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第197話:攫われるグレン

構造が分かっていれば解くのはそんなに難しくはないのですが、構造が分からないと呪いが定着したりします。まあデンティはプロなんで大丈夫です。

 去り際にみんなに待っててもらうようにお願いした。さすがにあの人数はオレじゃどうしようも出来ないしな。運べても一人だし。


 グレンは白のミラブなんとかってのが運んでくれるそうだ。ついてきたそうにしてたけど、まあじゃあねえよなあ。


 外に出ると騎士団がオレたちに武器を向けて牽制してきた。アスタコイデスのねえちゃんがずいっと前へ出る。


「各国騎士団の者たちよ。私は赤の戦士アスタコイデス! 我が道を阻むと言うなら手加減はできんが相手になろう!」


 高らかに名乗りをあげる。群衆の中から一人の男が進み出た。


「帝国騎士団第三席、トレスだ。あんたとは一度やり合ってみてえとおもってたんだ。恨みっこなしでやり合おうぜ!」


 戦闘狂というやつだろうか。目は血走ってるし、呼吸も荒い。どうやら興奮しているのだろう。アスタコイデスはニヤリと笑った。


「ほほう? トレスとは帝国の狂犬と言われた男ではないか」

「おおっと、知っていてもらえて恐悦至極。さあ、殺り合いだ!」


 トレスは腰につけた曲刀を抜くと、アスタコイデスに斬りかかった。右手に一本、左手に一本。口にくわえてないから三刀流ではない。


 二本の曲刀を変幻自在に操る姿は確かにすごい戦士だと思う。でもあれじゃあダメだ。


「はぁ!」


 アスタコイデスは裂帛の気合を込めて攻撃を弾き返した。左手の武器を弾かれ、明らかな隙を晒す。ダメってのはこれだ。通常の膂力の人間と打ち合えても、ゴリラの化身みたいなアスタコイデスのねえちゃんにゃ通用しねえ。


 体勢を崩されたところに剣の腹の部分で背中を強打。下手に防御できないから勢いのままに吹っ飛ばされる。そっち方面に人がかたまってて助かったんじゃね?


「次!」

「しからば拙者が」


 出て来たのはモンドさん。えっ、なんでこんなところに?


「そちらはラビ殿でござるな。色々と思う事はあるだろうが」


 言いながらモンドさんは腰に帯びていた刀をすっと抜く。鞘は投げ捨てた。こういうの、コジロウヤブレタリーとかいうらしいんだよね。いやまあ速さの為に鞘を捨てるのはあながち間違っては無いと思うよ。


「殿を取り戻す為ならば全力を尽くすのが侍というもの!」


 そして刀を構えてこちらを睨みつける。とんでもないプレッシャーだ。


「大義のためでござる。いざ、尋常に、勝負!」


 モンドさんから伝わってくる悲壮なまでの覚悟。主に殉じる侍としての生き方をここに見た。でも、ねえ。とりあえずぼくは念話でモンドさんに話し掛ける。


『モンドのおっさん、落ち着け』

「むっ? ラビ殿? 止めんでくだされ、義理と人情を秤にかけりゃ、義理が重いのが男の世界、侍の生き方にござる!」

『義理とか人情とかはよく分かんねえけど、将軍サマは無事だぜ?』

「へ?」


 モンドさんから間抜けな声が漏れた。オレは続ける。


『だから、将軍サマはオレの事は分かってるし、恩もあるから敵には回らねえってな』


 モンドさんはポカーンとしている。いやまあ、無理もねえんだが。


『まあ、他のやつの手前、演技はしてたが』

「そうか、上様は無事か」

『迎えに行ってもいいけどよ、もうちょいそっとしといてくれや』

「その言葉信じるに足りるか悩ましいところだが、お主が嘘を吐く理由もないしな」


 なんだかんだでモンドさんは刀を引いてくれた。そして会議室の方へと駆け上がって行った。


「なんだかよく分からんが、とりあえずヨシ! 次だ!」


 アスタコイデスの気合いに行く手を阻んでいた騎士たちは潮が引く様に避けていった。そんな中を通って辿り着いた宿屋。ひょっこりとデンティフェルの嬢ちゃんが顔を出した。


「あれ、おかえりー。背中のは何? 新しい実験動物? ダメだよ、誘拐はバレないように」

「デンティ、頼みがある」

「え? アスタがボクに頼み事? なんでも聞くよ!」


 頼み事の内容も言ってないのに、二つ返事とはすごいなあ。


「ん? その制約の鎖を切ればいいの? うーん、まあ出来ないことはないけどさ」

「足りないものがあるのか?」

「アスタがボクにチューしてくれるなら……ってうそうそ! 冗談だからその剣を下ろして!」


 無言で剣を振り上げるアスタコイデスさんは少し怖かったです。


「何が必要なんだ?」

「うーん、まあ必要なものは特にはないんだけど、やっちゃうとボクらお尋ね者だよ? それでもいいの?」

「心配するな、既にもうお尋ね者だ」


 そう言ってアスタコイデスさんははっはっはっと笑う。ハスタートさんは楽しそうに笑ってるし、ミラビリスさんは頭を抱えている。


「兄さんまでお尋ね者になる方を選ぶとは思わなかったよ。仕方ない。ボクも覚悟を決めるよ。アスタ、一緒に逃げよう!」

「まあ逃げるのはやぶさかでは無いが。そうだな」


 デンティフェルさんは見るからにやる気を出して、グレンを魔法陣みたいなのを書いたシーツを敷いたベッドに寝かせると、ハスタートさんに指示を飛ばし始めた。

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