第190話:覚醒、アルミラージ
ラビ君無双
『赤き恐慌のオーラ!』
ぼくは全身からオーラを立ち上らせて宰相を睨んだ。
「なっ、身体が動かん、だと!?」
ここに来て初めてあの宰相の驚いた顔が見れた気がする。まあつまり、ぼくの攻撃が効いてるんだよね。
『グレン! こっちは抑えるからそこの魔王はちゃっちゃと片付けちゃって!』
「おのれ、我が部下を……ん? 部下? いや、ルーは部下、なのか? ううっ、頭が」
あれ? なんか魔王が頭抱えて蹲り始めたんだけど。
「ちっ、支配の権能が薄れているだと? このホーンラビットごときが!」
宰相閣下は相当お怒りのようです。いや、総統閣下じゃないから面白くは無いな。
魔王は剣を支えに立ち上がる。少しフラフラしてはいるみたい。グレンはこういう時に「チャンスタイムだ!」とか言って攻撃したりはしない。
「来んのか?」
「待っていてあげるからしっかりと立ち上がれ!」
「言ってくれるな!」
魔王がちゃんと立ち上がり、再び剣を振るう。グレンはそれを再び受け止めるのに戻る。剣戟の音が謁見の間に響き渡る。
「くっ、このポンコツが」
『それはあなたのことかな?』
「やかましい、ホーンラビット風情が!」
宰相はぼくに向かって魔法を飛ばそうと試みる。いや、そもそもそこまで効かないし、ぼくのオーラで縛ってるから動くのも大変だと思う。
そこにバタン、と飛び込んできたのはマリーとリリティア。どうやらリリティアは無事だったみたいだ。
「やっぱりあんただったのね、ルシファー!」
「ほほう? マリアヌスではありませんか。これは随分と懐かしい。あのおチビちゃんが随分と……いや、一部成長してないみたいですが」
「貴様、今、どこを見てしみじみと言ったァ!?」
マリーがなんか激昂してる。いやまあその部分が育ってないのはぼくも認めるところだよ。ゴリゴリして痛いからね。
「全天の中でもミカエルより他に並ぶものなし、と言われたこの私と、結界を張るしか能のない小娘、どちらが勝つかなど分かりきっているでしょう?」
「知ったことか!」
「いいでしょう。ならばその身をもって味わってもらいましょうか。巻き込め、暗黒の渦、黒渦縮退弾」
ルシファーの周りにいくつもの黒い点が浮かび、マリーに襲いかかる。赤のオーラ? なんか正体表した瞬間にとけちゃったよ!
「くっ! 聖霊よ、我が盾となり、邪悪を弾け! 破邪霊陣!」
マリーの周りに今度は膜がはられ、黒い渦をバチバチ弾いている。単に弾くだけだと他に被害が出ちゃうからなるべく弱めているのだろう。
「やはり、防ぐだけで精一杯の様だな。しかし、ジブリールでさえも防ぐには至難の業である、黒渦縮退弾をなあ」
「ジブリール様でもこれくらいは防げるわよ」
『マリアヌス、マリアヌス、あなたの心に直接話し掛けています。ちなみに私では無理です。こっちに飛ばしてこないでください』
「は? ちょっと、ジブリール様!?」
なんかいきなりマリーがうろたえ出したんだけど。あ、そういえばリリティアが放ったらかしだったなあ。でも、魔王とグレンの死闘を見てるだけなんだよな。なんか胸の前で拳を握りしめて。これはあれだ、私の為に争わないで!とかそういうやつかな?
「グレン」
次に現れたのはブリジットだ。その腕には熟女と言っていい年齢の女性が抱かれている。お姫座抱っこってやつだね。
「やあ、ブリジット」
「閉じ込められていた女性を助けたわよ。かなり衰弱してるみたいだけど」
「ありがたい。マリー!」
「分かってるけど、このルシファーを何とかしないと!」
焦ってるんだね。ということはやっぱりぼくがやるしかないか。なあ、ぼくの中のぼく、まだ居るんだろう? いるなら、ぼくに力を貸してくれないか。仲間を、グレンを守らなきゃいけないんだ。
ぼくの身体の中から力が漲ってくる。身体からはほんのりと赤いオーラが立ち上り、なんだか強くなった気がした。
「また貴様か、ホーンラビット風情が!」
『一つ訂正しとくぜ』
「なんだと?」
『オレはホーンラビットじゃねえ。オレはアルミラージ。龍をも喰らい、オレを見た奴は恐怖で動けなくなるという伝説の獣だ。聞いた事あるだろ、天界のお偉いさんならよ』
「アル、ミラージ、貴様が!」
ルシファーの顔が驚愕に歪み、そして直ぐに奴は不敵な笑みを浮かべた。
「面白い! ちょうど魔王を操るのも退屈していたところだ! 私を楽しませてみろ!」
ルシファーが吠える。吠えるのはいいんだが、いいのかい? オレはもう手加減してやるつもりは毛頭ねえんだ。
「我が剣、サイファーフォースにて、葬ってやろう! 覚悟するがいい!」
そう言って剣を振り上げる。そりゃあ詠唱するよりは遥かに早いんだけどよ。それでも、オレの視線よりかはおせぇんだよ。




