第3話:腹が減っては行くさ!ができぬ
ドラゴンの名前を書いてなくて早速修正しました。いやあ、いきなりのミスにもう顔から火が出そう。
グレンの姿が見えなくなってもぼくはひたすら走り続けた。森の中とはいえ転ける事は無い。走るのには慣れている。でも、もし、ぼくが走るの苦手だったなら、グレンも追い付いて「仕方ないやつだな」なんて笑って連れ戻してくれたのだろうか。
ぼくは今来た道を振り返り、悲しく泣いた。うさぎはぴょんぴょんとは鳴かない。ぼくが泣くのは慟哭だ。
「これからどうしよう」
今までのぼくの人生はグレンと共にあった。これからもずっとグレンと一緒だと思っていた。思っていたんだ。
フラフラと頭が痛くなり、目眩がしたので、水を飲むことにした。水場の位置はよく分からないけど、臭いは何となく分かる。水の臭いを辿りながら進むと小さな池に出会った。
「よし、水を飲んで一休みだ」
うさぎは水を飲まない、なんて話があるみたいだが、あれは野菜に含まれる水分で水を補ってるだけである。水を飲まなくても平気な生き物なんか居ない。イフリートのおじちゃんは水を飲まないと言っていたが、そもそも生き物かどうか分からないしね。
「これから本当にどうしよう」
さっきから同じ事を考えてる様な気もするが、これからどうするのかを決めないと行動出来ない。故郷の森に帰る? いや、確かに南に行けば故郷に着くと思うけど、故郷に戻ったところで親も兄弟ももう居ない。どうしろというのだろう。
池の水面に映るぼくを見る、赤い。他のホーンラビットと違ってぼくは赤いのだ。グレンが言うには突然変異ってやつらしい。でも、そんなのでもグレンのパートナーって気がして嬉しかった。グレンの髪も同じ様に燃えるような赤だったから。
「お腹空いたな」
食べ物はそこらじゅうにある。森の中なのだ。ぼくの食べる草なんて何処にでも生えている。腹が減ると考えが悲しくなる。ぼくは腹ごしらえをする事にした。
ここの草は魔力量が豊富だ。フェニックスが住み着いていた辺りだから魔力が溢れていただろう。それで草とか伸び放題なのかな? 食べるのにはとても都合がいい。
「おいおい、こんなところにメシが転がってるぜ」
「ヒュー、堪んねえな。ホーンラビットは久々だぜ。あいつら直ぐに逃げやがるからな」
「こんな危機感の無いやつなら逃げたりしねえだろ」
とんでもない会話が聞こえた。はっとして周りを見ると、ハイエナが三体、ぼくを囲んでいた。もう既に逃げ道を塞がれているみたいだ。
「おい、アニキ、こいつ赤いけど病気にならねえか?」
「さあな。だけど要らねえってんならお前は食わなくていいぜ」
「そりゃねえよ。食ってみたら美味いかもしれねえしな」
三体を前にして足がすくむ、ということは無いグレンと旅をしていた時はこんな奴ら何度も見て来たのだ。まあもっとも、だいたいブランとノワールで片付いてたりしてたが。あの二頭、強いんだもん。
「たらふく草を食えたか? なら今度はオレたちがお前をたらふく食う番だ」
「悪く思うなよ、弱肉強食ってやつだ。まあ草食動物には分からねえかもだが」
「おっと、チビってくれるなよ? アンモニア臭はあまり好きじゃないんでね」
戦うしかないのか? いや、頑張れば間をすり抜けて逃げる事が出来るかもしれない。でも、こいつら、囲み方が逃げられないようにしてる。
「ようし、最初のひと齧りはオレがするかな」
三体のリーダー格、兄貴分らしい奴がぼくに近付いてくる。警戒は全くしていない。そりゃあぼくは単なるホーンラビットだもん。警戒なんてする訳ないよね。おそらくは恐怖で震えて動けなくなってると思われてるのだろう。
確かに、格上の存在に睨まれたら動けなくなるんだけど、ぼくはその格上ってのがドラゴンだったりリヴァイアサンだったりイフリートのおじちゃんだったりしたのだ。今更なんでもないハイエナ三体なんてビビりもしない。動かないのは、不意をつく為だ。
「食事の時間だァ!」
嬉々として噛み付いてくるハイエナ兄。ぼくは狙いすませた様にその鼻面を蹴り抜いた。
「ぶぎゅる!?」
ハイエナ兄は鼻に強打を受け地面に転がった。かなり痛いのか転がり回っている。こういうのを翻筋斗打つって言うんだろう。ちょっと違う? でもちゃんと空中から一回転して地面に落ちたよ?
「アニキ!? て、てめぇ!」
他の二体のハイエナがアニキを心配したのかアニキに駆け寄っていく。今だ! ぼくはハイエナ二体が駆け寄って空いた穴の所に走り込んでそのまま包囲を抜けた。
「馬鹿野郎! 何やってやがんだ。追え! あいつを絶対食ってやる!」
「よし、行くぞ!」
「待ってよちい兄貴!」
どうやらぼくを追ってくるらしい。追いかけっこなら得意だ。ブランにもノワールにも負けた事は無いもんね。魔法使われたら負けるけど。あと、空飛んでるヴリトラにも。ひと羽ばたきですごい進むんだもん。