第49話:ある吸血姫のお話(ブリジット視点)
一人称は妾
妾はブリジット。伝説のテイマーであるグレンの配偶者よ。ちょっと、なんなのよ、マリー、痛い痛い痛いってば! エリン? 手に持ってるのは木の枝よね? なんかすごくしなってるけど!? 待って止めてよ、葛葉、なんで黙って見てるのよ!
はあ、やれやれ。酷い目にあったわ。単なる自己紹介なのに。そうよね。伝説のテイマーなるグレンは十体の魔獣、神獣などをテイムする事が出来る。今妾たちは丁度十人だ。
本当はここに長くからの仲間で、グレンと一番仲が良かったラビが居たんだけどね。でも、魔王軍との戦いには連れて行けないから泣く泣くみんなで追放したの。
仕方ないじゃない。そりゃあラビだけグレンに抱かれてずるいとか思った事もあったけど、あの子男の子だもんね。寂しさにかこつけてグレンを慰めれば……ちょっと、なんでエリンが枕持って部屋の前に居るのよ?
ふう、長い戦いだったわ。だいたい、夜にこの真祖の吸血姫たる妾が負けるはずないじゃない。どーれ、グレンは……あー、何やってるのよ、葛葉!
「グレンはんが寂しそうやったから身体で慰めるところどす」
「ちょっ、あんた、抜け駆け!」
「おや? ならブリジットはんのそのスケスケなネグリジェは抜け駆けとちゃうの?」
「うっ、こ、これは妾の普段着よ!」
そう、ネグリジェ自体は妾の寝間着だ。ただ、ここまで薄いのは妾も着ていない。正確にはちゃんと闇魔法で見えないように覆っている。
「ブリジット、葛葉、ありがとう。ぼくが落ち込んでるのは気付かれてるよね」
「グレンはん、やっぱりラビ君どすか?」
「そうだね。こんなに寂しくなるとは思わなかったよ。ラビの言葉が分からなくなった時、本当に悲しくてたまらなくなったんだ」
「グレン、妾、ラビを連れて帰ってくるわ」
「いや、やめておこう。ラビはラビで平和に幸せになるべきだよ」
グレンは切なそうに言う。でもね、グレン。妾はもしあなたに捨てられたら心が張り裂けそうになると思うわ。それでも、魔王軍との戦いで骸になるのを見たくないんだもの。そんな事になったら、妾は自分の血を分け与えてしまうわ。
「ラビ君、今頃何しとるんやろうなあ」
「ヴリトラの息子が一緒に居るらしいから大丈夫だよ」
「あのおチビちゃんか? 大きうなったんかな?」
確かヴリトラのところであった晶龍とかいう子どもだろう。相当にちっちゃかった記憶しかないが大丈夫なのだろうか?
「さて、明日は火山のダンジョンに挑むんだ。早く寝ないとな」
「火山か。妾は無理ね。いえ、暑さくらいなら何とかなるでしょうけど力は出し切れないわ」
「まあ影すら焼き尽くすってダンジョンだからね。君とエリンは留守番だよ」
エリンは……まあ確かに。燃えるよね、多分。あの子よく燃えそうな身体してるもの。植物も無いだろうし。
翌日、グレンはみんなとダンジョンに赴いた。妾はエリンと一緒に宿でお留守番だ。
「ブリジットはさ、グレンと行きたかったんじゃないの?」
「足手まといになるなら行かない方がマシだわ」
「ラビも、そうだったのかな?」
「あの子はそんな事考えてないと思うわ。グレンと一緒にいたいってだけだもの」
「そうだよねえ、元気かなあ?」
「きっと元気よ、あの子のことだもの」
どうやらエリンもラビの事を思い出しているようだ。まあ、エリンは特にグレンと冒険者パーティ組んでた時から一緒だったものね。抱っこしてたのは主にマリーだったらしいけど。……さすがにマリーよりは妾の方が柔らかいわよ?
そんな時に妾はラビの事を感じた。この感覚は、妾の血族の誰かに会っている? ラビが? あの子普通に草原を走って帰るって事が出来ないのかしら?
妾たちの血族には人間社会に溶け込んで貴族として授爵している者も多くいる。たかが人間の爵位だ。妾とて前は便利だから持っていた。でも、グレンのそばにいるのに邪魔だから返上したわ。
賢い妾は考えたわ。そうだわ、妾はどうせ留守番なんだかラビの様子を見に行っても大丈夫よね? いや、ダメよ。妾たちは関わらないって。
「街の中に入ったからか見えなくなったんだよね」
は? エリン? あんたラビの事見てたの?
「え? うん、森の中で見てたよ。ミネルヴァに守ってあげてって頼んだから最初の森は安全に抜けてたしね」
ちょっと、ずるいじゃない! 妾だって我慢してたのに! こうなったら血族がそばにいる今がチャンス! ちょっと顔を出して……ん? 血族がラビに敵対してる? ほほう? 妾の大切な友達に何をしようとしてるのかしら? これはきちんと〆ないとね。
「エリン、ちょっと妾ラビのところに行ってくるね」
「えっ、何それ、ズルい! 私も行きたい!」
やかましく叫ぶエリンを尻目に妾は血族のいる場所へと転移した。転移先、床にラビが居る。思わず拾い上げてしまった。
「元気そうじゃないですか、ラビ?」
ブリジット?みたい疑問形の顔をしない!




