第37話:最強なるもの。その名は……
ラビ君はキマイラよりも強く、おっぱいはラビ君よりも強い。つまり、おっぱい最強。
どうやら晶龍君は何とかしてあのキマイラを倒してくれたらしい。さすがは龍の一族らしい。ぼくが夢中になって向かっていったのも無駄にはならなかった様だ。
「それで、晶龍君はどうやって倒したの?」
「どうやってって、お前……覚えてないのか?」
「うん、気絶しちゃったみたい。倒すところ見たかったなあ」
「そ、そうか。まあ倒し方秘密って事で」
なんだよ、ぼくと晶龍君の仲なのに。教えてくれてもいいじゃないかとは思ったけど、きっとあれだ。拷問された時に話してしまわないようにっていう優しさだろう。
誰が拷問するのかって? やっぱり魔王とかじゃない? ぼくは寿司やらとんこつラーメンやら出されても屈しないぞ! ところでとんこつラーメンってなんだろう? 寿司はあれだよね、魚がご飯の上に載ってるやつ。港町で食べてたよ、グレンが。だってぼくは草食動物だもん。
「ううっ、我々は一体」
「酷い目にあったわ。まあ生きてるだけで大儲けってところかしら?」
ラシードさんとヨクバルさんも起きてきた。どうやら身体に異常はない様だ。意識まで刈り取られていたらしく、何が起こったのかは朧気にしか分かっていない。キマイラが出て来た所まで覚えていたらしい。
「なあショウ君? キマイラはもしかして君が、倒したのか?」
「あー、ええとオレ……ぼくじゃないです。通りすがりの強い人が倒したんだと思います。すいません。ぼくもあまり覚えてなくて」
「いや、良いんだよ。そうか、誰か有名な冒険者でも来ているのかもしれないね」
そう言うとみんなで笑った。で、またキマイラみたいなのが出てくるとまずいのでそれぞれが戻る事にした。ラシードさんは自宅に。奥さんは居ないらしくハサン君との二人暮しなんだそうだ。家の事は時々ハウスキーパーさんが来てくれるんだって。
ヨクバルさんは店の方へ。少ししたらライラさんとドロテアさんの親御さんの所に行くらしい。高名な占い師で今後の事を相談するそうな。
ぼくたちは二人ともに誘われたけど、宿に泊まることにした。正体バレない様に気をつけるにはちょっと個室のないところは勘弁して欲しいんだよね。ラシードさんのところだとハサン君が、ヨクバルさんのところだとナダメルさんが構ってくると思うから。
宿はヨクバルさんの商会が懇意にしてるところらしい。ペット(ぼくのことらしい)同伴でも大丈夫だって言われたからね。晶龍君は部屋に荷物を置くとそのまま食堂に行ってしまった。ぼくはなんかお腹空いてないというか少し満腹気味なので見送ったよ。
夜は晶龍君がお湯を貰って来てくれて身体を拭いてくれた。正直、お湯とかあまり浴びたくないんだけど、乾かしたらさっぱりはするんだよね。
お湯が少なくなると晶龍君がお湯を足した。それなら最初から晶龍君が全部出せばいいのにって思ったけど、宿の人に「お湯を使ったよ!」って思わせないといけないんだって。なんだかめんどくさい。
ベッドはふかふかでグレンと一緒に寝ていた頃を思い出した。いや、硬い地面で寝るのは慣れているし苦にもならないけど、こういうベッド生活が続いちゃうと堕落しちゃうなあ。
翌朝、普通に目が覚めた。夜襲の心配とかしないでゆっくり寝たのはいつぶりだったろうか? 晶龍君、おはよう。ええと、何か眠そうだね?
「ああ、そうだな」
なんか夜中に疲れきったような声を出してる。今日の予定全部キャンセルして休んでた方がいいんじゃないかな?
「いや、早めに決着つけなきゃいけないみたいだからな。ヨクバルさんのところに行くぜ」
宿屋を出てヨクバルさんのお店に行くと店の前で丁稚がお掃除していた。朝早くからごめんなさい。ヨクバルさんをお願いすると訝しげな目で見られていたが、ぼくに目が止まって
「赤いホーンラビット……という事はあなたがショウ様ですね? 話は伺っております。奥でお待ちください」
と奥の部屋に通された。ソファがふかふかで座ると身体が沈みそうになってくる。バタン、と扉が開いて出てきたのはナダメルさん。
「あらあら無事だったのね!」
と言いながら晶龍君を抱き締めた。その位置は晶龍君が窒息すると思うんですよ。その部分、晶龍君の顔に押し当てられてる部分は弾力があるので巧みに呼吸を圧迫しますから。いくら抱き締められてもマリーではあんな風にはならなかったな。むしろゴリゴリって……うわっ寒っ!
「ラビちゃんも無事なのね!」
今度は矛先がこっちに来た。どうかわす? 右か左か? 右にかわしたら晶龍君にぶつかってしまいそう。ここは左にかわす……ん? なんだい、晶龍君? お、ま、え、も、く、ら、え? はぎゅっ!
ぼくの視界が真っ暗になって柔らかいものが呼吸を困難にした。うさぎはそもそも呼吸器官が鼻なので鼻を押し付けられると、こう、苦しくて……あっ、お花畑。ご飯がいっぱいだ。わーい。




