第184話:ミザールでゴザール(???視点)
とりあえず???で。名前は本文に出てくるし
「その辺にしておいたらどうだ?」
その人はボクを蹴っていた一人の肩に手を置いてそう言った。明らかに不機嫌そうな顔をする猿顔の男。こいつらは三猿というならず者だ。魔王城の城下町でちょっとした犯罪ばかりやってたから追放されたのだ。魔王に隔意がある訳では無い。
「はぁ? 何すんだ? テメー、オレがミザール様だって分かってて言ってんのか?」
「ミザールだかなんだが分からないが、やめてくれと言ってるんだ」
「なんだと? 理由も分からないのに邪魔するのは筋が通らねえぞ!」
「そうか、じゃあその筋ってのを聞かせてくれないか?」
「聞いて驚け、こいつはなあ、オレのデートの誘いを断ったんだ!」
本当に情けない。ボクはデートに誘うのに一人で誘うことも出来ないのかって追い出しただけだよ。まあ、一人で来ても好みでは無いから追い返したけど。それに、ボクの年齢が何歳に見える? まだ成人したての十二歳だよ? ロリコンなの?
「……あー、まあ気持ちはわからんでもないけど無理やりというのは良くないと」
「気持ちが分かるみたいな事言うんじゃねえよ!」
そのお兄さんの慰める様な言葉にミザールは涙目になって言い返した。
「テメーはそんだけ綺麗どころ連れてんじゃねえか!」
よく見るとお兄さんの周りには絶世の美女と言っても差し支えないような美人揃いだ。分かるなー、ちょっとタイプだもん。ボクがもうちょい成長してたら釣り合ってたのになー。
「審美眼があるのは褒めてあげるけど、その辺にしておきなさい。じゃないと妾が潰すわよ」
「へっ、綺麗でも貧乳に価値はな」
私の顔の横をミザールがすっ飛んでいったと気付いたのは少ししてからだった。妾さん(仮称)は残り二人の頭に手を置いていた。なんか残り二人の頭蓋骨が凹んでいる様な気がする。
「往ね」
弾かれたように残り二人が恐怖を顔に貼り付けて、ミザールを拾って逃げて行った。
「ありがとうございます、綺麗なお姉さん!」
ボクは最大限の感謝をもってお礼を言う。その言葉に妾さんは満面の笑みを浮かべた。
「まあ、グレン。この子はものを知ってるわ。妾の事を綺麗なお姉さんですって」
「いや、ブリジット。君は十分に綺麗だよ」
なんかお兄さんの言外に「黙っていれば」とか「大人しくしていれば」なんて言葉が聞こえてきそうな気がしますが、まあともかく助かりました。
「あなたも、ありがとうございます、お兄さん」
「無事でよかった。怪我はないかい?」
「あ、はい、慣れてますから」
「そんな事より本当にデートを断ったからなのかい?」
「はい、恐らくデートと言いながら乱暴するつもりだったのではないかと」
ボクは顔を伏せて言った。まず間違いないだろう。あいつらはそういう奴らだ。くっ、ボクのこの右腕がまともに動けば! えっ? 怪我? してないよ?
「騙されてはいけません。正体を表しなさい、悪魔よ! 外道照身霊破ビーム!」
これはボクはばぁれぇたぁかぁとか言わないといけないのだろうか? いや、正直、招待も何もこの姿がそもそもの本当の私なのだけど。あ、そうか、右腕に封じ込められし封印が解ける!えっ? 何も封印されてないよ?
「あれぇ? おかしいですね。確かに悪魔の気配でしたが」
「あ、はい、ボクは悪魔族です。リリティアって言います」
「あのね、私は天使なのよ? 敵なの敵。分かる?」
「いえ、天使様は初めて見ました。神々しいお姿ですね」
「あ、そう? えへへ」
ボクの言葉に天使様は照れている。他にもエルフの人や、おっぱい大きいケモ耳の人がいるけどみんな優しそうだ。
そして何より、グレンさんの足元にいるホーンラビットがくりくりした目をこっちに向けている。可愛い。抱っこしてもいいかな?
「って、ちっがーう! なんで悪魔族が地上に居るのよ!」
「はい、ボクは地上で生まれた悪魔の一族なんです」
「地上で生まれた? という事は純粋な悪魔では無い?」
「純粋かどうかは分かりませんが一応ハーフです」
それからボクの生い立ちを話した。悪魔の父と別種族の母の間に生まれたこと。兄に疎まれて城下町を追い出されたこと。城下町にはまだ母がいるからいつかは迎えに行きたいこと。まあそれこそ重要な部分はぼかして。
「そうだったのか。お母さんを助けたいのかい?」
「もちろんです。母にもう一度会いたいです」
「よし、じゃあぼくたちと一緒に来るといい。ぼくらはこれから城下町に向かうからね」
城下町に向かうって本気ですか? あの、城下町への途上には窮奇っていうバケモノが居て、辿り着けない様になってるんですよ!
だけどここでそんなことを言ってひきかえされても困るから黙っておこう。ボクはこうして旅の同道者を手に入れた。兄は、魔王はボクの話を聞いてくれるかな?




