第29話:砂漠の家族
まあ隊商ですから身内も居ますわな。
「おい、セコル、やり過ぎだ」
「やれやれ、ラシードさんは黙っててもらいたいですね。これは商人の領分。護衛の口出すところじゃないんですよか」
「だからと言ってぼったくりが過ぎるだろう」
「生命を買うと思えばそんな事も無くなるのでは?」
「ならばお前も生命を買ってみるか?」
そう言うとラシードさんは剣を抜いた。ええと今の流れで剣を抜くの? SATSUGAI予告ですか?
「ひぃー!?」
「俺はな、子どもを利用して私腹を肥やそうとするやつが一番嫌いなんだよ」
「まっ、待ってくださいよ! ここまで旅してきた仲間じゃないですか! ほら、こんな見ず知らずのガキの肩を持つなんてねえ」
「どこまでも下衆なやつだ。一思いにあの世に送ってやる!」
ラシードさんの剣を持つ手に力がこもる。
「ラシードさん、何をやっているのよ?」
「ヨクバルさん」
「あ、旦那様、助けてください」
「セコル、あんたまた仕事サボって酒飲んでたね?」
横から出てきたヨクバルさんに周りの空気が全部もっていかれた。ヨクバルさんはぼくらとセコルを交互に見て、それからラシードさんの方を向いた。
「ラシードさん? 私はあなたに隊商の護衛を頼んだわ。でも、問題を起こしてくれ、なんて事は頼んでないのよ。お分かりかしら?」
「申し訳ない」
「そしてセコル?」
「ひゃ、ひゃい!」
「ラシードさんが何をしたのか教えてくれないかしら?」
ヨクバルさんの睨みを受けて、セコルは身体をぶるぶると震わせながら喋り始めた。
曰く、ラシードさんがぼくらを連れて来たから寝床と装備を見繕っていたのだと。
「セコル、あんたにそんな殊勝なはないわよね?」
「へ、へい」
「いくらで売ったの?」
「金貨、五枚です」
「ぼったくったわね」
やはりぼったくり価格であったようだ。
「まあそれはいいわ」
いいのかよ! まあ取引完結してるからスルーなのかもしれない。
「で その後は何で揉めてたのよ?」
「寝る場所を用意してやるから金を出せって」
晶龍君はそう言うと片手の上に金貨を取り出して言った。
「確かにねえ。テントで寝たいなら金は払ってもらわなきゃだわ」
ヨクバルさんがニヤリと笑って言った。
「じゃあはい、これ」
「ちょっと、金貨なんか渡されてもお釣りは出ないわよ」
「え?」
ヨクバルさんはびっくりした様な顔をした。どうやらこの人は真っ当な感覚を持っているらしい。
「ううーん、いつまでいるのか知らないけど、全部込み込でしばらく居て良いわよ。仕事とかもやらなくていいわ。何せお客様なんですもの」
ぼくも晶龍君もびっくりしてしまった。ヨクバルさんはセコルに向き直ると、睨みつけながら言った。
「セコル、出しなさい」
「な、なんの事で?」
「この子から巻き上げた金貨のことよ。懐に入れる気だったでしょう?」
「い、いや、旦那様、そんな事は」
「私を口先で誤魔化そうと言うの? ラシードさん、悪いんだけど、そいつ、連れて行ってくれないかしら?」
「俺は構わんが……」
「そ、そんな、旦那様!?」
ラシードさんはセコルの身体を抑えつけた。じたばたしてるが動けないみたいだ。ぼくもグレンにやられたことある。ぼくがやってもグレンは平気だったんだよね。ズルい。
「あなた達はこっちよ。ほら、おいで」
ヨクバルさんに手をひかれて少し歩いて大きなテントに着いた。
「ここに居なさい。隊商の家族たちが居るところよ」
ぼくらがテントの入口を開けると、そこには三人くらいの子どもと何人かの女性が忙しそうに動いていた。
「ナダメルは居るかしら?」
「あらあらあなた、どうしたのかしら?」
ナダメルと呼ばれた女性、美しい、と言うよりは優しそうって感じの人だ。所作とかも優雅に見える。でも、今、あなたって……えっ、もしかしてヨクバルさんの奥さん?
「この子たちの面倒を見てやってくれるかしら? お客様よ」
「あらあら、そうなのね。私はナダメル。この隊商のオーナー、ヨクバルの妻よ」
「ショウです。こっちは相棒のラビ」
「まあまあ、可愛いのね。撫でてもいいのかしら?」
許可を取ってからナダメルさんの手がぼくに伸びてくる。撫で方が優しい。グレンの撫で方を思い出す。いや、グレンの撫で方は乱暴だったんだよね。むしろ、ちゃんと撫でてくれたのは葛葉だ。マリー? マリーはひたすら痛かった。というか自分がその方が気持ちいいからっていう理由で力を込めるのはどうかと思うんだ。
「ショウっていうのか? おれはラシードの息子、ハサン。よろしくな」
どうやらラシードさんにはハサンというショウ君と同い年くらいの息子が居たらしい。道理で優しくしてくれると思った。
「私はライラ。よろしくね」
「私はドロテアよ。よろしくね」
残り二人の子どもは女の子の様だ。そっくりだから双子なんだろうな。ハサンがショウ君を歓迎してくれた気持ちが分かる気がする。




