第187話:魔王城突入
城下町に入るのに手間は掛からなかったよ、ありがとうリリティア。
城下町の門前。厳戒な警備が敷かれている。入口は二つあるそうだが、どっちも変わらないくらいの人が居るそうだ。
時々、追い出されるように出てくる人が居る。きっと城下町から出るのにはなんの制約も無いのだろう。
ぼくらは城下町に乗り込む身だ。当然ながら強行突破ということになるのだが。何かこう、消耗を避けるためのいい案は無いかなあ?
「リリティア様!」
そう言って兵士のうちの一人がこちらに駆け寄ってくる。歳は若そうだが、なかなか鍛えられている身体だ。
「ゲト、それにみんなも。無事だったのか」
「我らは門番ゆえ、そう簡単に処分などされませぬ、ご安心ください」
「そうか、良かった」
どうやらリリティアはかなり身分が高い様だし、それなりに慕われているみたいだ。
「ところで、リリティア様、こやつらは?」
「ボクの手助けをしてくれたもの達だ。失礼の無いように」
「とは言われましても、私としてもリリティア様ならともかく、この様な怪しい輩を通したとあっては魔王陛下よりお叱りを受けてしまいます」
まあそうだよね。門番だもん。さて、どうするか。
「心配しなくてもボクに無理やり通されたって言えば良いよ。それなら大丈夫でしょ?」
リリティアが困ったことを言うそれが通じるのはよっぽど身分が高い、それこそ王族かそれに準ずる大貴族くらいだろう。
「左様でございますか。では、その様に」
あら、通っちゃったよ。という事はかなり上の方なんだろう。
「兄は玉座の間か?」
「は、陛下は恐らくこの時間は玉座の間に居られると思われます」
「ご苦労」
わぁ、どうやら魔王陛下の妹みたい。いや、ぼくらは魔王と敵対に来たんだよね? なんでリリティアは通そうとしてるの?
「みんなごめん、ボクは聞いての通り魔王の妹なんだ」
いや、まあ、それはグレンが判断することだからなあ。と思ったらグレンは言った。
「知っていたよ」
ええー、どこで知ったのさ。グレンが知性派キャラに見える!
「先代魔王には二人の子供が居て、一人は純血の悪魔族、もう一人は世にも珍しいハーフだと」
どうやら魔王軍の情報を集めている時に知ったらしい。そういう事してたんだね。んんっ、ノワールさんが得意気な表情してるから集めて来たのはノワールさんか。まあぼくかノワールさんだったもんね。今はフェザーも情報収集の手伝いはしてるみたい。
「そっか。知ってたんだね。それなら、母様を、リリン母様を助けて!」
リリティアの切羽詰まった様な言葉にグレンは頭に手をぽんぽんとやって「任せとけ」と一言答えた。
あれ、ぽんぽんはイケメンにのみ許された仕草だよね。いや、ぼくもグレンにやってもらったことはあるんだけど。だんだん眠くなるんだよね。安眠効果でもあるのかな?
魔王城までは誰に止められる事もなく進めた。誘われているのかもしれないし、リリティアが一緒に居るから手出しされないのかもしれない。
城の正門から堂々と入ると中庭で白い甲冑を着たナイスミドルな人が居た。
「姫様、お戻りになられましたか。おかえりなさいませ。魔王様がお待ちですぞ」
そう言ってぼくらの方を毛虫を見るような目で見た。
「このゴミ共は私が処分しておきましょう」
「ゲオゴール!」
「姫様は魔王様の元へ。さあ、お連れしろ」
ナイスミドルがそう言うと横に並んでいた騎士たちが一斉に動き出す。というか魔王軍でも騎士とかいるんだな。
「仕方ない、フェザー!」
「あいよ。こんがり焼いてやろうかい」
「いや、焼かなくていいからゲオゴールとかいうやつを追い掛けて」
よく見たらもうゲオゴールはリリティアを抱えて走っていた。フェザーが慌ててそれを追う。ついでにブランも追い掛けるみたい。まあ追いつくでしょ。
ぼくらの方は騎士団の人達、総勢で三十人くらいかな? こんなところによくこんなに揃えたねえ。あ、門から連絡がいってるのかもね。
「はあ、邪魔だよ、君たち」
珍しくエリンが出て来た。ここは城の中庭に面してるから、庭園の木々がそこらじゅうにある。エリンとしては戦いやすいところだろう。……この後室内入ったら戦力落ちるからその前に活躍しておきたいんだろうね。
エリンの声で周りにある植物が吠える。いや、口は無いんだけどさ。なんか風で揺れて葉っぱが擦れたりする音が唸ったりしてる様に聞こえるんだよなあ。
次の瞬間、騎士たちの動きが完全に止まった。よく見たら足元に絡みつく深い闇。赤い波じゃないよ。蹴っても蹴れないもどかしさ。
「大人しく埋まってて!」
一斉に両足が地面に吸い込まれるように木の根が引き摺りこんでいく。こうなったら動けるものじゃない。と思ったら何人かが幽体離脱して攻撃してきた!
あ、全部マリーの結界に阻まれたのね。うん、ぼくの出番はないけど、まあいい事だよ。




