第47話:リターントゥホテル
ホテルに戻った彼らを待っていたのは……?
「すごい、すごいよ、晶龍君!」
ぼくはめいっぱいの称賛を込めて晶龍君を褒めたたえた。
「素晴らしいな、助かったよ、ありがとう」
アスタコイデスさんが這いつくばりながら声を出す。うん、なんというか力を出し切って立てない感じ。爆裂魔法を撃つとこうなるって聞いた事がある。いや、さすがに魔法一発撃ったら気絶するとかはないよね。
「ああ、大丈夫か?」
「すまない。ちょっと立てなくてね」
「ちぇっ、仕方ねえなあ。これだから人間は」
そう言いながらも担ぎ上げてくれる晶龍君は優しいよね。
「凄いな、鎧の重さもあるのに」
「大丈夫だってーの。これくらいで潰れる程ヤワじゃねえし」
「全くだ。さすがは龍だな」
そのままアスタコイデスさんは担がれてぼくらの宿とは違うところ、割と高級そうな宿に着いた。
「ここに泊まっている」
「ひぇー、金持ってんだな」
「そうだな。これでも稼いでる方でな。というか下の方の宿だと色々絡んでくる人間が多くて困るのだよ」
ふと遠い目をしたアスタコイデスさん。赤い鎧が目立ってて、この宿に担ぎ込むのも一苦労だった。何故か女性がついてこようとするんだよね。宿に入ったら誰も来なくなったけど。
「お帰りなさいませ。おや、お客様ですかな?」
「はい、すいません。アスタコイデスさんのお部屋を教えてください」
「それには及びません。医務室にお連れしろ!」
「ま、待ってください。怪我とかではなく、疲れからなのでしっかり寝れば何とかなります」
「……そうですか。それは残念ですな。それでしたらお部屋にマッサージを」
「いえ、大丈夫です。それよりも私とこの子たちの分も食事をお願いします」
「かしこまりました」
どうやらご飯にはありつけそうだ。いや、ぼくは特にお腹空いてないんだけどさ。晶龍君は割と限界みたいだし。
アスタコイデスさんの部屋はスイートルームというやつらしい。スイートってくらいだから甘いのかな? ちょっと舐めてみたいよ。前にはちみつ舐めた時はとても幸せな気分になったからね。
「直ぐに食事が来るだろう。楽にしてくれ」
アスタコイデスさんはベッドに倒れ込んだ。ぼくと晶龍君はソファに腰掛けた。まあ腰掛けるってぼくには腰なんかないんだけど。いや、使ってないだけであるのかな? そういえばシルバー爺はしょっちゅう腰が痛いって言ってたっけ。どこが腰なのかは教えてくれなかったけど。
「お待たせしました」
ノックの後に扉が開いてホテルの人が料理を持ってきた。鉄板に分厚く切られたステーキが載っている。晶龍君が飛び上がって喜んだ。
「先日手に入りましたデザートブルの肉でございます」
デザートブル、というのは砂漠をうろつくウシなんだとさ。気性が荒くて近寄るのも難しいそうな。でも、なんか弱っていたらしい。運が良かったのかな?
「……恐らく私がここに来る途中にはね飛ばしたやつだな」
犯人はアスタコイデスさんでした! いや、別に構わないんだけどね。先を急いでいたんだろう。晶龍君を捕まえるために。オマケにぼくも一緒に。
「さあ、いただこう。ラビ君には……そうだな。野菜をあげてくれ」
「え? ラビも肉食うよな?」
食べないよ! ぼくが草食動物って忘れてない? その辺の草とか食べてきてもいいんだけど、砂漠だと食べるものないんだよなあ。
「アスタコイデス様、食べながらお聞きください。グリード子爵よりアスタコイデス様を出頭させるように、と命令が来ております」
「なっ!?」
どうやらさっきのキマイラの持ち主なのだろう。どうやったのかは分からないがぼくたち、いや、アスタコイデスさんを呼び出して貴族に逆らった罪とかで殺す気だろう。許せない!
「わかった。先方には明後日に出頭すると、体力を回復するのにそれくらいはかかりそうだからな」
「分かりました。それまではごゆっくりされてください。いざとなりましたらご領主様に」
「いや、あの老人に心痛は与えたくない。これは私の問題だ」
そうだね、あの領主様とか呼ばれてたおじいちゃんはとてもいい人そうだったもの。晶龍君はステーキを二枚も食べて満足そうにしている。まあ人間世界での出来事なんて晶龍君にとってはどうでもいい事なのかもしれない。
「晶龍君、ぼくたちも力になれないかな?」
「どうしたんだよ、ラビ。情でも移ったか?」
「違うよ、元々はぼくらのせいじゃないか。それに二回もぼくらにキマイラをけしかけた人間に一発お見舞いしたいとか思わない?」
「なんだよ、それ、面白そうだな!」
ぼくらの会話を半分くらい聞いていたアスタコイデスさんは言った。
「おいおいラビ君は一体なんて言ってるんだい?」
「え? あんたを助けたいって」
「本当かい!? ああ、ラビ君は優しいなあ。抱きしめてあげたくなるよ!」
せめて鎧は脱いで!




