第200話:オレの墓標には名はいらぬ
最終回です。
ルフィアナさんがグレンごとぼくを抱き締めたので、うちの貧乳勢(って言ってるのがバレると酷い目にあうのでナイショ)にものすごい目で見られた。よく見ると顔に傷がある怖い男、タムロムだったかな?もものすごい目でグレンを見てる。
「ルフィアナ、ラビ君苦しそうよ」
「離したらギルマスが来るじゃない」
その言葉と共にギルマスが上の階からゆっくりと降りてきた。
「何の騒ぎですか? 全く、冒険者がそんな騒ぐなんてもっと冷静に……ラビきゅぅぅぅぅぅぅぅん!?」
瞬間移動したのかと思うほどのスピードでぼくのそばに来たと思うとぼくを抱きしめようとした。それを阻止したのはマリーだ。
「させませんよ、ステラ」
「マリー! あなたも帰ってきてたのね。という事は、グレン君! 英雄の帰還ね」
「ご無沙汰してます、ステラルーシェさん」
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
「あなたはぼくの事を勇者とは呼ばないんですね」
「あら、あなたは英雄ではあるけど勇者では無いわよ。神に選ばれた訳じゃないでしょ?」
「ありがとうございます」
グレンの顔がほっとしたものになった。それからギルドを上げて宴会が始まった。魔王軍の影響はここでは少ない。でも魔王軍が瓦解してからは魔物の被害も少なくなったそうだ。
グレンも珍しいくらいに痛飲していた。日頃お酒とか飲まないのにな。みんなが酔い潰れて眠った時にギルマスがそっとグレンのところに来た。
「グレン君、あなたの命を狙う様に闇のギルドに依頼が出されたわ」
どうやらあのチビ・デブ・ハゲの三人だろう。国を追われても金は持ってるみたいだ。まあブリジットも葛葉もマリーも殺せないもんね、普通じゃ。
「そうですか。ありがとうございます」
「これからどうするの?」
「ぼくは冒険者ですからね。旅にでもまた出ますよ」
「ラビきゅんも連れて行くの?」
「それは、ラビに聞いてください」
そう言ってグレンはぼくの方に手招きした。隠れて見てるのわかってたんだね。
『バレてたんだ』
「ラビの赤色は暗いところでよく分かるからね」
『偵察の時にバレたことなかったのに』
「ノワールが隠してたらしいよ」
『はぁ、ますます頭上がんないや』
ぼくとグレンの会話に遠慮してくれていると思ったらギルマスが突然、「ラビきゅんが、しゃべったァァァァァァァァァァァァァ!」って叫び出した。夜だからやめて欲しい。とりあえず眠らせる。
「で、ぼくはこの後行くけどラビはどうする?」
『どうするって愚問だよ、相棒』
「だと思ったよ、相棒。これからもよろしくな」
『もちろんさ』
ぼくとグレンは手でグーを作って拳を重なり合わせた。
翌朝、ぼくとグレンは街を出た。他のみんなはバレるから置いてきたんだよね。懐かしいなあ。こうやってぼくとグレンの旅はあの日、始まったんだ。
「さあ、行こうか。今度はどこに行こう?」
『なんか適当に歩けばいいんじゃない? ご飯はその辺に生えてるし』
「それで済むのはラビだけだよ」
『たまには食べてみればいいのに、時々苦いのもあるけど美味しいよ?』
「遠慮しとくよ。さて、じゃあとりあえず海でも超えてみようか」
そう言ってぼくらは海に向かった。新しい冒険が始まる。
あれから随分と時が過ぎた。ぼくらは新しい大陸に渡り、そこで様々な冒険を繰り広げた。グレンは生涯独身だったよ。ブリジットやマリー、エリン、葛葉はそれでもいいと妻のように寄り添って居たけどね。
終の住処は小さな小屋だ。無人島にあるぼくらだけの領地。あ、独身ではあったけど子どもは出来てんだよ。グレンってばスケベだよね。いやまあ、最終的には結婚出来なくても良いから子種が欲しいって迫られてだけど。でも子ども産んだの、仲間の過半数なんだよ? だいたいなんでノワールとフェザーまで産んでんのさ!
今、ぼくはグレンの墓の前に居る。数十年前にみんな島を去ったよ。グレンの遺志である世界の平和を保つ為に。全くみんな大変だよね。グレンはぼくにも頼んだけどぼくは拒否した。ぼくは部下じゃなくて相棒だからね。
ぼくの使命はぼくが決める。そして、ぼくの使命はグレンの墓の傍にずっと居ること。まああれから百年ほど経過したんだけど、ぼくの寿命無くなんないんだよね。
天の神様、ぼくはアルミラージとしての長い寿命なんか欲しくありません。ぼくは一頭のホーンラビットのラビとして、ここで朽ちたいんです。だからぼくをホーンラビットとして眠らせてください。きらりと天の星が光った気がした。
切なる願いを天の神様が聞き入れたのか分からないけど、ぼくは段々と眠気を感じた。身体から力がどんどんと抜けていく。ああ、やっとグレンのそばに行けるんだね。本当に。また、どこかで、一緒に、冒険、しようね、大好き、だよ、あい、ぼう。
皆様、長くお付き合いいただき、ありがとうございました。ラビ君とグレン君の物語はこれでおしまいです。出て来なかったマリエちゃんに関しては外伝か何か書くかも知れません。それでは、また別の作品でお会いできたら嬉しいです。




