第32話:商業ギルドへのカチコミ
ギルド長は仕事のできるレディ。
昨夜の件で商業ギルド内部に盗賊との内通者が居ることが分かり、この依頼自体が罠なのでは無いかということで、進むか戻るかを話し合ったらしい。
話し合った結果だが、ライラさんとドロテアさんの占いによって、戻る方がいいという託宣が出たそうな。二人とも一致してるんだって。
それでぼくらも一緒に街まで連れて行ってもらえる事になった。晶龍君よりもハサン君が大喜びしてたよ。なんか晶龍君の事を凄く尊敬し始めたみたいでアニキって呼んでる。いや、血縁関係無いよね?
「アニキはなんでそんなに強えんですか?」
「たくさんしごかれたからだよ」
「アニキはどんな女が好みですか?」
「特に好みとかないよ。そもそも女の子としばらく番になるつもりねえし」
「アニキ、その、女に興味無いなら男は」
「いや、男も興味無いからな!」
なんか別な意味でアニキになりそうな感じがしたけど、まあ大丈夫だろう。ライラさんとドロテアさんも晶龍君を見てかっこいいねって言っている。いや、言ってるのはドロテアさんだけだ。ライラさんはそーだねーって相槌打ってるだけだね。
隊商はそのまま砂漠を進んで三日ほどしたら街に着いた。ホーレイの街というそうだ。そういえばなんかそんなことを言ってた気がする。街の入口で門番に身分証の提示を求められた。晶龍君はショウ名義のやつを予め持っていたらしい。ぼくの分がないって慌ててたんだけど、ホーンラビットには身分証とか要らないらしい。その代わり飼い主がちゃんと保証すること、だってさ。飼い主? あ、晶龍君か!
ラシードさんはヨクバルさんと一緒に商業ギルドに行くらしい。晶龍君も商業ギルドに用事があるんだって。何事だろうか?
バンッと商業ギルドの扉をラシードさんが荒々しく開く。ヨクバルさんが太った身体を揺すりながら入っていく。あの身体で結構動けるのが凄い。
「ヨクバルさん!? あの、ヨクバルさんは依頼を受けてシーサイの街に行ったのでは?」
「ギルド長を出しなさぁい」
「え?」
「聞こえなかったの? ギルド長を出しなさいと言ったのよ? それともあなたもそうなのかしらぁ?」
ラシードさんが腰の剣に手をかける。商業ギルド内に緊張が走った。
「何の騒ぎだ!」
奥の扉がバンッと開いて何人かの職員が出てきた。その一番後ろにキツめのメガネを掛けた女性が居る。群れの一番後ろに居るから恐らく一番偉いのだろう。
「ヨクバル?」
「ミレディーヌ、話があるわ」
「話ならここで聞くわ。だいたいあなた依頼はどうしたのよ?」
「それも含めて話があるのよ。奥の部屋に行くわよ」
「……わかったわ。では、ヨクバルとラシードさん、こちらに」
「この子もね」
そう言うとヨクバルさんが晶龍君を引っ掴んだ。晶龍君がかわせなかった?!
「この子は証人として来てもらいます」
「分かりました。じゃあ中へ。誰も通さない様に」
そう言われてぼくらは言われるがままに奥の部屋に入った。案内されたのはギルド長室。
「ここなら盗聴防止の魔道具があるから大丈夫よ。それで?」
「あん? 意味無くね?」
ミレディーヌさんとかいうギルド長の言葉に晶龍君が口を滑らせた。
「意味無い、とはどういうこと?」
困惑気味にミレディーヌさんが晶龍君に問いかける。
「いや、だってよ。……ほら」
晶龍君はソファに埋まっていた小さな虫のようなものを取り出した。
「これは?」
「盗聴防止の結界を弱める術式みたいなのが入ってるぜ」
どうやら晶龍君は魔法の勉強はしてきたらしい。こういう勉強苦手だと思ってたのに。
『勉強しねえと母上のビンタが飛んでくるんだよ』
なるほど。わざわざ念話で言わなくても。
「なんと……それでは、今までの話は全て筒抜けになっていたのか?」
「そうなんじゃねえ? まあドアの外にちょっと漏れる位だろうけど」
「どうやら間違いなさそうだわ」
「そうよ、ヨクバル、何が起こってるの?」
「この商業ギルドに盗賊団の手先が居るのよ」
「なんですって!?」
ミレディーヌさんの言葉はどっちかというと悲鳴じみていた。こういうのカントクセキニンとか言うらしい。ぼくとブランが街中で追いかけっこして果物屋の屋台を倒した時にグレンが代わりに謝ってたもんなあ。カントクセキニンがどうとかで。
「詳しく教えてちょうだい」
「良いわよ。まず事の発端はセコルが私の店に来たところからよね」
そうして話していると晶龍君が妙にドアの向こうを気にしていた。何やってんの?
『いや、さっきからドアの向こうで何か変な動きしてる奴がいるんだよ。耳当てたり首捻ったり』
晶龍君、それは、きっと部屋の中の話を聞こうとしてるやつだよ! 聞こえるはずなのにおかしいなってなってるんだよ!
『そうか!』
そう言うと晶龍君はいきなり部屋から飛び出した。ぼくはおいてけぼりですか?




