第175話:ラビ君無双
なお、ティアマトさんは神の域まで行ってる古龍なので平気です。
グレンの持っている剣に魔力が伝導する。グレンは保有魔力量は多いんだ。なぜならぼくらを十体も従えられるからね。あのマリエさんだと五体か六体ぐらいじゃないかな? それでもかなり優秀なんだけど。
グレンは小さい頃から剣士に憧れてたから剣の修行はきっとずっとやって来てたと思う。さっきの身のこなしもきっと剣術の修行で身に付いたものだろう。
「はぁ、魔力斬!」
気合いを込めて振るった攻撃が牛鬼の足に吸い込まれるように当たり、そして弾かれた。
「なんだと!?」
「ほほほ、そんな鈍で牛鬼を傷付ける事など出来んでおじゃるよ」
「こ、これは、魔力を使った攻撃でオリハルコンさえも両断出来るんだぞ!?」
「ほほほ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄でおじゃる」
闇雲に剣を振るうが、傷が出来る感じは無い。それどころか足まで攻撃が達してないというか。ん? 足まで攻撃が達してない? もしかして……
『グレン、もしかしてこれ、オヅヌの術なんじゃないの?』
「なんだって!?」
『足の装甲で弾かれてるんじゃなくてその手前で弾かれてるんだよ。だから多分なにかの術だと思う』
ぼくらの会話をオヅヌが聞いてすぅっと眼を細めた。
「ほう? 我が禁呪、『刃を禁ずれば、則ち斬ること能わず』を見抜いた様でおじゃるな!」
『いや、具体的な内容は分からないんだけど』
「ほほほ、どの道バレたところでその剣では牛鬼を傷付けることは出来んでおじゃるからな!」
牛鬼に乗って調子にも乗っているオヅヌ。非常に度し難い。
『グレン、その剣ではダメだから別の攻撃方法で!』
「えっ? でもこの剣気に入ってんだけど」
『今は使えないだけだから、早くしまって!』
「わかった。じゃあ次の武器だ。出てよ、ポセイドントライデント!」
次にグレンが取り出したのは三又の槍。グレン、槍も使えたの!?
「これなら、どうだァ!」
グレンが勢いよく足を狙って突く。牛鬼は足を上げて交わし、槍を放った後のグレンに上から前脚を叩き込む。
「なっ、ぐはっ!」
グレンは身体を吹っ飛ばされて地面に転がった。恐らく何ヶ所かの骨が折れていたりするんだろう。
それでもグレンは一生懸命立ち上がる。トライデントに身体をあずけて。力をふりしぼりながら。
「まーけーてー、たーまーるーかぁ!」
「ほほほ、負けん気だけで戦は出来ぬでおじゃるよ。ほぅれ、これで終いでおじゃる!」
横薙ぎの一撃。グレンがまともに食らったらきっと吹っ飛んでさらに酷い怪我を負う事になるだろう。それだけは、それだけは嫌だ!
ぼくは身体の中にある精一杯を絞り出す。何が隠れてるかなんて言わなくてもいいよね。ぼくの中のぼく、もう一度、力を貸してほしい。
『ちっ、しゃーねぇなあ。だけど多分これで最後になる。おめぇとはお別れだ。いや、オレたちはひとつになるんだよ』
『わかってる。寂しいよ。でも、グレンを助けるためなんだ!』
『テイムすらされてねえってのによ。全くオレって奴は』
『キミもぼくなんだからこの気持ちは分かるだろ?』
『ああ、分かるさ。痛い程な。じゃあ、いくぜ?』
オレの中で暴虐が渦を巻いている。牛鬼の脚は全て恐怖で縛った。動けまい。いや、オヅヌとかいう術士が動かせば動けるのか。自分の意思に反して動かされるのはたまらねえよなあ。
『赤き恐慌のオーラ。絶望はここから始まる』
オレは静かに告げてやった。牛鬼は動こうと思っても脚の一本も動かせねえはずだ。オヅヌが一生懸命動かそうとしている。
『今、おめぇが動けねぇのは本能でオレと相対する事を避けてるからだ。それでも無理やり動くなら……どうなっても知らんぞ?』
まあ牛鬼の意思じゃなくてオヅヌの命令なんだろうな。すまじきものは宮仕えってか。いや、オレは、ぼくはグレンと一緒で楽しかった。宮仕えってよりは単なる友達付き合いだったんだけど。
そうだよ、お前の敗因は友達じゃなくて、家臣になった事だ。そうすればまだ、逃げられたんだよ、お前も。
オレは頭のツノを伸ばす。グレンの剣に及ばねえはずだが、奴のオヅヌの禁呪とやらには抵触しねえはずだ。どこの誰がホーンラビットのツノで切り刻まれるなんて想像出来るよ?
オレは先ず、手前の脚を二本切断する。バランスを崩して牛鬼がよろめく。まああと六本あるんだから頑張りゃ安定するだろ。
「牛鬼よ、奴を、あの兎を狩るでおじゃる!」
『悪ぃが遅せぇよ。バカでかいウスノロ図体な上にオレの恐怖で縛ってんだぜ? まともに攻撃なんぞ当たらねえよ!』
後ろに回って体重を支えている脚を更に二本切り落とす。牛鬼は倒れ込む様に地面に突っ伏した。
「おい、何をやっておるでおじゃる! 動け、動かぬか、この役立たずめが!」
そう言ってやるなよ相手が悪かったんだ。この世の中にオレのアルミラージの恐怖から逃れ得るクリーチャーなんて居ねえんだよ!




