第50話:いと高貴なる吸血姫
ラビに対しては可愛がりつつも弄りたいみたいな感じです。
何故かあの日に別れて以来のブリジットがぼくを抱き上げてた。一体何が起こっているんだろうか? 夢なのかな?
「夢では無いですわよ。夢とはいえこの妾の美しさは偽物では再現出来ないでしょう?」
あー、間違いなくブリジットだ。懐かしい。それにしてもなんでこんなところに? も、もしかして、グレンに何かあったの!?
「グレンはダンジョンに行ったわ。火山のダンジョンだから妾とエリンはお留守番」
「ブリジット、暑いの苦手だもんね。四六時中文句言って……いてててて!」
「ナマイキなのはこの口かしらあ?」
「いひゃいいひゃいよ、ブリジット!」
ふと見ると突然現れたブリジットとぼくのやり取りに何が起こったのか理解出来ずにフリーズしてるみたいだ。まあワガママプリンセスだもんね、ブリジットは。
「はっ、き、き、貴様! 誰なのか知らんが私の屋敷に突然入ってきてタダで済むと思うなよ!」
「あら、おもてなししてくださるの? 嬉しいわぁ」
「この小娘、どこまで人を愚弄すれば」
「やめよ!」
グリード子爵がブリジットにまくし立てているところにワラキア侯爵の制止が飛んだ。
「ワラキア侯?」
「黙っていろ、貴様は、何も喋るな!」
赤色の眼で睨まれたグリード子爵はヘナヘナと腰が砕けたように座り込んだ。
「お姫様、お久しぶりでございます」
「ワラキア、あんたなのね。全く、二百五十年ぶりかしら?」
「はっ! お姫様にはお変わりなく美しくいらっしゃいまして」
うっそだあ。ブリジットの事、美人とか思った事ないよ? せいぜいが残念美人? というか二百五十年とかブリジットってばとんだババ……
「ラビ?」
「痛い痛い痛い痛い! 頭が、頭が割れちゃう!」
「全く全然ふてぶてしさが変わってないじゃない」
そう言ってクスリと懐かしそうに微笑んだ。あら、確かにこの顔なら可愛いというか美人だね! いつもこの顔してたらグレンもクラっと来るんじゃないかな?
「お姫様、そこのホーンラビットと随分親密でいらっしゃるようにお見受けしましたが」
「そうよ。この子はね、妾のペットなの」
「えっ? いや、いつブリジットのペットになったのさ!」
「グレンのペットなんだから妾のペットも同然でしょうが」
「ぼくはグレンのペットじゃない、相棒だ! ……相棒、だったんだ」
「……そうね、悪かったわ」
貴族の方を見るとワラキア侯爵は顔を青ざめていた。ぼくとブリジットが知り合いだったくらいでどうしてそんなに顔を青ざめさせてるんだろうね?
「ワラキア? なんだったら妾と敵対してみる? だいぶ強くなったんでしょう?」
「は、はは、ご、ご冗談を。お姫様に勝とうなどと千年以上足りません」
「そうかしら? 妾は今人間に使役されて居るから案外勝てるかもしれないわよ?」
「か、勘弁してください。さっきから魂が凍りそうな畏怖をぶつけられているのに、どうして勝てるなどと夢にも思えましょうか?」
ガタガタ震えているワラキア侯爵。畏怖をぶつけてる? そういえば晶龍君も震えてるし、ヨクバルさん、ラシードさん、グリード子爵は気絶してるね。一緒に入って来た騎士たちは動いてるけど動けてない。
「ワラキア、その死霊騎士たち、始末しても構わないかしら?」
「お姫様の御心のままに」
「冗談よ、おバカさん」
ブリジットはそう言うと今度は晶龍君に向いた。
「あなたがヴリトラの息子ね? 大きくなったじゃない。人間形態は初めましてだわ」
「ううっ、勘弁してくれよ。なんなんだよ、あんた」
「妾? 吸血鬼の真祖の中の純血統。真祖の王族、吸血姫よ」
王族!? 王族なの? いやあ、高貴さの欠けらも無いと思ってたけど、ブリジットは王族だったんだ! へぇー。
「ラビ! あんたはもっと妾を敬いなさい! ひれ伏して、頭を垂れて……いや、それだと抱っこ出来ないわね」
そうなのだ。ここに現れてからずっとぼくはブリジットに抱っこされてるんだよなあ。いや、別に抱っこされる事自体はよくあったから慣れてるけどさ。
「まあいいわ。妾の畏怖威圧食らっても動けるのは褒めてあげるわ。精進しなさい。あんたの父君には効かないんだから」
「は、母上には?」
「……父君以上のバケモノを出してくるのは卑怯だと思うわ」
ティアマトさんってそんなになの? いやまあ畏怖威圧って言ってもぼくも動けるし、個体差があるのかもしれない。
「本当に、何故かあんたには通用しないのよねえ」
そう言いながらぼくのおでこをグリグリしてくる。妙に痛いんだけど反発したらもっと痛くなるよね、これ?
「まあいいわ。グレンにバレると問題だからそろそろ帰るわね。ワラキア? 分かってるわね?」
「はっ、お任せ下さい」
「そのうち寄らせてもらうわ。じゃあね」
ブリジットはぼくを下に降ろすとそのまま解けるように消えていった。ワラキア侯爵はずっと去っていった方の空に頭を床にこすりつけるように下げていた。




