第193話:植生違うよ食むタロウ
なんという不都合な真実! いや、終わるんか?
ぼくははむはむとその辺の草を食べる。植生が人間の領域と違ってて面白いんだよね。なかなかに美味しい草もあるし、ぼくの身体が痺れそうなくらいの味のもあるし。毒性とかも強いみたい。やっぱり魔力が関係してるのかな?
グレンは歓待を受けながら魔王が回復するのを待っている。エリンが頑張ってるからきっと直ぐに良くなるとは思うよ。
本当は早く帰りたいんだけど、色々片付けなきゃいけないことがあるし、今後、魔王と殺し合いをしない為に、魔の領域の民を守る為にも決めなきゃいけない事が沢山あるんだって。って、そういうのをグレンが勝手に決めていいの?
という訳で人間の国各国にヴリトラが遣いを出したそうだよ。江戸と大阪の担当は晶龍君なんだって。まあモンドさん辺りと会えば大丈夫でしょ。
その際にはブリジットの一族のネットワークも上手く機能させるらしい。なんでも色んな国で貴族として生活してる同胞がそれなりに居るんだってさ。いや、怖くない? いつもニコニコあなたの隣に這い寄る吸血鬼って。
で、天界としては悪魔の一族は地上で大人しくしておく分にはお目こぼししてくれるらしい。これは人間のやる悪行も大して変わらないからなんだって。
過激派の天使が地上に浄化を!とか言って騒いでるのを天界が取り締まっててそれどころじゃなくなってるからという話もあったらしい。
これはマリーがジブリール様とやらのお茶会に連行されて行ってから聞いてきたらしい。びっくりしたよね。なんかいきなり天使が二体降臨して、マリーの両脇を掴んだと思ったらそのまま攫っていったんだもの。
宴会中に「ワシもまぜてくれ」とジズとかいうおっさんが来たのはびっくりした。シルバー爺やノワールの古い知り合いで四天王だったやつなんだって。
そこでノワールが妙齢の女性になっててびっくり。人間になれたんだ。というかメスだったんだ。ノワール曰く、「猫状態の方がグダグダしてても怒られないのにゃ」って言ってたからまあ隠してたんだろうな。
リリティアは母親のリリンさんの介抱をしていたが、こっちはマリーの回復結界があるので本人不在でも普通に回復していた。一気に回復魔法かければ良いのにって思ったらあれは体力か魔力を消費しちゃうから弱った身体には毒なんだって。
「皆様、この度はうちの娘がお世話になりました」
深深と頭を下げるリリンさん。あのー、迷惑かけたのは息子さんもなんですけど?って思ったらあの魔王様はリリンさんが産んだ訳では無いんだって。前妻の息子とか言ってた。
ただ、前妻とリリンさんは種族を超えた友情があって、それなりに気にかけて育てていたんだそうな。息子さんの方は懐いてくれなかったみたいだけど。
リリティアさんは兄である魔王とは仲が良く、虐められることもなかったのに、魔王就任してから急に変になったんだと。というか前魔王の死にもあの宰相の暗躍があったんじゃないかと訝しんでいるが、今となっては分からないしどうでもいいと思う。
「グレン様にはなんとお礼をすればいいか。そうですわ! 私の不肖の娘ではありますが良かったら伴侶として」
「却下!」
うちの女性陣(フェザーとノワールさんを除く)の声が見事にハモった。ちなみにリリティアさんはそこまでグレンの事は好きでもないらしいよ。良かったね、みんな。
リリティアさんのお嫁入り騒動は収まったぐらいで、魔王、ベール・ゼフィルスが目を覚ました。体力が回復する薬液に裸で漬けられていたので裸だったけど。
リリティアさんがきゃー、兄上とか言いながら指の間から凝視していたのは感じた。もしかしてブラコンなの? うちのメンバーは誰も見向きもしない……あ、いや、イフリートがね、いい筋肉してるなって。
「礼を言わねばならんな。だが、下手な譲歩はせぬ。不服ならば私の首で」
こんな感じで魔王との交渉が始まった。人間側からは
・ミナサノールを境として人間の領域を侵略しないこと
・各国に散らばっている潜伏部隊を引き上げること
・人間国の王たちに謝罪をし、賠償金を支払うこと
という条件。それに対して魔王軍からの回答は
・ミナサノールが境でも構わないが、人間の領域に生活用品を調達に行くかもしれないから通行は許して欲しい
・潜伏部隊に関しては魔王として触れを出すが、統括していたのが宰相だから把握まで時間が欲しい。その際に事を起こす様なら処理して構わない
・賠償金には応じるが、元はと言えば人間たちが魔の領域に攻め込んで来ようとしたのが原因なので謝罪はしたくない
あれ? なんか元は人間から仕掛けたの? これ、もしかして、勇者が誕生して、調子に乗って攻め込んだけど返り討ちにあってグレンを頼ったって話? うーわー、ないわ。これって帰ったらグレンの身が危なくない?




