第194話:王たちの傲慢
醜い各国の王
魔王軍と和平を結んで、グレンとぼくらは帰路についた。と言ってもグレンとぼく、それからフェザー、ヴリトラ、ブラン、あとみんなを乗せてくれたワシ君だね。
いや、なんというかずっと魔の領域まで着いてきてくれてたんだよ。ほら、なんか「ワシはラビ様の一の下僕であります!」とか言ってたな。別にあの森を支配とかする気ないからみんなのところに戻ってあげて欲しい。
グレンが国に帰ってくると一番の大国である、なんとか王国の王都にて、世界会議が開かれていた。参加しているのは名だたる各国の王たちである。国の名前? 忘れちゃった。知らないよ、人間の国なんて。
王都には一足先にアスタコイデスさんたちが来ていた。魔王軍と戦うことも無くなり、最高戦力を手元に戻しておきたかったのかもね。
ぼくらは兵たちに案内されて世界会議の会場に向かった。いや、グレン、ぼくは待ってても。え? 落ち着かないから抱っこさせてくれ? 仕方ないなあ、もう。
ばん、と扉が開いて、世界の王たちが着座しているところにグレンがゆっくりと入っていく。効果を狙った訳じゃなくて、手と足を同時に出さないように注意してるだけなんだよね、あれ。
「お主が勇者グレンか」
一番奥に座っているいかにも威厳のありそうなおっさんがグレンに声をかけた。グレンは跪いたまま動かないでいる。
「許す、面を上げて答えよ」
「はっ!」
許されて初めて頭を上げるんだって。なんだか面倒だけど、やらないと首をはねられるらしい。まあこの程度の奴らならぼくらにかかればちょちょいのちょいだもんね。お願いします、先生方!
「魔王軍代表の現魔王、ベール・ゼフィルス氏より条件を預かってきました」
「条件、だと? 敗戦した奴らが要求出来るとでも?」
それを言ってしまえば和睦なんて出来ない。こういうのはお互いの歩み寄りが大事なんだよ。
「これより条件を検討する。勇者グレンは別室にて待て」
そんな感じでメイドさんに案内されてぼくらは一室に通された。少ししたら「お腹空いていませんか? 料理を用意させましたので」みたいな事を言われた。いやーまあ、気持ちは嬉しいけど、ぼくは庭の草で良いよ。
みんなの目の前に料理が運ばれて来た。運ばれた料理がグレンの前におかれた瞬間、ブランが動いた。前脚で料理を、スープを払い落とした。
「ブラン!?」
「主様、毒の臭いです。これは毒物です」
「マジかよ。やってくれたな!」
フェザーが怒りの炎を燃やしている。いやでもこの状態だと犯人わかんないし、人間たちの間に仲違いを起こさせる作戦かもしれない。
とか思ってたらドカドカと足音がして兵士が何人もズカズカと入って来た。
「勇者グレン! いや、反逆者グレン! 世界会議の決定により、召捕る!」
「えっ?」
「問答無用! 捕らえろ!」
兵士たちはグレンの事を反逆者と呼んだ。あれだけ頑張って死闘を繰り広げて、この結果を掴み取ったのに。一体グレンが何をしたというんだろう。
「主、どうする、蹴散らすか?」
「いや、よく話が分からないから一旦捕まりたい」
「なるほど。勇者の次は囚われのお姫様にでもなるか」
「やめてよヴリトラ」
どうやらグレンはどうなってるのかを調べる為に捕まることにしたようだ。うーん、ぼくらはどうするかな。正直、グレンを人質に取られたら身動き出来ないんだよね。テイムしている人間の安全がぼくらテイミングされてる側の絶対条件だからね。
ぼくらは再び王たちの前に引きずり出された。今度はグレンが縛られていて、ぼくらは後ろに従ってるだけだ。
「王の方々、ぼくは反逆人ではありません」
「黙れ! 貴様は魔王と結託して、我々から大金をせしめるつもりだったのだろうが!」
「大金って、賠償金の事ですか?」
「違う! 我々が手に入れるはずだった魔王軍の土地や資源だ!」
賠償金って魔王軍側が払うって言ってたから違うと思ったけど、どうやら聞いてる限りでは魔王軍の領域にあるものを全て奪い尽くつもりだったらしい。
「そ、それは、魔の領域に住む人たちのもので、人間のものでは」
「魔の領域に住む者共がどうなろうと知った事ではない!」
「奴隷として生かしてやるだけでもありがたいと思え!」
王たちは口々に醜い言葉を吐く。勇者とはなんだろう。人に勇気を与える、そんな希望となる存在ではないのか? まあぼくはグレンが勇者じゃなくたって一緒にいるつもりだけど。
「魔王軍はお前のお陰で壊滅的な被害を受けただろう。ならば! 軍隊をもって攻め入るのみ!」
「強力な個が居なければ我々の軍隊で事足りる」
「おお、では、我が国から三万程」
「いやいや、戦争後の割譲を考えれば五万が最低ラインでしょうな」
「我が国は後方支援で構いません。ええ、遠くて領土的にも少し不便ですからな」
好き放題言ってる醜いヤツら。こんなのがグレンと同じ人間なのか? 反吐が出る。




