第23話:大草原の小さな村(村長視点)
一話で書ききれなかった……
この草原の村では北にある街に卸す牛乳やチーズなんかをつくっている。酪農が特徴の小さな村だ。偶に商人が行商に来たりするが、泊まることも無く帰って行く。当然だ。うちの村には何の面白味もないのだから。
「ごめんください」
その子が来たのは昼から夕方になろうかという時だった。妙に身なりがいい。第一印象はそんな感じだ。村の子どもでも見た事ない。衣類が上等なのだ。胸にはホーンラビットを抱いている。しかも赤い。獲物だろうか? 金をせびりに来た?
「なんじゃな、あんたらは?」
「ぼくは旅をしてるショウってものですけど、この村に泊まれる場所ってありませんか?」
「ふん、余所者を泊める場所などないわい」
言葉通りだ。泊めてやれる場所なんぞない。子ども一人なら泊めれなくもないが、どう見ても「訳あり」だ。面倒事には巻き込まれたくない。
「まあまあ、タダとは言いませんので」
そう言うとその子、ショウ君は私に何かを握らせた。ゆっくりと手のひらを見る。金貨だ。驚いてショウ君の顔を見る。金貨一枚あれば街なら一月は暮らせる。何者だろうか。思わず声が出た。
「こりゃあ……」
「どうですか?」
ショウ君はこっちを見つめてくる。これだけ払うんだから口止め料も、という顔ではない。泊まれるかどうか心配してる顔だ。この子は危うい。おそらくは家出なんだろうが、貨幣価値も分かってないなら出歩くべきではないと思う。
「いやあ、さすがに村の中には宿屋とか無くてね。でもこんな子どもを無碍にしたとあっちゃあ寝覚めが悪い。どうだい、ここは一つ、うちに泊まるっていうのは?」
「良いんですか? ありがとうございます!」
心底嬉しそうだ。やはり価値を理解してないだけだろうが、一応分かってるかどうかをカマをかけてみよう。
「それでだねえ、うちも夕食とかベッドの準備とかで入り用になるんだけど、もう少しお金を持ってやしないかい?」
「ええと、あんまりないんですけど、じゃあこれを」
また金貨を出してきた。これは確定だ、貨幣価値が分かってない。おそらくは胸に抱いているホーンラビット辺りが原因なのではないだろうか。赤くて珍しいから飼いたいとでもわがままを言って反対されて……微笑ましい話だ。思わず顔が緩んでしまう。おっとダメだダメだ。こんな子が何処に行くのか分からないがこのままにはしておけない。
「ありがとう、じゃあ上がっておくれ。部屋は直ぐに準備するからねえ」
私は金貨を持って妻のギラファの所に行った。妻は台所で夕食を作っていた。
「おい、お前」
「なんですか、あなた? 食事の盗み食いですか?」
「いや、その、もう一人分増やせんかね?」
「はあ、まあ今夜はシチューですからそんなに難しくはないですけど。何かありました?」
「実はな」
私は妻に今来たショウ君の事を話した。妻はうーん、と唸ってからこう言った。
「説得して帰すのが一番でしょうが……おそらくは無理でしょうね。せめてどなたの息子か分かれば連絡が取れると思うんですけど」
「そうだよなあ。どうするか」
そこに駆け込んできたのは娘のファベールだ。歳の頃はショウ君よりも二、三歳くらい上になる。まだまだお転婆な娘だ。
「ねぇねぇ、あのかっこいい子って誰? あと、抱いてるホーンラビットも可愛い!」
「あの子はショウ君と言ってね、どうやら商人の息子だが家出してきたらしいよ」
「商人の息子なんだ。そっかー。私、お嫁に行くならあんな人がいいな」
娘が常日頃村の若者に対してあまりいい感情を持ってないことは知っていた。だから将来的にはむらから出してやりたいとは思っていたが。
「そうか、お前がその気なら頼んでみようか。親の商人の方も家出するような息子なら早めに結婚させた方が落ち着くと思うだろうし。それに既成事実でもあれば断れまい」
「キセイジジツ?」
「まあお前は気にしなくていいよ。となればギラファ、あの子の食べ物に薬を入れてくれ」
私がギラファに言うとギラファはびっくりしたようだった。子どもに薬を盛るという判断をしたことに。
「何故ですか?」
「まず、普通に説得してもここまで家出して来るような子だ。芯がしっかりしてるだろうから説得には応じてくれんだろう。となると、少し卑怯ではあるが娘に手を出したという体を作りたい」
「という事はファベールをキズものにするつもりですか?」
「いや、そんな事はさせん。寸前で入り込もう」
それを聞いていたファベールはのんびりと言った。
「私はショウ君ならキズものにされてもいいけど?」
「ダメだ! 結婚が決まってからにしなさい!」
結婚せずにキズものにされたのではうちの娘が可哀想じゃないか。まあショウ君はヤり逃げする様には見えないんだが。
そうこうしてるうちにご飯の用意が出来た様だ。ショウ君を呼んでこよう。




