第5話:修行の成果
魔物なら親から習うんですが、ラビは習う前にテイムされたのです。
「どうやら行ったようだぞ」
「ありがとうございます!」
「構わんよ。代価はキミの話だ。つまらなかったら腹の足しになるかもしれんがね」
ホーッホッホッホッと鳴くミネルヴァさん。シャレにならない。仕方ない。ぼくが今までここに到るまでのいきさつを話しますか。お願いだから食べないでください。
それからぼくはグレンと出会ってから色んな出会いとそして、最後の別れについて語った。話している最中に涙が出たけど、ミネルヴァさんは泣き止むまで待ってくれたりした。
「……それでこの森に来たんです。すいません、たどたどしくて」
「構わんよ。単なる話ではない、実感の籠ったいい話だった。それにしてもテイマー、それも十匹もテイム出来るとなればかなりな戦力じゃなあ」
「はい、多分、ぼくはよく分からないんですけど」
「しかしフェニックスか。あやつが人の下につくなど考えられん話じゃなあ」
「多分イフリートのおじちゃんかいたからだと思います」
「私の知るフェニックスはかなりの人間嫌いだったはずなのだが」
ええ、フェニックスが人間嫌い? かなりグレンに懐いてたと思うんだけど。
「あやつの尾には蘇生薬の原料となるものが含まれておるからな。それに血を飲めば不老不死も夢では無い」
「それじゃあ」
「ふむ、まあそのグレンというものがかなりな人物なら分からんでもないが」
「グレンはすごいんだよ! 一番近くで見てたぼくが保証する!」
「いや、すごいだろうと言うのは分かるが、しかしなあ」
ぼくの言葉にもミネルヴァさんは何か腑に落ちないことがあるのか訝しげにしていた。
「まあよい、これからどうするのだ?」
「ええと、ぼくは、行くところが無くて」
「故郷は?」
「南の方にある森です。小さい森ですけど。でも、そこの仲間はもう……」
「南か。なるほどな。まあ行ってみてから考えるのも良いかもしれんぞ」
どうやらミネルヴァさんは故郷に帰るのを勧めてくれているみたいだ。ここに、置いてくれないかなあ?
「ここにいれば先程のハイエナのバカどもに捕まるかもしれん。この私も四六時中起きてる訳にはいかんからな」
確かに、奴らハイエナは夜行性だから夜でも追い掛けて来る……あれ? ぼくは昼行性だし、ミネルヴァさんも夜行性だから問題無いのでは? いや、正確には薄明薄暮性っていうらしい。いや、それはうさぎだ。ぼくはホーンラビットだから昼行性だ!
「故郷に帰ってみます。ありがとうございました」
なんだかミネルヴァさんがぼくを帰したがってる気がしたのでとりあえず故郷まで行ってみる事にした。いやまあ長い道のりになるんだけど。
「これを」
ミネルヴァさんはぼくにギザギザな風切羽を一つくれた。
「羽根?」
「そうだ。キミが私の庇護下にあるという証明だよ。それに、掲げてくれれば助けに行こう」
「ぼく、掲げる手がないよ?」
「それもそうか。まあいい、それなら魔力を込めてくれ」
「出来ないよ」
「何?!」
どうやらぼくが魔力を込められないのに驚いたみたい。いや、だって魔力なんか込めようと思った事も無いし。
「はあ、仕方あるまい。魔力が込められるようになるまで出発は延期しなさい。私が教えよう」
「お、お願いします!」
それからミネルヴァさんの特訓が、始まらなかった。いや、ぼくはお昼に起きてるし、夜には寝てるからミネルヴァさんが起きてる時は寝てるんだよね。
「意味が無いと思わんか?」
「でも、眠くなっちゃうし」
「やれやれ。昼夜逆転してしまうが私が寝る時間を遅くするか」
「良いんですか?」
「まあ少しの間の辛抱とする」
こうして改めてぼくの特訓が始まった。と言っても重いコンダラ牽いたり、養成ギプス着けたりとかそういうのはしていない。ミネルヴァさんに言われた通りに身体の中に駆け巡ってる青春……じゃない魔力の流れを感じ取る事から始まる。
実はこれはあまり難しくなかった。なぜならぼくは早く走ろうとしたり、蹴ろうと思った時に足に魔力を集中していたのだ。だからそれを指摘されて意識するようにした訳だ。
「ちゃんとできておるな。まあ魔物としては基本もいいところだが」
「ミネルヴァさん、ありがとうございます!」
「……まだ先は長い。頑張るんじゃ」
次の段階は持ってるものに魔力を流す訓練だ。その辺に落ちている石に魔力を通す。するとその石は魔石と呼ばれるようになる。普通の石ころだとすぐ抜けちゃうんだけど。
「宝石や特殊な鉱石なら保持も長くなるのだが」
そういえばグレンがいくつか持ってた気がする。キラキラ光って綺麗だった。魔石を作れていたらぼくはグレンに捨てられなかったのだろうか?
特訓を始めて一ヶ月程でぼくは魔力の込め方を取得した。なるほど、早いものだ、とミネルヴァさんは感心していた。通常は何年かかかるらしい。別に急いでないからどっちでも良かったんだけど。