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第4話:森の賢者

シルバー三兄弟はシルバー、カッパー、ブロンズの三兄弟です。カッパーの方が上なのは伸ばし棒があるから。

 ぼくか得意なのは追いかけっこでも短距離走だったみたいです。長い時間走ってると疲れるんだ。ほら、うさぎとかめとか言う寓話みたいなの、グレンが話してくれたけど、途中で寝ちゃううさぎは悪くないと思うんだ。だってものすごく疲れるからね、走るの。


 でもまあぼくは他のうさぎよりも長い時間走れるらしい。グレンと色々走り回ってたからかな。トップスピードを維持し続ける事は難しいけど、持久力ならあるんだ。


 でもハイエナたちは種族的に持久力があって、それこそ何時間でも走ることが出来るんだよね。つまり、このままだとぼくの体力が尽きるのが先か、ハイエナたちが諦めてくれるのが先かって話になる。そして鼻面に蹴りをかましたぼくは後者は望めない。


 うん、逃げ方を変えよう。ぼくは手近にあった木に登り始めた。うさぎは木を登る。へいへいほー。これは木を切る時だったかな?


「あ、ちい兄貴、アイツ木の上に逃げましたぜ?」

「馬鹿野郎! 木の上なら登れ、登るんだよ!」

「ええー、ちい兄貴登れます?」

「バカ、オレが登れないからお前に登らせるんじゃねえか!」

「そりゃねえよ。オレだって登れねえんだから」

「ちっ、役立たずめ!」

「ひでえなあ」


 木の下でコントをしているハイエナたちは木を登れない様だ。やれやれ助かった。でも、その程度でこいつらが諦めてくれるとは思わない。何処かに逃げないと。枝を伝う? うーん、落っこちると怖いなあ。


「やれやれ騒がしい。何事かね」


 木のうろからひょっこりと顔を出したのは一匹のフクロウ。それもかなりデカいサイズだ。目がギョロリとしていて怖い。下にいるハイエナたちとは比べ物にならないくらいの威圧感を感じる。


「あっ、あっ、あっ……」

「キミは……ふむ、珍しいな」

「え?」

「いや、なんでもない。私の名前はミネルヴァ。この森の賢者と呼ばれているオールドオウルだよ」


 オールドオウル。何百年も生きていて、女神の眷属とも言われる魔物。いや、話が本当なら神獣と言うべきかな。


「ぼくを、食べますか?」


 こんな強い魔物に食べられるのはある意味良かったのかもしれない。痛くしないでくれるといいんだけど。


「ふむ、若い頃なら喜んで食事にありついたのだろうが、この歳になるとなかなか腹も空かなくてね。それにキミを食べるなんて勿体ない事はしないよ」

「えっ、勿体ない?」


 ぼくは言ってる意味が分からなかった。確かに赤いけど、珍しくもないホーンラビットなのに。それに猛禽類のはずのフクロウが食べないってどういうこと?


「私はね、肉ではなく知識を食べるのだよ。何か知識を提供してくれんかね?」

「知識? ええと、グレンが、ぼくが一緒に居た人間の話してくれた事なら」

「ほほう? 人間の知識とは興味深い。キミはテイムされていたのかね?」

「え? はい、そうです」


 ぼくがそう言うとミネルヴァは楽しそうに鳴いた。大きな声だった。


「ち、ちい兄貴、い、今のは一体……?」

「ひ、怯むんじゃねえよ。メシが落ちてくるまで粘るんだ!」


 ハイエナはぼくが落ちて来るまで粘るつもりらしい。しつこい。しつこいと女の子にモテないってマリーがよく言ってたなあ。でもマリーがグレンにしつこく絡んでたのはムジュンしてると思うんだ。ムジュンは盾と矛とかいう武器。どっちが強いかぶつけたら両方砕け散ったとかで食い違って破綻するって意味らしい。


「下がうるさいな。黙らせてくるか」


 ミネルヴァは大きく羽ばたくと下へと降りて行った。


「おい、ハイエナの小僧ども」

「なんだァ? オレたちをシルバー三兄弟だと知っての……」

「シルバー三兄弟か何かしらんが、私のナワバリで私の眠りを妨げて無事で居られるとでも思っているのか?」


 ミネルヴァは大きく羽根を広げた。その広さはハイエナから見た空を覆い隠す程だっただろう。デカいのだ。まさかこんなに大きいとは思わなかった。


「ひっ!? ま、ま、まさか、あ、あなたは、森の賢者の」

「ほほう、ハイエナと言えど私の事は知っていたか。ならばそれに免じて選ばせてやろう。私の贄となるか、そのまま立ち去るか」

「何を! ちい兄貴はそんな腰抜けじゃ」

「ば、馬鹿野郎! はい、すいません! すぐさま立ち去ります! 本当に申し訳ありませんでしたぁ!」

「えっ、ちい兄貴、あのホーンラビットはどうすんだよ」

「この馬鹿! あんなのとっくにこのバケモノに食われちまってるよ! 兄貴が揃ってても歯が立たない程のお方なんだぞ!」


 ホーッホッホッホッとミネルヴァが笑う。


「バケモノ、ねえ。随分な言われようだ。私は温厚なんだがね。そう言われると傷付くじゃあないか」

「ひ、ひぃ、すいません! 二度と、二度と近付きませんので!」


 そう言うとちい兄貴は弟の首根っこを噛み掴んで、一目散に逃げ出した。こういうのを脱兎のごとくっていうんだろうな。いや、うさぎはぼくだけど。

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