第28話:オー、私のトモダチ! 売ってるものを見ますか?
ぼったくってますが品物の品質はいいものです。
ラシードさんに連れられて晶龍君と一緒に商品が置いてあるテントへ。中ではワイワイ騒がしく人たちが歓談していた。こんなに沢山の人を見るのは久しぶりな気がする。
グレンと一緒の時は最初の方こそ街でワイワイやれてたけどヴリトラとかが加わってからは街の外にみんなで待機することが多かったからね。
街中は女衆がかわりばんこに入ってたよ。ジャンケンの様子は鬼気迫ってた。ぼくは最初から割と一緒に居たんだけど、女性陣の間に入ってこないで欲しいっていう要望に応えた形だ。
まあその代わりにヴリトラやシルバー爺と過ごす時間が増えたんだけど。イフリートのおじちゃんも加わったら更に賑やかになったよね。
どうやら隊商の人間は酒盛りをしてる様子。陽気に歌まで歌ってる人も居た。ぼくはラシードさんと共に一軒のテントに入った。
「居るかい?」
「居ないよ」
中からそんな返事が返ってきた。いや、返事が返ったなら居るんじゃないか。それとも呼んだのは誰か別の人なのかな? いや、名前も言ってないしね。
ラシードさんは構わずテントを開いた。中では赤ら顔の青年が酔っ払っていた。
「おいおい、飲んでたのかよ。荷物番じゃねえのか?」
「こんな砂漠の真ん中で誰が襲って来るって言うんだよ。今噂の盗賊団か?」
「警戒はしとけよ」
「いやいや、ラシードが居るなら大丈夫だろ」
このラシードさん、どうやらかなり頼りにされてるみたいだ。
「この子たちの装備を見繕ってくれ。砂漠を越えるやつだ」
「はあ、まあいいけどよ。うちの子たちの装備のあまりくらいしかねえぞ?」
「分かってる。それでも頼む」
「しゃあねえなあ。じゃあ坊主、ええと、名前は?」
「ショウです」
「そうか。こっちに来な。身体に合うように調整してやる。で、金は?」
「俺が出す」
金銭的なものをラシードさんが出すと言うのでびっくり。
「えっ! いや、あの、お金なら持ってますし」
そう言って晶龍君は懐から何枚かの金貨を手のひらに載せた。いや、だから! そういう事をするなって言ってんだよ!
ラシードさんと飲んだくれの顔が明らかに変わるのがわかった。ラシードさんは蒼白、飲んだくれはなんか嫌な感じ。
「ラシードの旦那。こりゃあボスに言わないといけないんじゃないですかい?」
「セコル、さすがに子ども相手にアコギな真似は」
「分かってないですね、これだから商人じゃない人は。金を持ってりゃ誰だってお客様ですよ。ねえ、坊ちゃん?」
さっきまでは「坊主」だったのが「坊ちゃん」に変わっている。このセコルとかいう人は年齢ではなくお金で人を判断する人らしい。それでも貧しい人に対する優しさみたいなのは見て取れたから悪人という訳では無いだろう。
「ぼくはお金は払います。だから装備を売ってください」
「ここは砂漠だ。そして装備はあまり余裕が無い。高くつきますよ?」
恐らくふっかける気だろう。でも仕方ない。交渉術なんて持ってないのだ。晶龍君はぼくよりも酷いと思う。
「まずは砂漠を歩くための靴に……」
セコルは一点一点勿体付ける様に取り出した。そして全て合わせて金貨十枚。さっき晶龍君が取り出したのは金貨九枚だった。これは払えなかったらどうするか。いや、払えなくても資金の底を見たくてふっかけているんだろう。でも晶龍君は貨幣価値がイマイチ分かっていない。
「十枚だね。はい」
あっさり渡してしまった。躊躇すら見えない。そりゃそうだよね。晶龍君にとっちゃあこの程度、「床に落ちてたものを適当にあげた」だけなんだもの。
ほぼノータイムに出てきた金貨にセコルもびっくりして、そしてニヤリと笑った。
「なあ、あんたら寝る場所はどうする気だい?」
「寝る場所ならその辺でいいよ」
「いやいや、砂漠の夜を舐めちゃいけねえ。かなり寒くなるんだぜ?」
そりゃ知ってるよ。昨日も寒いところで寝たんだ。まあ晶龍君は寒暖差には強いからなんともなかったけど。ぼく? ぼくはほら、鍛えてるからね。グレンと一緒に過酷な環境下で暮らしたものさ。
まあなんというかぼくも環境適応能力はそれなりに高かったりする。草が生えてないのは勘弁して欲しいけどね。
でもそんなことを言っても見た目的にはひ弱そうな商人の息子とそのペットのホーンラビットなんだもんね。
「金貨五枚で快適な寝床を用意しますよ?」
高い高い高い! なんだよ、金貨五枚って! 一年は普通に暮らせる額じゃないか。晶龍君、出そうとしちゃダメだよ!
「た、高すぎないか?」
ぼくが頑張って体当たりしたのに気付いたのか晶龍君はやっと難色を示してくれた。やれやれ。
「安全を、生命を買うんだ。安いとは思わんだろ?」
「確かに」
安くは無いのは分かってるけど、高すぎなんだってば! ああ、どうしたら伝わるんだろうか?




