第176話:グレンの吐露(グレン視点)
頑張れグレン、負けるなグレン
ぼくの目の前で起こっている事は幻なのだろうか? ぼくの、ぼくが手を放した、それでも、ぼくの元に戻ってきた元相棒は相手を圧倒している。
ぼくはラビと別れた後に懸命に努力して、魔王軍との戦いに向かった。味方が強かったからぼくの出番はほとんどなかったけど、それでも護られるだけの存在ではいたくなかったんだ。
剣技を磨き、魔法を覚え、そこらの魔物では相手にならない迄に鍛えた。もちろん、仲間との強さの溝はまだまだ埋まってないけど、それでも前に進んでいた。
ラビと離れたのは甘えを捨てるためだった。そりゃあこれからの戦いでラビを危ない目に合わせたくない、という気持ちの方が大きかったが、ラビが居ると、ぼくも弱くてもいいんだ、なんて思ってしまいそうで怖かったんだ。
だから、ぼくの成長のために、ラビの安全のために、ぼくらは別れた。もう、会えなくともラビは一番大事な友達なんだ。テイムするとかしないとかそういうレベルじゃない。あの日、森で出会った時からの相棒だ。
でも、ラビは、旅を通じて、成長していた。信じられないくらいに強くなっていた。ぼくは信じられなかった。自分を追い込んだのだからぼくは強くなると思っていた。
ラビはそれ以上に強くなっていた。いや、ぼくと一緒に居ることはラビにとっては枷でしかなかったのかもしれない。そう考えるとラビのためには悪くない選択だったのだろう。
ぼくは、強くなりたいと言いながら、武器の強さに頼って、仲間に頼って、そんなこんなでずっとやって来た。強くなる訳がない。ぼくはみんなに、仲間に恵まれていたのだから。
もちろん、あの情けない勇者に比べたらぼくの方が上だと思う。それについてはみんなもそうだと言ってくれた。あれがお世辞でなければだけど。いや、そういう慰めを言うような子たちじゃない。
今、ぼくはオヅヌに、牛鬼に手も足も出ないで攻めあぐねていた。ぼく一人ではあえなく打ち倒されていただろう。ラビに助けられたのだ。
自分から手を放した相手から助けられて惨めなことこの上ない。認めよう、ぼくは弱いんだ。仲間が居なくちゃ何にもできない。だから、ぼくは仲間を信じて、戦うしかない。みんななら、敵を倒して駆けつけて来てくれる、と。
「牛鬼よ、奴を、あの兎を狩るでおじゃる!」
『悪ぃが遅せぇよ。バカでかいウスノロ図体な上にオレの恐怖で縛ってんだぜ? まともに攻撃なんぞ当たらねえよ!』
言葉通りに牛鬼の攻撃を華麗に交わすラビ。口調が悪いが、あれは恐らくラビの抑圧された戦闘モードの精神なんだろう。しかし、バカでかいウスノロとは、ぼくはこれでも全力で回避してたんだけどね。
「おい、何をやっておるでおじゃる! 動け、動かぬか、この役立たずめが!」
そうこうしてると、脚のうちの半分を切断されて、牛鬼が地面にその身体を横たえた。デカい図体だから身体を支えきれなくなったのだろう。オヅヌの焦る声も聞こえる。
『はあ、身体が動かねえのに根性で何とかなるわきゃねえだろうがよ。てめぇの操る術でも無理なんだろ? 詰みだよ、詰み』
ラビは堂々と宣言する。これで決着か? と思ったらオヅヌが高らかに笑い出した。
「ほほほほ、まさか牛鬼を破ったくらいでまろに勝てるとでも思うたか? やっとまろと戦う資格が出来たに過ぎぬでおじゃる。陰陽大将の実力、存分に見せてくれようぞ!」
オヅヌはそう言うと牛鬼から飛び降りた。牛鬼が何かを喋っているようだが、オヅヌはそれを無視して牛鬼の頭部に拳で穴を開けた。
『マジかよ!?』
「ええっ!?」
ぼくもラビも同様に驚きを隠せなかった。それはそうだ。なぜなら今までぼくの剣では貫けなかった牛鬼なのだ。いや、貫けなかったのは武器が剣だからか?
「さあさあ、かかってくるでおじゃるよ。お主らの大好きなコロシアイでおじゃるよ!」
いや、別に殺し合いが好きなわけでは無いのだが。そんな事を言っても仕方ない。不気味なオヅヌを警戒してぼくは再び剣を構えた。
オヅヌは周りに護符を浮かべている。周りを回りながらオヅヌを守護しているようだ。
ぼくらは先ずは二人で仕掛けてみる事にした。ラビとアイコンタクトを交わす。ダメだ、分からん。ラビは何を考えているんだろうか?
『グレン、ちょっと先に軽くひと当てしてくるぜ!』
ラビが弾かれたようにオヅヌに向かう。ツノでの攻撃はオヅヌに刺さることなく、弾かれた。
「ほほほ、これも禁呪のひとつでおじゃるよ。斬る、突く、叩くどれも通じないでおじゃるよ。もちろん、炎や氷、かまいたちなどの属性攻撃もまろの五行陣の前では無力ておじゃる!」
どうやら絶対防御、とでも言うべき鉄壁さらしい。だが、守ってばかりでは勝てないぞ、と思ったらオヅヌは何かを詠唱し始めた。もしかして、デカイやつが来る!?




