第185話:ある日森の中窮奇に出会った
窮奇は四凶の一人ですね。姿は諸説あるそうですが。
ミコノスさんのおもてなしに深深と頭を下げて、ぼくたちは出発した。元々長居する気はなかったし、割とすぐ補給も出来たから旅立つのも早かったんだよね。
それでリリティア、と名乗る少女をグレンが魔王城の城下町まで連れて行くという。いやまあぼくは別に構わないんだけどさ。マリーが強硬に反対した。天使は悪魔と相容れないとか言ってた。
でも、当のリリティア本人はマリーの事を「綺麗な天使様」ってキラキラした目で見てるんだよな。キラキラで浄化されるとか無いかな? あ、マリー天使だもんね。浄化されても良さそうだけどこれ以上は浄化しないのかな?
「ラビきゅん! 私を慰めてください!」
そう言ってぼくを抱え上げる。あ、うん、ゴリゴリ擦り付けるのでなければ別に……って痛い痛い痛い!
リリティアわ、警戒してるのはブリジットもだ。なんかいつもはグレンの傍にくっつきたがるのに、ちょっと離れた位置からリリティアを観察している。いや、見てるのはグレンかな?
エリンと葛葉は特に気にしてないみたい。まあ見た目が小さな女の子だもんね。ツノは生えてるけど。あ、そういえばツノが生えてるのはぼくとお揃いだね。ぼくは額に一本ヅノ、リリティアは頭の両側に山羊の様な巻きヅノだけど。
ヴリトラとシルバー爺はなんか「ああいうのも少なくなりましたな」なんて昔話に耽っている。ブラン、ノワール、フェザーは興味なくいつも通り。
しかしマリーは態度を改めてくれないかな。さもないとぼくがすり潰されちゃうよ。とか思っていた時だった。どこからともなく生臭い風が吹いて来た。辺りを見渡していると何かが飛んで来て、それをエリンが防いだ。
「マリー、余所見しすぎ」
「そうでした。すいません」
そう言いながらぼくを抱きしめる腕に力が籠った。ぎゃー!
「いるのは分かってるんだ。出ておいで」
そういうエリンの言葉にゆっくり出て来うたのは翼の生えた虎。あのマリエさんといたホワイトタイガーよりふた周りくらい大きい。
「おめぇら見たことねえ顔だな」
「あ、ああ、ぼくらはこの道を通って城下町に行く途中でね」
「そぅかぁ、なら一人でええだよ」
「一人、とは?」
「はぁ? まさかいけにえも捧げずに素通りするつもりだか?」
いけにえ!? そんな話聞いてないよっと思ってリリティアを見たらまあ、汗がダラダラ出ている。こいつ、知ってて黙ってたな?
「しゃーねーだ。いけにえを忘れんのも良くあることだしな」
おっ、こいつ話わかるやつじゃん? そうそう、素通りした訳じゃなくて知らなかったんだから許容範囲でしょ。とか言ってたら窮奇はニヤリと笑って。
「三人だ。三人差し出せば許してやるだよ」
なんと窮奇は仲間を差し出せという。これはいただけない。正直一人はフェザーでいいとは思ってる。だってあいつ死なないし。
「ぼくに仲間を差し出せと?」
「安いものだろう?」
「答えは、ノーだ!」
そう言うとグレンは剣を抜いて戦闘態勢に入った。
「やれやれ、やらんとわからんだか。じゃあねえ、分からせてやるだよ。そのついでに何匹が食っても問題無いべ?」
完全にグレンはやる気だ。グレンは剣を振りかぶって窮奇に斬りかかっていく。窮奇は嘲笑う様にそれをひらりと避けた。
「へっへっへっ、そんな攻撃なんぞ風が全部教えてくれるだよ!」
言いながらこちらに鎌鼬を放ってくる。あ、動物じゃないです。自然現象のやつです。
迂闊に近付けないグレンは頑張ってジリジリとよる。だけど、近寄ると鎌鼬が飛んできて、避けて下がるみたいなジリジリしたのを繰り返している。頑張れ、グレン、負けるなグレン。
「頑張っとる様だがこれで終いだべ。心配せんでも丸呑みにしてるから安心してくんろ」
「真っ平御免だね!」
闇雲に剣を降って近付けなくしようとするも、窮奇は進みながら風の刃を飛ばしている。グレンが剣で弾くがグレンの身体には傷が刻まれていく。そろそろかなあ。
『はいはい、そこまでにしようか。これ以上やるとグレンが取り返しのつかない怪我しちゃうし』
「なんだと? ホーンラビットの分際でオラの前に立つんじゃねえっペ!」
そう言ってぼくに前足を振り下ろそうとする窮奇。まあぼくにそんな攻撃は当たらな……あの、ブリジット? 何やってんの?
「いい加減にしなさい。グレンをいじめていいのも、ラビを足蹴にしていいのも妾だけよ!」
どっちも認めてないよ!? 驚くぼくを尻目に青筋を浮かべたブリジットが振り下ろそうとしていた前足を掴んでいる。
「遊んであげるわ、三下」
ゾッとするような声でブリジットが言う。マリーは出てこないのかなって思ったらリリティアを見張ってるみたい。本人は震えてるだけだけど。こりゃあぼくも観戦モードだね。




