第36話:キマイラ討伐作戦
無双。
「おおりゃあ!」
晶龍君が石を拾って空中に居るキマイラに投げ付ける。石はキマイラに命中して、顔を歪めた様だ。
「やったか?」
あー、ダメ、それ、フラグ。というか石ころ投げるだけでやれる訳ないでしょうに。
キマイラはゆっくりと羽根を羽ばたかせて路地裏へと降りてくる。おそらく多くの人に見られただろうが、魔獣たるキマイラにそんな感覚はないのだろう。
地上に降り立つともう一度咆哮をしたらしい。いや、麻痺咆哮って分かりにくいんだよ。みんな意識が獅子の頭にいくからそれ以外の首て出されると正直わかんないもん。
晶龍君は何とか立ち上がろうとしている。ヨクバルさんとラシードさんは突っ伏したままだ。気絶しているのか麻痺で動けなくなっているだけか分からない。とりあえず戦力にはならないことは確定である。
「龍の一族を、舐めるな!」
晶龍君の身体がオーラに包まれた。ここで元に戻る訳にはいかないので人間の身体でやれるだけのことをやるんだろう。
弾かれるように晶龍君が突っ込む。真正面にある獅子の顔にパンチを見舞う。キマイラは突然の事で対応出来なかったのかまともにそれを食らった。
「どりゃどりゃどりゃどりゃ!」
接近からの短打の連続。マシンガンのような突きにキマイラはたまらず顔を背ける。
「余所見してんじゃねえ!」
逃げようとした獅子の頭を引っ掴んで戻す。またそこに打撃。ダメージは入ってると思う。
「これで、トドメだ!」
晶龍君が大きく振りかぶって、獅子の頭の鼻っ面に拳を叩き込もうとした瞬間、晶龍君の身体がぐらりと崩れた。何事!?
よく見ると晶龍君の死角から蛇の頭が晶龍君に噛み付いていた。キマイラの蛇の頭は猛毒だ。龍の一族だから毒の効きはどれほどのものか分からないが、人間だったら間違いなく即死だ。
晶龍君はぴくりとも動かない。いや、よく見ると小刻みに震えている。ラシードさんやヨクバルさんも動かない。あの蛇の一撃があの二人にも食らわされたらと思うと、ぼくは、ぼくは……許せない!
「晶龍君!」
「らび、に、げろ」
「絶対、助ける。助けるんだ!」
ぼくはキマイラに向かっていった。ツノの一撃を食らわせてやったらあいつが撤退するかもしれない。今はその一撃に賭ける!
ぼくの前進加速はそうザラには見切れないんだからな、ノロマ! ぼくはツノをかざしてキマイラの獅子の顔に叩きつけようとした。しかし、その攻撃は獅子の頭の口に阻まれていたのだ。
「止められた!?」
悲痛な叫びのぼくを放り投げてキマイラは晶龍君の身体に前足を乗せた。服従しろとでも言いたそうなその素振り。キマイラの獅子の頭が晶龍君に食いついた。
「ぐわぁ!」
晶龍君がたまらず悲鳴をあげる。血がぽたぽたと滴り落ちていた。
「うわあああああああああああああああ!」
ぼくは叫びながらキマイラに突っ込んだ。もうツノで一撃とかそんな事は考えてない。一刻も早く晶龍君の身体の上からあのキマイラを除かないと!
ぼくは夢中になって、キマイラの蛇の頭に牙を突き立てた。口の中になんとも言えぬ味が広がる。なんだろう、凄く、美味しい。
キマイラの悲鳴が聞こえる。そりゃあそうだ。三つの頭のうちの一つを食い潰されたんだから。キマイラがぼくに向かって麻痺咆哮を仕掛けてくる。山羊の頭から放たれるそれは大体の生物を麻痺させる。だけど、ぼくには通じない。
ぼくは身体から赤いオーラを立ち昇らせた。キマイラの身体が逆に硬直する。生物の根源的な恐怖。この赤いオーラはそれを呼び起こさせる。動けまい。
ぼくは頭のツノを硬く、長く伸ばす。ある程度の長さなら自由に調整出来るし、硬さも自由自在だ。柔らかくしていい事があるのかって? 柔らかければ相手の攻撃を受け流せるのさ。
「ぎゃおおおおおおお!」
それまで声を挙げなかったキマイラが苦悶の叫びをあげる。そうだろう、苦しいだろう? 逃げ出したくても逃げられないだろう?
まずは山羊の頭。細く長く伸びたそれは首を落とすのにとても容易い。ぼくが頭上のツノで一閃すると、ごとり、と音を立てて落ちた。
「ぎゃおぎゃおお!」
心配するな。お前一人残したりしないよ。ぼくがきちんとあの世に送ってやるから。ぼくはツノを空けっばなしになっている獅子の頭の口の中に突き入れた。
「回レ」
ぼくの合図でツノが高速回転を始めた。螺旋のように捻れて回るツノはいとも容易く獅子の頭を貫いていた。
さて、倒したあとはディナータイムだ。味はまあまあだったからゆっくり頂くとしよう。おっ、この山羊の頭はなかなか美味しいなあ。
「ラビ、ラビ!」
気が付いたらキマイラは居なくなっていて晶龍君が心配そうにぼくを覗き込んでいた。ラシードさんとヨクバルさんは放置されたままだ。良いのかな? あ、晶龍君は大丈夫なのかな、怪我は。再生能力? それなんてチート?




