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第35話:ポンッと出てくるキマイラ

麻痺咆哮、人間には効きます。龍には効きが悪いですが少しは効きます。ラビ君には実は全く効きません。

「秘策、かね?」

「ええ、そうです。言い逃れのしようのない秘策があるのです」

「その秘策とやらを私にも教えて貰えんかね?」

「現場で話しますわ」


 ヨクバルさんは自信ありげに言った。これは本当に何かあるんじゃないだろうか? よくハッタリとかで言っちゃう人がいるけど、あれってバレた時に逆効果だからやらない方がいいよね。


 ぼくは昔、グレンに「ぼくは変身する度に力が膨れ上がる。その変身をぼくは三回も残している。この意味が、分かるな?」って言ったんだけど、嘘だってバレてデコピン食らったよ。ホーンラビットが変身できる訳ないよねえ。


「……わかりました。子爵に逃げられないとなれば捕まえるのは容易いでしょう。しかし、失敗すれば、王都の貴族との繋がりもありますからな。私の様なしがない伯爵位の領主風情ではどうにもならんよ?」

「そこはお任せ下さい。必ずや言い逃れ出来ない様にしてみせましょう」


 そんな感じで領主邸を後にした。晶龍君は何しに行ったんだろう?


「あの、ぼくはついて行くだけで良かったんですか? 留守番してても良かった様な」

「とんでもない。あなたに来てもらわなければいけなかったんのよ」


 ヨクバルさんがショウ君の頭を撫でている。ええと、これはどういう?


「あなたの抱いてるホーンラビットがとても珍しいものだという自覚はある?」

「え? まあ、それなりには」

「そんなものを見せびらかしながら歩いていれば、珍しい物好きの人間にはたまらないでしょうね。そして、グリード子爵はそういう人間よ」


 は? ええと、この人はぼくを見せびらかして歩くために晶龍君を連れ回してたって事?


「つまり、価格交渉に来るってこと?」

「あのね、相手は盗賊団と繋がってる貴族で、あなたはまだ少年なのよ? そんなのまともに交渉しに来るわけないでしょう?」


 なるほど、それでさっきからウロウロと裏道歩いてるんだ。さも襲ってくださいみたいにしてるからおかしいなって思ったよ。


「待ちな、そこのお大尽」


 何度目かの路地裏で一人のチンピラが声を掛けてきた。


「そのガキが抱えてるホーンラビットか? そいつをこっちに寄越してもらおうか? まあそうすりゃ生命までは奪らねえよ」

「そっちのデブは身につけてる宝石やらなんやらを置いていってもらおうか」


 また新手が、今度はぼくらの退路を塞ぐように出て来た。前と後ろ、合わせて十人前後というところだろうか。ラシードさん? ラシードはヨクバルさんを守るみたい。ついでにぼくらも守って欲しいなあ。


「へっ、ちょうど腹ごなしに暴れたいと思ってたところだぜ! 何人でもかかってこいよ!」


 いや、晶龍君? ぼくはそういうの苦手だからね? 逃げるなら全速力で逃げたいよ。ラシードさんはやる気だし、ヨクバルさんも実は強いとかなんだろうか。


 チンピラの一人が殴りかかってきた。ものすごくスローモーな動きだ。ぼくでなくても見逃したりしないと思うな。避けたつもりが殴られた、とかだとかっこ悪いので晶龍君にだっこされたままかわしてもらう。


「ふん!」


 ラシードさんは剣を抜くまでもなく、体術でチンピラたちを圧倒している。これ、単なる小遣い稼ぎのチンピラなんじゃあ?


「ひいい、バケモノだ。話が違うじゃないか。逃げろ逃げろ!」

「ラシード!」

「わかってますぜ」


 そうラシードさんが応えると、一気に走りで間合いを詰めて逃げようとした男を捕まえた。


「話が違うってのは何と違うの? 答えなさい」

「痛え痛え、話す、話すから、助けてくれえ!」


 ラシードさんがねじりあげた腕を放して、男が地べたに突っ伏すと、空の上の方からぎゃあぎゃあと言う声が響いた。思わず頭上を見上げる。そこにはライオンの頭があった。


 あの、こんな街中でライオン? しかも飛んでるし。獅子に翼? いや、あれは虎に翼だし、獅子にはひれだよね。そのうちうさぎに角とか出来ないかな? 意味が変わる? ほっとけ!


 よく見ると山羊の頭と蛇の頭もある。何を言ってるのか分からないって? だって首が三つあるんだもん! 真ん中に獅子の頭があって、その両隣に山羊と蛇。


「キマイラかよ!」


 晶龍君が叫んだ。ヨクバルさんもラシードさんもチンピラどもも動けていない。これは固まってる?


「麻痺咆哮だ。人間には聞こえない音でな。オレだけかよ」


 一応ぼくも動けるけど、ぼくが動けたところで何の役にも立たないよね?


「動けんのかよ。でもまあ戦うえるのはオレだけだろうな」


 晶龍君の額に脂汗が流れる。ええっ、じゃあ晶龍君が勝てるようにぼくは応援しとくよ。というか勝てるよね?


「任せとけ、って言いたいところだけど、正直危ないかもな。親父だったら赤子の手をひねる程度なのに」


 悔しそうに言うからきっと本当に苦戦するんだろう。よし、ぼくのことは庇わなくていいから全力でやっちゃって!


「最初から庇う余裕ねえよ!」


 あるぇ?

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