第20話:村に着きました
グレン以外の人間はどんな人なんでしょうか?(すっとぼけ)
サラマンダーの一家と別れてぼくらは草原を走っていた。岩山から下山するとそこは広大な草原だったのだ。草原なら食べるもの沢山あるよね。シロツメクサとか好きなんだ。
でも、晶龍君は草が食べられないみたい。いや、正確には食べられないことはないけどお腹にたまらないんだって。まあ別に何日か食べなくても平気とは言ってたけど。古龍とかリヴァイアサンとかそういう「巨獣」と呼ばれる種は大気や海中にある魔力をエネルギーに出来るんだって。あんな大きな人たちがどうやって餌とってるんだろうとは思ってたけど、びっくりだよね。
シルバー爺がご飯食べてなかったのって食べたと勘違いしてたからじゃなかったんだ。世の中にはご飯食べたのにご飯がまだかと聞いてくるおじいちゃんも居るって聞いたから多分それと同じだと思ってた。
そもそも、リヴァイアサンのシルバー爺がいつから生きてたのかとか知らないもん。「年寄り扱いするな!」とか言うくせにヴリトラにも「若僧が」って言うんだもの。ヴリトラ、リヴァイアサン除いたら歳上のはずなんだけど。あ、イフリートのおじちゃんが入ったから違うかな?
のんびり草を食みながら考えてると晶龍君がいつの間にか居なくなってた。何をしてるんだろうとキョロキョロしてると少し遠くから何かを引き摺って来た。
「晶龍君、どこ行ってたの?」
「こいつだよ、こいつ。肉が美味いから狩ってきた」
ドスン、と晶龍君が目の前に置いたのはブラックバッファローという魔獣である。話をしても通じなくて突進してくるとんでもない牛さんだ。こないだの牛さんは穏やかで優しかったのに。元気かなあ。
「待ってろよ、今焼いてやるからな」
所詮この世は焼肉定食……じゃない、弱肉強食。サバイバルオブザフィッテスト。強ければ生き、弱ければ食われる。まあ自然界の掟だし、ぼくもホーンラビットの端くれとしてその意見には概ね賛成である。というかぼくらは捕食される側なんだけど、草花だってある意味生きてるんだから分からなくもない。
分からないのはなんで晶龍君はぼくにお肉を食べないかと再三再四勧めてくるんだろうか? ぼくが草食動物ってのは分かってるはずなのに。お肉なんて食べたこともないよ。食べたいとも思わないけど。
「そっか、無理ならいいか、まあオレが全部食べるしな!」
晶龍君はそう言うとすごい勢いで食べ始めた。日頃は食事しなくていいとは言え、食べる時は徹底的に食べるんだって。そう言えばサラマンダーさんのところでもテーブルに肉が沢山並んでたけど晶龍君が全部食べてくれたのかな?
食事も終わったので再び駆ける。晶龍君、人間形態だと遅いんだけど、急ぐ旅でもないし、少しゆっくりでもいいかもしれない。ゆっくり人間に合わせて進むのはグレンの時で慣れてるからね。
しばらく進むと村があった。いや、人間と関わりたくないんだけど、晶龍君はここで休んでみようぜって。どうするつもりだろうか。
「ごめんください」
晶龍君は一番でかい一軒の家の前でドアを叩いた。ぼくは晶龍君の胸に抱かれている。うん、ゴリゴリするほど強く抱っこされてないからこれはこれでいいかも。
「なんじゃな、あんたらは?」
「ぼくは旅をしてるショウってものですけど、この村に泊まれる場所ってありませんか?」
「ふん、余所者を泊める場所などないわい」
出てきたおっちゃんは不機嫌そうに言った。まあこれだけでも歓迎はされてないんだと思う。というか晶龍君、ショウって誰だよ?
「まあまあ、タダとは言いませんので」
そう言うと晶龍君はおっちゃんに何かを手渡した。手のひらの中にある、それを見ておっちゃんは相好を崩した。
「こりゃあ……」
「どうですか?」
「いやあ、さすがに村の中には宿屋とか無くてね。でもこんな子どもを無碍にしたとあっちゃあ寝覚めが悪い。どうだい、ここは一つ、うちに泊まるっていうのは?」
「良いんですか? ありがとうございます!」
晶龍君は嬉しそうに頭を下げた。ぼくからはおっちゃんの顔が歪んだ笑みを浮かべてる様に見えたよ。
「それでだねえ、うちも夕食とかベッドの準備とかで入り用になるんだけど、もう少しお金を持ってやしないかい?」
「ええと、あんまりないんですけど、じゃあこれを」
そう言うと晶龍君はまたおっちゃんに何かを握らせた。おっちゃんの顔がニンマリしていた。なかなかに顔の表情変化が忙しい。
「ありがとう、じゃあ上がっておくれ。部屋は直ぐに準備するからねえ」
おっちゃんが小躍りしながら奥へと走っていった。上がっておくれって言われても案内するおっちゃんが居なかったらどうにもならないと思うんだけど。
「晶龍君、何を渡したの?」
「何ってお金。金貨だけど?」
はぁ!? 金貨ぁ!? いや、さすがに金貨を渡すのはどうかと思うよ? 貨幣価値勉強してきたの?




