第53話:ジンの名前はラクーンやラシーンではありません。
また乱入か、とは言わないでください。この乱入はちゃんと予定通りなんです。
ボスとやらが帰ってきた様です。階段の上の方がガヤガヤとうるさくなりました。ラシードさんが駆け下りて来ます。
「おい、別働隊だ。挟まれるぞ!」
「大丈夫だ。下は制圧してる」
アスタコイデスさんが答えた通りにしたの水源のところはもうぼくらが制圧しちゃいました。いえーい、ボスさん見てるぅ? いや、見てないよね。まあぼくは何もやってないんだけどさ。
「おいおい、オレ様が居ない間に随分と好き勝手してくれたようだなあ!」
降りてきたのはオーガでしょうか? やたらとがっしりしたやつです。三メートルはないと思うので多分人間だと思います。
「なかなかにデカいな」
アスタコイデスさんは楽しそうです。こういう人をバトルジャンキーって言うんですよね? 確か勇者パーティの戦士がそんなやつでした。ぼくは弱いから興味持たれませんでしたけど、ブリジットや葛葉は付きまとわれてたなあ。相手にしてなかったけど。
「まずはてめぇからだ!」
ボスらしき大男がラシードさんにデカいトゲトゲのついた棒を振り下ろします。確かにあれぐらいの巨体になると剣を使うメリットがあまりない気がします。昔にはドラゴン殺しとかいうデカい剣を振り回す蛮族みたいな人がいたらしいですけど、そうなると剣というより鉄塊だと思うんだよね。
「うひぃ!」
ラシードさんは情けない声を出して避けました。よく考えたらぼく、ラシードさんが強かったところ見た事ないや。
「避けねぇでくれよな!」
再びの攻撃はタんが前に出て弾ました。ボスの顔に笑みが浮かんできます。
「へぇ、赤の戦士がいるってのは本当だったか」
「こいつは驚いた。盗賊風情が私の名前を既に知っていたのだからな」
「名乗らねえと失礼だな。砂地獄のウスバだ」
「ほほう、賞金首に居た気がするぞ」
「へっ、手配書の金額に上乗せさせてやるぜ!」
そうして吼えるとウスバはアスタコイデスさんに武器を叩きつけます。トゲのついてる鉄球が棒に繋がっています。あれはモーニングスターというものでしょうか? 朝起こすときに使うのかな? モーニングってついてるし。
「ぐっ、しかし!」
アスタコイデスさんは捌きながら近付こうとしますがなかなか突破口が開けません。
「あー、鬱陶しい! こうなったら奥の手だ! このリングをな!」
そう言うとウスバは高らかにリングを掲げて宣言しました。
「こい、ジンよ!」
「ふむ、何の用だ?」
リングから上半身ムキムキマッチョなターバンのおっさんが出てきました。これにはみんなもびっくりです。
「その赤の戦士はオレが殺る。お前は残りの人間どもの始末を頼む」
「よかろう。願いは聞き届けた」
そう言うとジンは大きく息を吸い込んで吐き出した。凄まじい風がぼくらに叩きつけられた。
「ふふふ、久しぶりに暴れさせてもらうぞ!」
ジンはでかい拳をラシードさんに叩きつけた。辛うじてラシードさんは受け止めたが立ち上がるのは時間がかかりそうだ。
そうこうしているうちに晶龍君にも攻撃が飛ぶ。晶龍君も何とか受け止めたがやはり吹っ飛ばされた。強引なドリブル?なんですか、それ?
「ぐっ、受け止められなかった」
「ちくしょう、元の体ならこんなやつ」
ラシードさんも晶龍君も吹っ飛ばされた先で悔しそうにしています。
「最後は貴様か。ふむ、殴るにはちょっと手応えが無さそうだ」
「そうでしょ、そうですよね? ほら、ぼく、自分で吹っ飛べますようわあああって。どうです?」
「しかし始末を頼むと言われたのが命令だからな」
「それって人間のでしょ? ぼくはホーンラビットだよ! 食べたら美味しい……かどうかは分からないけど食べないで欲しいな!」
「私は精霊だからな。食事の習慣はない。食べられんことはないがな」
あれ? もしかして、このジンさんは割といい人? 出会い方が違えば友だちに慣れたかもね。
「何をグズグズやってやがる!」
「このホーンラビットはどうする? 命令には人間を、ということだったが」
「そいつもついでにやっちまえ!」
「やれやれ仕方ないな」
そう言うとジンはぼくに向き直った。
「一撃で潰れるかもしれんから悪く思うなよ」
「あ、あの、肉は潰さない方が美味しいんじゃないかな?」
「食べるためでは無いから構わん。ぬぅん!」
デカい剛腕が迫ってくる! ぼくがあんなの食らったら粉々になっちゃうよ。美味しくないなあ。
ガシッという音がして、目を瞑っているぼくに攻撃は飛んでこなかった。何が起こってるの?
「ふう、どうやら間に合ったようだな」
「! お主、何故ここに?」
「主の許可を取って参った。やはり砂漠は良い気候だな」
あれ? この声どこかで聞いた様な。
「久しいな、ラビ。いや、久しいと言うほど別れてから日は経ってないのだが」
「イフリートのおじちゃん!?」




