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第26話:昼の砂漠を遥々と旅のうさぎが通りました

ラビくん、覚醒? いいえ。

 晶龍君と一緒にあの酪農の村から逃げ出して数日が経っている。さすがに走り続けるのは疲れるので晶龍君を乗せて走った距離はそんなに長くない。まあ草原エリアは抜けて来たのでかなりなアドバンテージは稼げたと思う。


 草原エリアを過ぎたらどこかって? うん、実はね、砂漠エリアなんだ…… 砂漠だよ、砂漠! 昼間は暑いし、夜は寒いし、本当に最悪の地形だよ。まあなんというかオアシスを辿りながら進んでるわけですが。


 晶龍君がね、水のある場所が何となくわかるんだって。さすが水の眷属。いや、龍は必ずしも水の眷属ではないんだけど。ヴリトラは火と水の眷属だし、ティアマトさんは水と風の眷属らしい。だから晶龍君は水が今のところ色濃く出てるんだって。


 で、ぼくですが、草がありません。お腹空きました。なんというか砂漠だからって草すら生えないのはどうかと思うんですよ。皆さんは砂漠って言うと辺り一面砂だらけみたいなのを想像するのかもしれませんが、ここの砂漠は違うんです。岩山なんです。むしろ砂の砂漠は全体の一割程度らしいです。


「メシ、獲ってきたぞ」


 晶龍君が獲って来たのは砂漠に住んでる甲殻類、サソリと呼ばれる動物だ。昆虫じゃないかな? 食べるところあるの? えっ、殻は硬いけど中身は美味しい? そ、そうなんだ。ぼくは肉食じゃないから晶龍君が食べてよ。


「何言ってんだよ。選り好みしてる場合か?」


 ででででも、ぼくは草食動物だから胃が受け付けないと思うんだよね。晶龍君の気持ちは嬉しいけど。


「いいからつべこべ言わずに食えよ!」


 そう言いながら殻ごとバリバリ食べ始める晶龍君。あれ? 殻は剥かないの? 歯応えが足りない? そうですか。


 ぼくは砂漠の間はご飯我慢して、オアシスで沢山食べようと思います。口の中に草の感触を思い出してもぐもぐすれば唾液でお腹がいっぱいに……いっぱいに……いっぱい……なる訳ないじゃないか! うわぁーん。


 ふと目の前を見ると晶龍君が食べ残してる、というかぼくのために取っておいてくれてるサソリがあった。ううっ、殻までちゃんと剥いてくれてる。案外こまめだよね、晶龍君。


 ぼくはゆっくりとサソリに近付いてパクリ、と口に含んでみた。口の中に広がる甘味な感触。ぼくはその美味しさに夢中になった。




 美味い。美味い。美味い。肉が美味い。力が湧いて来るようだ。前に食べたことがある様な気がする。夢中になって食べていると何か地面から地鳴りが聞こえた。


 岩石を押し退けて現れたのはデカいサソリ。いや、上半身が人間のような姿をしている。手には鎌のようなものを持ってる。こっちを見てる。なんだろう、こいつはぼくを捕食しようというのだろうか。今なら見逃してやるから逃げてもいいんだぞ?


 デカいサソリ人間は鎌を振り上げて威嚇してくる。困ったやつだ。このままにしてはおけない。なら仕方ない。ぼくが相手をしてやる。ちょうど食い足りないと思っていたんだ。


 デカいサソリ人間はぼくに向かって鎌を振り下ろしてきた。遅い遅い。あくびが出るようだ。そんな攻撃じゃ何万回振ったところでぼくには当たらない。少し遊んでやるか。ぼくは全身の気を放出した。ぼくの身体から赤いオーラが立ち上る。サソリ人間はビクッと身体を震わせて動けなくなった。やれやれ、逃げることも出来ないか。


 ぼくはゆっくりと近付いてそのサソリ人間の顔を眺めてやる。恐怖。その顔を支配しているのは恐怖だ。今までは砂漠で無敵だったか? 残念だったな。これ以上長引かせるのも可哀想だ。いっそひと思いにトドメを刺してやろう。


 ぼくは素早く角を振るうと、サソリ人間の首が飛んだ。そして彼は崩れるようにその場に倒れた。さて、捕食の時間だ。ちょっとサソリでは物足りなかったところだ。ぼくはそのままサソリ人間に噛み付いた。




「ラビ、ラビ、大丈夫か?」


 晶龍君の声で目が覚めた。どうしたの?


「はあ、良かった。見ろよ、夜中にこんなデカいサソリが来てたみたいなんだ」

「わ、わ、わ、こんなに大きい……ん? でもなんかところどころ齧られてない?」

「分かるか? つまり、もっと大きいやつが迫っていた可能性もあるんだ」

「ひゃー、そりゃあ危ないところだったね。ぼく達が食べられなくて良かったよ」


 晶龍君はぼくの方をじっと見つめた。だ、ダメだよ、男の子同士だなんて。ぼくらの間にあるのは友情なんだから。それに許嫁も居るんでしょ?


「なあ、調子はどうだ?」

「一晩寝たらお腹すいたのもどっか行っちゃったみたい。オアシスまではもつと思うよ」

「そうか。今日中には着けるはずだからな」

「わーい、楽しみ。さあ、行こうか!」


 そしてぼく達はその場を離れた。大きいやつがいたなら、例えぼくらが標的でなかったとしても逃げておく方が安全である。もしかしてサソリ人間を食べたからお腹いっぱいになって見逃してくれたのかもしれないからね。目指せ、オアシス!

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