第25話:ギラファの追っ手(ギラファ視点)
父親、娘、と来たら母親でしょう。
私はギラファ。元冒険者で今ではこの村の村長をしているゼブラの妻よ。まあ私がこの村の村長の妻になったのには理由があったのよ。それはね、膝に矢を受けてしまったから。
なんだそれ? とか、それなら衛兵じゃないのか? とかよく言われるけど、私は魔術師だもの。魔物と戦ってる時に慌てて撃った風の矢が私の膝に直撃したのよ! あまりの間抜けさにパーティメンバーが全員呆れた顔で私を見てたわ。そんな顔で見ないでってば!
それでパーティメンバーに追放されてしまった私。まあ「もうヤダおうち帰る」ってダダこねてたのは私なんだけど。そんな失意の私を慰めてくれたのがゼブラだった。当時は村長の息子ってだけのドラ息子で冒険者になるって騒いで私たちの周りをうろついてたわ。
そんな彼が私の醜態を見て冒険者になるのを諦めて村長を継ぐことになったそうなんで、私はそれならと無理矢理滞在して既成事実を作ったのよ。それでウヤムヤのうちに村長夫人に収まったって訳。ちょっとやり方はアレだったけど、今では彼ともラブラブだから問題無し。
で、私たちの娘のファベールが、新しく訪ねてきた家出少年のショウ君に目をつけたので母親としては応援しなくちゃね。薬を盛る? それならちょうどいいのが残ってるわ。効果は実証済みですもの。ねえ、あなた?
ファベールが部屋に入って少ししたら入ろうと二人で待機していた。そのまま流れに任せて既成事実作っちゃった方が早いのに、ゼブラったら娘を傷物にはしたくないですって。
男親ってめんどくさいわよね。私の父も私が学校卒業して冒険者になるって出ていった時はいつ死ぬかも分からないのにそっぽ向いてたのに、私が娘が出来ましたってお腹を大きくして行ったら傷物がどうとか叫んでたんだもの。
ファベールがショウ君の部屋に入ってから少し時間が過ぎた。そろそろベッドで同衾状態になったかしら。
「そっ、そこをどけぇ!」
あら、ショウ君の声だわ。薬が足らなかったかしら? でも痺れて動けなくなるはずなのになんで無事なのかしら、ねえ、あなた? あら、居ないわ。
あらあらドアの前に駆け付けてる。そう思ったらドアが開いた。そこにはショウ君と抱えられたホーンラビットが居た。動けているのはびっくりだ。
「あ、お前、うちのファベールに何を」
「何もしてねえよ!」
「そうはいかん。娘をキズものにされた罪、償ってもらうぞ!」
もう勝手にキズものにされたことにしてる。そういうことならそうなんでしょう。あなたの中では、ね。
そのままするりと私たちをかわしてショウ君は扉へと迫る。私は魔術師だから身のこなしには自信が無い。だから魔法で動きを止めようと思うのよね。見よ、この主婦になってから暇な時間に練習していた研鑽の成果を!
【風の矢】
いや、矢だと怪我させちゃうかもしれないなあ。でも大丈夫。私の矢は膝に当たってもタンスの角に小指打ち付けた位のダメージしか無かったから!
「よし、ラビ号発進だ!」
「キュウウウウウウウウウ」
えっ? あんな小さいホーンラビットに乗った!? いくらショウ君が小さいからってそんなサイズが……走った!? 何あのホーンラビット! 私の現役時代にもあったことない! いや、私の現役時代ってそんなに長くないけど。
私は呆然としながら去っていくショウ君を見てるだけだった。そこにファベールとゼブラが降りてくる。
「どうだった?」
ゼブラの言葉に私はゆっくりと村の外を指差す。呆気に取られているうちに策を跳び超え、外に出てしまったと伝えた。
「あーん、私の王子様だと思ったのにー」
「ファベールをキズものにして逃げるなど許せん!」
あなた、多分キズものにする時間すらなかったわ。私だって一晩かけてあなたを……あ、いえ、昔の話は良いわね。しかし南の方に行くなら一応行方は探してもらった方が良いのかもしれないわね。親御さんも心配しているでしょうし。
北の街から来る商人の人に家出した子どものいる商家はないかというのと、その子が南に逃げたとでも伝えておけば謝礼金くらいはあるかもしれない。はっ、でも薬を盛った事が知られるのもまずいわね。ここは知り合いの冒険者……私の元仲間に探してもらいましょうか。
「という訳で来てもらって悪いわね」
「あの、姐さん。私ら小間使いじゃないんですけど」
「つべこべ言わないで協力しなさい! シチューくらいなら食べさせてあげるから」
「街ではゴブリンスタンピードの対処にてんてこ舞いなんですよ」
「なんですって! 大丈夫なの?」
「今のところは。ルフィアナたちが頑張ってるから」
「あの子たちかあ。大きくなったわね」
「姐さんが育てたみたいな顔しないでくださいよ」
「うちの牛乳で育ったんだから私が育てたのよ」
「師匠って訳でもないのに。まあ探しておきますよ」
そう言って私の元仲間、歴戦の戦士のアスタコイデスは南へと旅立ったのであった。本当に大丈夫でしょうね?




