第18話:サラマンダーの歓待
うさぎは草食動物だと言ったな? ホーンラビットも草食動物なんですよ(笑)
デカサラマンダーの人が案内してくれた先には少し小さめのデカサラマンダーの人が居た。エプロンみたいなのしてるから奥さんなんだろうと思う。
「あなた、おかえりなさい。そちらのホーンラビットさんはもしかして」
「ああ、前に話していたイフリート様の」
「まあまあ、それはようこそいらっしゃいました! ええと、そちらのもう御一方は?」
「そっちは気にしなくていい。単なる金魚のフンだ」
「まあまあ、それはようこそきやがりました。正直邪魔ですが、仕方ありません」
うん? なんか変な感じだけど、晶龍君は歓迎されてない?
「あの、晶龍君はぼくの友だちで、ええと、ヴリトラさんの息子さんで、頑張ってて」
「おい、ラビ、やめろ。なんかいたたまれねえから」
晶龍君が赤くなりながらぼくを止める。赤くなったらぼくとお揃いだね!
「ヴリトラ? なんか聞いた事ある様な」
「あれですよ、エンシェントドラゴンの」
「おいおい、そりゃあとんでもねえ御方じゃねえか」
そんな事言ってたデカサラマンダーさんたち。うん、ヴリトラはエンシェントドラゴンだよね。グレンが名前付ける前から名前持ってたもんね。
「ぐっ、確かにオレは無名だもんな。仕方ねえよ。これから大きくなって父上を追い越すんだ」
「ティアマトさんは追い越さないの?」
「ありゃ無理ゲーだ」
母は強し、そういうことにしておこう。まあ晶龍君のお母さんである、ティアマトさんにまた会う日なんて多分来ないだろうし。
「本日は我々の心尽くしをお受け取りください」
そう言われてテーブルに案内された。テーブルの上には色とりどりの、本当に色とりどりの焼いたお肉があった。いや、それ、明らかになんか毒持ってない?
「ひょー、美味そうだな!」
「ええと、晶龍君全部食べていいよ」
「はあ? なんだよ、肉食べねえと大きくならねえぞ?」
「ぼくの身体はお肉を受け付けてないよ!」
「食わず嫌いは良くねえって、ほら食ってみろよ」
そう言うと晶龍君はぼくの口に無理矢理お肉を詰め込んだ。だからぼくは草食動物なんだからお肉なんか食べても……食べても……もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
お肉美味しい! なんだこれ!? こんなに美味しいものがこの世にあったのか! いや、草も美味しいよ? でもこのお肉ってとっても美味しい! いくらでも食べられちゃう!
「いい食べっぷりじゃねえか。オレも負けねえぞ」
晶龍君もぼくに負けないように食べ始めた。サラマンダー一家の人達はポカンとしてる。
「おい、ホーンラビットは肉食べないんじゃなかったのか?」
「おかしいねえ、普通のホーンラビットは食べないはずなんだけど」
「このままじゃあ俺たちの蓄えを食い尽くされちまうぞ?」
「あんたがイフリート様に逆らえないから歓待するフリをしようって言ったんじゃないの」
「消し炭になるよりゃマシだろうがよ」
どうやらぼくらに提供した晩餐はこの人たちの蓄えの様だ。ううん、申し訳ないことしたなあ。でも美味しくて止まらないんだよね。もぐもぐもぐもぐ。
そうして粗方食べてしまった辺りで晶龍君が先にギブアップした。ぼくはまだ食べられたけどやめといた。あまり食べると太っちゃうってマリーも言ってたしね。いや、マリーの場合は抱えられなくなる重さになって欲しくないって意味だったと思うけど。ぼくに言わせたら肋骨がゴリゴリして痛いからマリーこそもっと食べた方がいいと思うんだよ。
「こ、今晩はここでお休みください」
「ええ、夜の山は色々と危ないですから」
「サラマンダーよりも強いのがいるの?」
「いえ、そういう訳ではありませんが、万一襲われでもしたらと思いますと。なかなか身の程を弁えないのも居ますので」
まあ弱くても言うことを効かないのはよくある話だ。シルバー爺も弱いのによく吠えるのが居るのですよって言ってたもんね。海の中でも吠えるのかな?
翌朝、ぐっすり眠ったのでぼくらはいい目覚めだった。サラマンダーの一家は揃って居なくなっていた。餌でも獲りに行ったのかな? 申し訳ないけど、先に進みたいから待ってる訳にもいかないんだよなあ。
「なんだよ、早えなあ。ふぁあ、眠」
「ほら、晶龍君、出発しよう。サラマンダーの人たちは居ないけど仕方ないよね」
「はあ? サラマンダーなら……あー、覚えてねえのか。そりゃあ仕方ねえ」
なんか晶龍君が気まずそうな顔をしてる。えっ? ぼく、なんかやっちゃいました?
「いや、良いんだよ。それよりも故郷に帰るんだろ?」
「そうだね、帰らなきゃ。じゃあ出発進行!」
ぼくらは意気揚々と走り出した。いや、本気で走ると晶龍君がついて来れないからそれなりのスピードでね。
「途中で肉狩るか?」
「ええ? ぼくは草食動物だから晶龍君だけ欲しい分獲りなよ」
「いや、お前……なんでもねえ」
変な晶龍君。




