を使えないんだから。
「本当のあいつが何者なのか、それはわかんねえけど、あんなに赤くてデカい魔力は初めて見たぜ」
「フェザー、そのぐらいでええんちゃいます? 今言うてもしゃあないことやないの」
「はっ、葛葉、あんたは気付いてたってのか?」
「ご想像にお任せしますわ。言わぬが花やもの」
フェザーと葛葉の言い合いが遠い場所でのことのように聞こえる。ラビがホーンラビットじゃない? それじゃあ一体ラビは何者なんだ?




