第195話:相棒というぼく
ラビ君が契約を結んでいなかったのがここで炸裂
グレンは兵士たちに拘束されている。無理やり跪かされ項垂れている。グレンならあの程度の兵士たち、吹っ飛ばせるんじゃないかな? いや、ヴリトラたちが黙ってないんじゃないかと思うし。ここは様子見だね。
「お待ちいただきたい!」
バンッと立ち上がったのは江戸で会った将軍。
「八洲国代表、第三十三代将軍、松平家蔵である」
「おお、そのような名前であったな。して?」
「そこな勇者はいざ知らず、ホーンラビットに関しては我らが恩人のもの。その経緯を勇者殿にお聞きしたいのだが」
あー、あの時ぼくはマリエさんの配下みたいな形になってたよね。そうか、この人はぼくがさらわれるかなんかしたと思ったのかな?
「おい、反逆者よ、答えよ」
「ラビは、ぼくの、相棒、です」
「どこで手に入れたのだ?」
「小さい頃から。一旦逃がしたのに、戻ってきて、助けてくれた」
そんな事を思ってたんだ。というかやっぱりぼくを逃がしたんだなあ。
「なるほど。確かに八洲からすれば魔の領域については旨みがないよのう。よし、ならばそこのホーンラビットは貴殿らの国に進呈しようではないか」
進呈しようだなんて、ぼくはグレンの相棒だ。誰のものにもならないぞ!
「心配せずともあの反逆者のお供どもはちゃんと分配されるからな。まあ前線に行くものたちが優先となるだろうが」
反逆者のお供ってヴリトラとか? いや、さすがにここにいるヤツらぐらいなら消し炭に出来るだろうに。
「こやつのお供には見目麗しい女が何人も居たからな」
「確かに。戦力としても夜伽の相手としてもちょうどいいな」
こいつらまさかマリーやブリジットに手を出すの? 国がひとつどころじゃなく滅びるよ?
「やめ、ろ」
「貴様に拒否権などあるものか! 第一、制約の鎖で縛ってあるから貴様のテイムしているモンスター共は動くのも辛かろう」
いや、ぼく別に辛くないんだけど。でもグレンは確かに辛そうだ。なんか発明得意な国の王様とかが誇らしげに、能力に制限をかける奴隷の鎖みたいなのを発明したらしい。これで魔の領域の奴らを残らず奴隷にしてやると息巻いてた。
あー、もしかして、フェザーもヴリトラもブランも動かないんじゃなくて動けないの? うーん、これは困ったよねえ。でもぼくは動けるんだよ。なんでだろうね?
「さあ、貴様の配下どもを呼ぶがいい!」
「くっ、みんな、ぼくの元へ、いや、ダメだ、来ちゃ、うぐっ」
必死で抵抗するグレンに国王の一人が顎をクイッと動かして、兵士に蹴りを入れさせた。
「我が配下よ、来たれ、疾く、風のごとく」
グレンというかテイマーには緊急招集の魔法がある。使ったらテイマー本人は殆ど戦えなくなるが、全員を一箇所に呼び寄せる事が出来るのだ。
その能力が起動し、転送陣の中にみんなの姿があった。当然ながらみんな上手く動けない様子。
「おお、来た来た。ワシはこの乳のでかい娘を貰うぞ」
「私はこちらの気の強そうな女ですな」
「ほっほっほ。ではこのエルフはワシが」
「抵抗の心配はありませんぞ。テイマーを無力化しておりますからな」
こいつら、好き勝手しやがって。みんなの身体が動けていたら多分こいつらなんて瞬殺だろうね。ぼくだって身体が動けば。
……あれ? ぼくの身体って普通に動くんじゃない? なんか別に何にも縛られてないんだけど。前脚よし、後脚よし、長耳よし、尻尾はキュートでなおよし!
とりあえずぼくがみんなを助けなきゃな、そう思って、ぼくは赤いオーラを解禁することにした。こんな事ならもっとお肉食べときゃ良かったよ。
先ずはグレンを捕まえている兵士たちを縛る。これはとても簡単。ぼくになんか注意払ってなかったもんね。不意打ちでいける。
兵士はグレンを拘束している手を離してだらんと力を抜いた。いきなり拘束を解除した兵士たちに国王たちは戸惑う。
「な、何をやっておる! そやつは罪人だぞ。捕らえておかぬか!」
なんだかんだでグレンはそこそこ強い。解放すれば自力で何とか出来ないかなって思ってたけど、どうやら動く事も出来ないみたいだ。
やれやれ仕方ない。全く、グレンはぼくがついてないとダメなんだから。ぼくはその場にいる王たち全員に赤い恐慌のオーラを強めに放った。
どうだ? 恐怖で息もしづらいだろ? そりゃあそうだ呼吸すらも忘れる苦しみを味わうといい……っておおっといけねえ。あの江戸の将軍サマは解いてあげよう。ちゃんとぼくのことも考えてくれたからね。
自分だけ助かったとわかったらしい将軍サマはぼくの方を見て小さく、ぼくにだけ分かるようにお辞儀をしたあと、苦しそうな仕草をしだした。あれ? と思ったけど、演技してんだろうなあって直ぐに思い直したよ。




