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第22話:愛からの逃避行

走る走るオレたち、流れる景色も気に留めず。

 ぼくはもぞもぞと暴れるとベッドの中から抜け出した。


「あん、やだもう。逃げちゃったわ」


 ファベールは自分もベッドから降りるとぼくに近付いてくる。困った。普通なら蹴り飛ばして逃げるところなんだけど、そうすると十中八九当たったところの骨を砕く自信がある。こう見えて手加減は苦手だ。というか自然界でぼくが手加減しなきゃいけない相手が居ないんだよ!


 で、このファベールの骨を砕いたら、間違いなく責任は飼い主の晶龍君……いや、ショウにいくだろう。飼い主とかちょっともにょるけど設定だからね。ぼくは誰にも飼われない。グレンは飼ってもらってた訳じゃなくて、相棒だからね!


 かといってここは部屋の中だ。窓は開いてるけどぼくの身体が出るにはちょっと小さい。つまり、どこかを壊さないと脱出出来ないんだよなあ。そして、そうやって脱出したとして、晶龍君が取り残される。ぼくが逃げた分の負い目、まあ正確にはぼくが家を壊した負い目かな。それを背負って。


 晶龍君も逃げるなら全然問題ないし、直ぐにでも逃げるけど、晶龍君はそれを良しとしないだろうなあ。


「私ね、あなたみたいな可愛いペットが欲しかったの。ショウ君もかっこいいし、お嫁さんになってあげてもいいかなって。村のガキたちはどいつもこいつもバカばっかりだし」


 ファベールは調子に乗って喋ってる。誰に聞かせるというわけでもなく、自分の世界に入っているんだろう。彼女の夢は行商人に見初められて大店おおだなにお嫁入りする事みたいだ。ああうん、顔だけは十人並よりは少し上かな。グレンに言いよってきてた町娘程度だね。


 まあぼくの場合は審査基準がブリジットと葛葉くずのはだから厳しくなってるかもだけど。お願いだからどっちが綺麗か聞くのはやめて欲しかったよ。


「心配しないで。痛いことはしないから。ただ一緒に寝るだけよ」


 まあ一緒に寝るだけ、というのはどうかと思う。グレンが寝てる時にブリジットと葛葉だけでなくてマリーとエリンも忍び込んでベッドに入ろうとしてたからね。戦闘してる時より殺気に満ち溢れていたもの。一緒に寝て何をするのかは知らないけど、コウノトリだかペリカンだかがキャベツ畑から赤ちゃん運んで来るとか。


「なんだよ、ラビ、うるせぇなあ。おちおち寝てられ……」


 晶龍君が眠そうに目を擦りながら起き上がった。そして部屋の中を見る。ぼくと目が合った。うん、ぼくは視線をファベールに向ける。


「あら、起きちゃったの? お薬足りなかったかしら?」


 お薬!? 今、お薬って言った? いや、それが龍に効く代物なのかは分からないけど、つまり、薬盛ったの?


「どっちにしても上手く動けないでしょ? 身体が痺れてるはずだから大人しくしててね」

「そ、そこをどけぇ!」


 晶龍君はにじりよってくるファベールを押しのけてぼくを掴むと、そのまま部屋を出た。そこには夫婦が駆け付けていた。起こしちゃったかな? いや、多分起きて待ってたんだ。


「あ、お前、うちのファベールに何を」

「何もしてねえよ!」

「そうはいかん。娘をキズものにされた罪、償ってもらうぞ!」


 どうやら問答無用らしい。そりゃあそうだろう。嵌める気満々だったんだから。


「ラビ、逃げよう」

「晶龍君、ぼくに乗るかい?」

「いや、ラビが潰れるだろ!」

「うーん、なんだか大丈夫な気がするんだよね」


 そう、サラマンダーの一家と別れてから身体に力が漲ってる感じなんだよね。そりゃあ大きさ的には晶龍君を乗せるのはしんどい様に見えるかもだけど。


「わかった。頼む」

「オッケー」


 ぼくは背中を差し出した。そこに晶龍君が乗っかる。うん、重さ的には大丈夫。あ、耳は掴まないでね。ちぎれちゃうかもしれないから。


「よし、ラビ号発進だ!」

「ええと、アイアイサー!だっけ?」


 ぼくは晶龍君を乗せて走り出した。身体が軽い。村の入口のゲートを難なく飛び越えた。そのまま草原を走って進む。夜の草原は正直見通し悪くてあまり走りたくない。でも今はそれどころじゃないからね。


 しばらく走って後ろを見たら追ってくる人影は居なかった。どうやらこちらにそこまで執着はしてなかったのかもしれない。いや、違うな。きっと探したけど見つからなかったとかそういうのだろう。


「ふう、よく分からんけど助かった。なあラビ、何があったんだよ」

「あのファベールとかいう娘さんがショウ君の嫁になりたかったんだって」

「はあ? オレは嫌だぞ? 第一、オレには許嫁が居るからな」

「えっ? うそ、そんなの初耳なんだけと? 誰、誰?」

「いや、言ってもわかんねえやつだよ。今度紹介してやるから」

「本当?」

「ああ、親友だからな」


 そんな事を話しながら東の空を見たらもう既に白み始めていた。今日も一日が始まる。

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