第192話:戦い終わって日も暮れて(グレン視点)
勝利と晩餐
宰相が突然現れた巨体の天使に攻撃され、ぐったりとすると、目の前で戦っていた魔王が膝を着いて苦しみ出した。
「ぐっ、なんだ、ここは、これは、一体……」
「魔王?」
「兄上!」
「リリ、ティアか? どうして、ここ、に、何も、思い、出せな、い」
それだけ言うとふらりと倒れる魔王。こういう時は、そうだ、マリーだ。
「マリー! 魔王に回復の術を頼む!」
「えー? 別にいいけど、傷は治っても魂が消滅するかもしれないわよ?」
どうやら天使の、それも高位の階級になると、回復にも浄化の効果が加わるんだそうな。下手な悪魔だと消滅しちゃうらしい。
リリティアは半分人間だから大丈夫だったらしい。危ない話だ。うーん、となると何らかの回復措置を取らないといけないんだが。
メンバーを見回す。戦闘特化に近いものばかりだ。こりゃダメかな?
「グレン、騎士団は全員大人しくさせたよ。ふう、手間取った」
「エリン! ちょうど良かった。この魔王を介抱してくれないか?」
「えっ? あっ? えーと、まあ大丈夫とは思うけど。マリーの魔法は?」
「……浄化するからダメなんだそうだ」
「あー、なるほどね。じゃあ地道に治すしかないかあ。よし、じゃあ久々に創薬しますか」
エリンは手の中に小さな球体状のものを生み出し、それの中で何かをごちゃごちゃしていた。やがて、出来上がったようで、中から容器に入ったポーションが出て来た。容器も一緒に作ったのかと聞いたら、一緒じゃないと効果が直ぐに無くなるんだとか。
「さあ、魔王陛下、お口を開けましょうね。口移しはしたくないので、あ、グレンやってみる?」
「いやだよ!」
「だよねー。うん、流し込むか。とりあえず溺れないように上体起こしといて」
エリンの指示にヴリトラが後ろから支えてくれたみたいだ。エリンが口を無理やり開けてポーションを流し込む。あっ、咳き込んだ。
「兄上!?」
「大丈夫。飲んだのは間違いないから。後は安静にしておくだけだよ」
エリンの軽口にリリティアは少しほっとした様だ。そういえばもう一人居たなあ。ブリジットが救い出した女性。リリンさんだったかな?
こちらは普通の人間だということで、マリー特製のキュアカプセル結界に入っている。寝てるだけで治る代物なんだって。あー、そういえばお腹空いたな。
「皆さん、母様と兄上をありがとうございます。今食事を用意させますのでどうぞ召し上がってください」
リリティアがハッとした顔をして、周りのメイドたちに指示を出す。メイドたちは一斉に動いて歓待の準備をしていた。
ぼくらは改めてみんなで集まってここまでのみんなの活躍を労った。
「みんな、ありがとう、こうして魔王を倒すことが出来たのもみんなのお陰だ」
ぼくは改めて頭を下げる。ぼくのような若輩者について来てくれて、仲間になってくれて、本当にみんなには感謝しっぱなしだ。
「大丈夫ですわ、グレン。皆、納得ずくで着いてきたのですから。ところで、妾との婚儀の日取りの相談なのだけど」
「ブリジット? 何を言っているんですか。グレンは父なる神の下に更に高位の存在として認められに行くのです」
「ええー、グレンは私と一緒に世界樹様に挨拶するんだよね?」
「何言うてますの。玉葉姉様の無念晴らしてもろたんやから、天空狐の空姫と共に狐の一族挙げて歓待するに決まっとるやんか」
四人が四葉いや、四様に色々主張してる。
「モテモテだな主様。まあオレはちゃんと夜伽には付き合ってやるからよ」
「ふぉっふぉっふぉっ。海底神殿に案内しようかと思っておったがまだ先になりそうじゃなあ」
「なんのなんの、我とて細君に歓待するから連れてこいと言われているのだ。我だけでなく息子も世話になったからな」
「にゃーは普通に昼寝する場所さえあって一緒にお昼寝してくれれば十分にゃ」
「主、主、お散歩したいです。あと、かけっこも。昔みたいに広場で遊びましょうぞ!」
比較的落ち着いてるはずの(フェザーは違うか)ヴリトラたち、非人間形態組も騒ぎ出した。これは、どうやって収拾つければいいのだろうか?
「グレン、おめでとう」
「ラビ、ありがとう」
最後にラビ。テイムしていないにも関わらず、ぼくのことを相棒と呼び、自分の意思で着いてくると決めて、ぼくが危ない時に助けてくれた。宰相もラビがいなければ危なかっただろう。
「もう乱暴なラビじゃないんだね」
「もう、やめてよ。あれはぼくであってぼくじゃないんだから」
「でも、ラビには本当に助けられた。ありがとう」
ぼくは深深と頭を下げる。そこには種の違いとかそういうのは全くない。対等な男と男の礼である。
「良いんだよ、ぼくは、だって相棒だろう?」
「なるほど、そうだよな、相棒。さあ、飲もう、そして食おう」
「ぼくその辺の草でいいんだけど、なんか見た事ないの生えててちょっと気になる」




