第177話:オヅヌの思惑(オヅヌ視点)
楽勝→馬鹿なぁ!
「ほほほほ、この陰陽大将たるオヅヌ様をここまで追い詰めた事は褒めてやるでおじゃるよ。だぁがぁ! この程度でまろが倒されるとは思わないでおじゃるよ!」
まろは無敵モードにはいったでおじゃる。斬る、突く、叩く、全て傷付ける事を禁じ、木火土金水の五行のどれからも遁じることの出来る、誰もまろを傷付けられないでおじゃるよ。
そしてまろはゆっくりと詠唱出来るでおじゃる。長嘯術の際たる自然現象の呼び出し、竜巻を顕現させてこやつらを吹き飛ばすでおじゃる!
もちろん、獅子吼や伏虎、そしてスクナやイダテンを失うのは痛いが、いくらでも代わりは用意出来る。まあ獅子吼や伏虎のレベルにするには時間がかかろうが、その間は黄巾力士でも使えばよかろう。
なんなら仙丹はまだあるから、人間からまろの配下にしても良いであろ。夢がひろがりんぐ。むっ? 違ったかの? 若いものの言葉はよく分からぬゆえ。
さて、まろの呼び出した竜巻はどうじゃ? 自然現象に打撃攻撃も、けったいな赤いオーラも通じぬぞ? このまま吹っ飛ばされるがいい!
「ぬぅん!」
どこからか野太い声がして、竜巻をふんづかまえられた。これはなんだ? 龍というやつか?
「我が名はヴリトラ! 古龍なり! 暴風の扱いには慣れておる故、この程度の竜巻如きで我を吹き飛ばすことなど出来ぬと知れ!」
天空から響く声は確かに目の前の龍のものであろう。それにしても古龍とは。かつて古龍を捕らえようとしたが失敗した事があった。あの龍は惜しかったものだ。
いかんいかん、竜巻がダメならば別の自然現象を呼ばねば。ならば大量に対応せねばならん飛蝗の群れを呼ぼう。いでよ、金蝗!
空から蝗の群れが現れる。もちろんまろに襲いかかる事は無い。もし、倒れても生き残った蝗が農作物を食い荒らす。食物がなければ生きていけぬ人の身にはさぞかし辛かろう。
さあ、食らいつくせ、ディナータイムだ。いや、ディナーにはまだ早いでおじゃるな。貪るように食らうがいい!
そんな事を思っていたら上から炎が降ってきた。むむっ、遁術で逃げるか? いや、この程度の炎ならば、まろには通じぬでおじゃる。
「ちっ、全部は焼けなかったか」
『ふむ、まだ修練が必要な様だ』
「分かってるよ、イフリートさん」
「ならばあとはこの爺に任せい。大海嘯!」
どこからともなく水が現れて、空中にいる蝗を水に沈めていく。しまったでおじゃる。むきー、全部流されたでおじゃるよ!
「ヴリトラ、フェザー、イフリート、それにシルバー爺!」
「ほっほっほ。先に参上しましたぞ。他のみなもそろそろ来るでしょう」
なんと! あの言い方からすればまろの部下たちはやられてしまった様でおじゃる。全く役に立たぬ駒でおじゃるよ。
だが! まだこの街の瘴気はまろに流れてきているでおじゃるよ。この気があればどうとでもなるでおじゃる。
「オヅヌ! 玉葉姉様の仇、取らせてもらう!」
「さすがに天使としてもあなたの所業は見逃せません」
「妾に喧嘩を売ったこと、後悔させてやるとしよう」
続々と向こうサイドの奴らが集まってくる。群れねば何も出来ぬ雑魚どもが! まろに勝てると思っているでおじゃるか!
なれば、疾!
まろは奥の手とも言える陣を展開する。中に入ったものに酸の雨と地割れで攻撃する紅水地裂陣。まろが持つ五つの切り札の陣の中でも強力な部類のものでおじゃる。
作るのにかなりな年月をかけたが、またまた作ればいいだけの話でおじゃる。魔王の奴にも報酬を貰わんと割に合わぬでおじゃるよ。
陣が口を開けて全員を捉える。ほほほ、逃げても無駄でおじゃるよ。光と同じ速度で展開されるでおじゃるからな!
全員が中に入ったところで酸の雨を降らせる。むむっ、天使の小娘が結界を張っているでおじゃるな? だが、いつまで続くか見ものでおじゃる。何せ、この陣のエネルギーはこの街から集めた瘴気でおじゃるからして!
まろが椅子に座り、高みの見物をしていると、まろに向かって攻撃が飛んできた。まあ斬るのも突くのも叩くのも通じん……のっ!?
くっ、苦しい、なん、だと? まろがダメージを食らってるでおじゃるか? この攻撃は一体……攻撃が飛んできた方を見るとエルフが一匹立っておった。そして、そこから木が枝を伸ばしてまろに巻き付けているのを。なるほど、つまり、まろを絞め殺す気でおじゃるな。
「へへーん、どんなもんだい」
「エリン、油断は禁物だぞ」
「一筋縄ではいきそうにないにゃ」
こやつら、さっきの陣には入らなんだか。ならば! こやつらはまろが直々に殺してやるでおじゃるよ。幸いにしてまだまだ瘴気には余力が。
パリン、と音がした気がした。まろの、まろの形代が発見され、破壊されたと? あれには正しい手順で破壊しないと呪いをばらまいて瘴気を集めるようになっていたはず! それなのに、何故!




