第51話:手掛かりは屋敷の中だ
ワラキア侯爵が頭を上げて、そしてまたぼくの方に向き直った。
「お姫様のペットともなれば、私が手を出す訳にもいかぬ。ましてや敵対するなど以ての外だ。私はお前の後ろ盾を降ろさせてもらうぞ」
「そ、そんな、侯爵様! あの様な小娘如きで」
「お姫様を小娘だと! 如きだと!? 貴様、どこまで愚物な。こい! その身に相応しい罪にしてやるわ!」
「ひょえ、そ、そんなぁ!」
傍に控えていた騎士たちがグリード子爵を連行していく。何が起こってるのかイマイチ理解出来ていない。
「ラビ、とやら。この通り、私にはお姫様に逆らう気などない。くれぐれもお伝えくださらんか? 私の領土を灰燼とされては堪らん」
「あー、うん、大丈夫だと思うよ、多分。無断外出を怒られてる頃だろうし」
「お姫様が怒られる? これはまた驚くようなことを聞いたものだ。至高の王、ローズレッド陛下が聞かれたらどのような顔をするだろうか」
ローズレッドという人が誰かは分からないが、ブリジットの知り合いなんだろう。きっとその人から怒られなかったからあんなワガママプリンセスに育っちゃったんだね。
「では、私も失礼するとしよう。なあに、もうグリードは戻って来れんから好きにしてくれたまえ」
「ありがとうワラキアさん」
「屋敷に来るなら歓待しよう。お姫様の話を聞かせて貰えると嬉しい」
「分かりました!」
ブリジットの話なら事欠かない。色々常識外れだったもんなあ。ぼくとグレンで教育したんだ! あ、嘘です。マリーとエリンも協力してくれました。
静かになった部屋の中にはぼく、晶龍君、ヨクバルさん、ラシードさんが残った。
「な、なんだったんだ?」
「分からないわ。いきなり気を失ったと思ったら……グリード子爵がいないわよ!」
あれ? ラシードさんもヨクバルさんもブリジットの事覚えてない? まあ忘れちゃってるだけかもだけど。
「ラビ、お前あんなのと一緒に居たの?」
「え? うん、まあね。割と古くからの付き合いだよ」
人間型として初めてのテイムだったもんね。それがテイム出来るって分かってからマリーとエリンもテイムしてって言ってきたんだもん。葛葉は妖狐状態でのテイムだったもんね。
「怖かった。殺されないようにするにはどうしたらいいかってずっと考えてたくらいだ」
晶龍君がそこまで言うなんてかなりびっくりした。負けん気強いから絶対倒してやるとか言うのかと。
「瞬殺されて骨も残らず凍り付かせられるさ」
闇と氷がブリジットの属性だからね。確かにそうかもしれない。でも晶龍君が弱気になるくらいなんだな。
「ショウ君は何があったのか分かるの?」
「あ、ああ、そこのグリード子爵とかいうのが侯爵様に連れて行かれたぜ」
「それは本当ですか、アスタコイデスさん、アスタコイデスさん?」
そういえばもう一人居たなとそっちに目を向けたら立ったまま震えが止まらない人がいた。
「なんだ? 今のはなんだ? 侯爵が吸血鬼というのはわかった。分かった上でギリギリでも何とか勝てる程度だと見た。そこまではいい。だけどあれはなんなんだ! 勝てない。かてるわけがない。抗おうなどと夢にも思わなかった。夢ならばどれほど良かっただろうか……」
急に喋るね、アスタコイデスさん?
「ラビ君! 君は、君は大丈夫だったのか? 何もされてないのか?」
いや、されてたじゃん、ギリギリとかグリグリとかさ! 日常茶飯事だから特に何ともなかったけど。
「ラビは大丈夫だったぜ」
「そうか、ならば良かった。このアスタコイデス、赤の戦士などと呼ばれて良い気になっていたようだ。鍛え直さねば」
「それならば盗賊団の討伐に御協力お願い出来ませんかな?」
アスタコイデスさんにラシードさんが話し掛けた。どうやら話のいき道が把握出来てきたのだろう。
「盗賊団の討伐だと?」
「ああ、そうだ。ここの主人のグリード子爵が盗賊団と手を組んでいたのだ。今、アジトの場所を家探しして見つけようというところだ。一緒にどうかね?」
「なるほど。盗賊団ということなら討伐せねばなりませんね。しかし、私を盗賊の手先にしようとしていたんですね」
「あなたは腕が立つ。味方に引き入れておきたいと思うのは当然でしょう?」
「買いかぶりですね」
そう言って二人は笑った。ヨクバルさんは屋敷のメイドに指示を出している。主人がいないのにそんなことをしていいのかって事だったが、侯爵が「もう戻らん」って言ってたからそれを言ったらメイドたちが動いてくれたんだって。
そもそも、メイドたちに給金払ってなくて怖かったけど、逃げたらキマイラの餌にするって脅されてたんだって。まだキマイラいるのかな? えっ? オスとメスの二頭だけ? そうですか。どっちの獅子の頭にもたてがみ生えてたけどなあ?




