第41話:廃屋での戦闘
ラビのセリフはアスタコイデスには全て「きゅー」としか聞こえてません。
ぼくが連れ去られたのはなんだか薄暗いところ。廃屋? まあこういう街には誰も住んでいない家とか普通にあったりするみたいだし。ほら、住めなくなったけど取り壊すにはお金が無いとか。
「おい、どうすんだよ。連れて行くのはあの小僧じゃなかったのか?」
「まあ待てよ。オレたちじゃああの小僧には勝てねえ」
堂々と言ってるけど晶龍君ぐらいの男の子に勝てないのは大人の男としてどうかと思うんだけど? いやまあ晶龍君は龍の一族だから仕方ないけどね。
「ま、まあ、そりゃあそうだけど、それならそれでやり方ってもんが」
「じゃあどうするつもりだ?」
「そりゃあまあ全員で囲んでボコって」
「バカかお前は。そんな事したら赤の戦士にオレたちが殺されちまうよ」
「じゃあお前ならどうするってんだよ?」
「だからこいつよ」
ハゲがぼくを摘んで吊り上げた。
「こいつを餌にして誘き出す。そこに赤の戦士を呼んどくって寸法だ」
「なるほどね。それでそのまま赤の戦士にわたしゃいいって訳か」
「その通りだ。さて、それじゃあ赤の戦士を呼んで来るか」
そう言うと前衛が走って出ていった。赤の戦士というのはラシードさんが会ったという人だろう。そんな人がこの人たちの仲間なんだろうか?
しばらくぼくは大人しくしていた。暴れても仕方ないし、逆に二三発殴られるかもしれないからね。ひ弱な草食動物のぼくには抵抗なんて考えもつかないよ。
「ここに居るのか?」
「え、ええ。こいつを餌にすりゃ出て来ますよ」
「いや、私は別に乱暴に連れ帰りたいわけではないんだが」
そう言って現れたのはチビと赤い鎧を身に着けた女性だった。じーっとぼくの方を見つめている。なんだろう、鋭い視線を感じる。
「お前らここは私に任せてショウ君を呼びに行くがいい」
「え? で、でも」
「聞こえなかったか? 呼びに行って来いと言っている」
赤の戦士の目がキランと光って男たちを睨みつけた。いや、男性四人に女性一人なら男性四人が勝つのでは?
「わ、わかりました! おい、お前ら行くぞ!」
ハゲの号令に全員がそこから慌てて出て行った。赤の戦士がゆっくりと近付いて来て私を睨みつけてきた。もしかしてぼくはこのまま殺されてしまうのだろうか?
「ああああああああああああああああああ! かっ、わっ、いっ、いぃぃぃぃ!」
なんか叫ばれた。そして抱き上げられた。こういう時はこうだ。必殺つぶらな瞳! 説明しよう。必殺つぶらな瞳とは愛らしい外見を利用して庇護欲をそそり、身の安全を確保する必殺奥義である。殺してないから必殺じゃない? うるさいな、もう!
「きゅううううううううう」
声にならない声を上げておく。
「はああああ、可愛いわ」
赤の戦士はぼくを抱き上げてキュッと抱き締めた。鎧に当たらない様に上手く抱いてくれた。マリーよりもよっぽど上手だよ!
「ねぇねぇキミはなんて名前? お姉さんはね、赤の戦士って呼ばれる冒険者で、アスタコイデスって言うのよ」
「ぼくの名前はラビだよ!」
「そうよね。きゅーとしかしゃべれないわね」
ダメだ話にならない。まあぼくとのテイムが切れたグレンでもぼくの言葉はわかってなかったんだからそれは仕方ないか。
「私はね、あなたの飼い主のショウ君を捕まえて送り届ける様に姐さんから依頼されたの。だからショウ君は私が捕まえて連れて帰るからね。あ、もしキミを飼えなくなったら私が代わりに飼ってあげるよ」
どうやらぼくは食肉にされる未来は無いみたいだ。さすがにこのアスタコイデスってお姉さんがぼくのことを食べちゃいたくなるくらい可愛いとか言ってシチューに入れようとしない限りは。
「ラビ、ラビー!」
どうやら晶龍君がぼくを探しに来たらしい。
「来たか。こっちだよ、少年」
「あっ、ラビ!」
「晶龍君!」
「おっと、感動の再会をしているところ悪いが、私に付き合ってくれるかい?」
「オバサンとは付き合わないことにしてるんだよ」
「オバサンじゃあない。お姉さんだ」
アスタコイデスの剣が震えた気がする。手に力は入ってるだろう。
「ラビを返せ!」
「欲しければ力づくで来る事だ。自信があるのだろう?」
「ちっ、待ってろ、ラビ!」
晶龍君はそのまま突っ込んでくる。いや、真正面から堂々と過ぎない?
「突っ込むだけか? 殺さんように手加減はしてやる!」
晶龍君目掛けて剣を振り下ろすアスタコイデス。速い。そうそう見切れないと思う。ぼくとかは目が肥えてるから見えるけど。それでも少し霞んで見える。
「なっ、速い!?」
晶龍君が回避を余儀なくされた。普通の剣速なら振り下ろす前に晶龍君の攻撃が当たってるはず。まだ剣を抜いてすらいなかったのに。
「赤の称号は伊達ではないぞ!」
「くっ!?」
激しい戦闘が始まった。




