第21話:金銀財宝(銅貨は除外)
うん、宝物殿に無いよね、そんなに。
晶龍君に問い詰めると、貨幣価値を理解していなかった。いや、希少なものほど高価だというのは分かっていたのだが。
「金貨なんて適当に床に転がってんだから価値ねえだろ? 銀貨はまあまあ少なかったし、銅貨とか見た事なかったからな。だから銅貨が一番高いんだろ?」
晶龍君の生活環境を考慮に入れる必要がありました。そりゃあ龍の宝物殿に銅貨とかある訳ないですよね。龍って光り物を好みますもの。使う為に貨幣を集めてるんじゃないしね。
金貨はキラキラ光るし、銀貨もそれほどではないけど光る。流通の関係で銀貨は手垢がつくと光らなくなるので、必然的に光ってる枚数が少なくなる。銅貨なんて出来たてでもそんなに光らないもんね。
「旅に出るのに人間のお金が要るって言ったら母上がその辺の拾って持って行けって」
ティアマト様も適当だなあ。あ、ヴリトラからティアマト「様」って付けなさいって言われてるからそう呼ぶよ。
「しかし、金貨程度であんなに喜ばれるなんてなあ。あれでもダメなら虎の子の銀貨を使わなきゃいけなかったよ」
龍なのに虎の子とはこれ如何に? いや! 銀貨の方が価値低いからね! 金貨とか一枚あれば田舎だったら四人家族が一ヶ月は暮らせるってグレンから聞いた事がある。
「さあさあ、お坊ちゃん。ご飯の用意が出来ましたよ」
さっきの気持ち悪い笑みのおっちゃんが迎えに来た。テーブルに通されると、そこには女性が二人。一人は大人の女性で立って料理を運んでいる。もう一人は晶龍君よりも少し年上っぽい子で興味深そうに晶龍君の方を見ていた。
「ワシの妻のギラファと娘のファベールです。申し遅れました。ワシはこの村の村長をしておりますゼブラと申します」
「あ、ぼくはショウです。この子はぼくのパートナーでラビって言います」
ぼく?! 晶龍君、今ぼくって言った? なんかこう背中の辺りがムズムズしてくるんだけど。
「ねぇねぇ、その子可愛いね。私に抱かせてくれない?」
「ええと、ぼく以外には懐いてないので」
ファベールさんがぼくを指さして晶龍君にオネダリしていた。晶龍君は渡す気は無いみたいだけど。
「意地悪なのね。まあいいわ」
「ファベール、やめなさい。ショウ君、失礼したね。申し訳無い」
「あ、いえ気にしてないです」
それから食事が始まった。食卓の話題はショウ君の身の上話。晶龍君のって言わないのは晶龍君が話してる「設定」がそうなってんだなって事。
「ぼくは商人の息子だったんですけど、父から世界を見て来いって追い出されて。お金はそれなりに持ってたんですけど、直ぐに無くなるので働かなきゃなって思ってたところです」
「これからどうするのかね?」
「街の方に行ってみたいと思います」
「この辺で街と言うと北の方にあるやつか」
「いえ、南の方で探してまして」
「そりゃあだいぶ歩く事になるぞ?」
晶龍君は情報収集をしてるのかな? 貨幣価値以外はちゃんとやれそうではある。
「ねぇねぇ、その子、私が買ってあげようか?」
ファベールさんがキラキラした目でぼくを見て来ます。なんというか、ちょっと、怖い。
「いえ、ぼくのパートナーですので一緒に連れて行きます」
「街に行くんならそういうペットは連れて行かない方が仕事にありつけるぞ?」
「ありがとうございます。でも良いんです」
晶龍君が断ってからもファベールさんの視線はぼくに注がれ続けた。なんか怖い。
「じゃあこの部屋を使ってくれ」
「ありがとうございます」
食後に晶龍君が案内された部屋は二階の奥の一部屋だった。ベッドはきちんと整えられていて、寝心地は良さそうだった。ぼくも街に泊まった事はある。グレンのベッドに潜り込んだりしたからね。
その日の晩、晶龍君がぐっすり眠っていると、ドアがぎいっと開いた。誰か部屋を間違えたかな? とか思ったけど、よく考えたらここは奥の部屋だから間違えようがないよな。
こっそり入って来た人の顔を見るとファベールさんだった。ええと、もしかしてお金でも盗みに来たのかな?
「いたいた。ラビちゃん、一緒に寝ましょうね」
そう言うと晶龍君の隣で横になっていたぼくを抱き抱え、ゆっくりと布団の中に入って来た。えっ、これは一体……
「大丈夫ですよー。あなたは私のモノになるし、ショウ君は私のお婿さんになるんだから」
えっ、お婿さん? いや、確かにショウ君はお婿さんとしては最適な人材だと思うけど。何せ古龍の血統だし。いや、それは晶龍君か。ショウ君は商家の息子って話にしてるからなあ。もしかしたら商家でもお買い得なのかもしれない。
「私がこうやって寝てたら朝にお父さんがキセイジジツとかでラビちゃんを私のモノにしてくれるんだって」
キセイジジツ! いや、何がどう事実なのか分からないけど、何かとても寒気のする言葉だ。




