第171話:マリーvsイダテン(マリー視点)
困った時のジブリール様。というかやっぱり覗いてたんですね。
「ちぃ、これもダメか!」
イダテンが声を残して消える。私はイダテンがどこにいるのかは分からない。というか動きが見えない。偉そうに言ったものの、スピードにはついていけないのだ。しかし……
ピキン、と結界に反応がある。私はそちらに向けて具現化した剣を突き刺す。イダテンはそれを間一髪で避けた様で再び姿をくらます。
私の得意は結界と回復。もちろん剣技は剣技でそこそこ使えるし、ベリアルも倒した。いや、ベリアルの時はジブリール様が処刑天使コンビを遣わせてくれたんだけと。
だって無理だよ、無理! ベリアルは熾天使の座にあった時から一流の剣士だったじゃん。私の本職は回復だよ? いやまあジブリール様程ではないけど。私は優秀。あの人はおかしい。死にかけた人に水ぶっかけたら蘇生するもん。いや、その分私は結界も得意なんだけどね!
で、このイダテン、早すぎて攻撃が当たらない。じゃあどうするかって言うと、さっきみたいに全方位に結界張って防ぐしかないんだけど。大丈夫、これでも剣技は熾天使の中でも有数の実力の持ち主だったから! あ、すいません、下から数えて、です。
でも結界は自信があるからそんなに簡単には崩れないよ。今もほら、イダテン程度の攻撃力じゃあ壊されることなんて、とか言ってたら背後の壁が崩れた。
「もらったぞ!」
「そんなっ!?」
イダテンは勝利を確信したのかニヤリと笑った。バカめ。笑うのはこっちだ! 結界を糸状にして、イダテンの身体に巻き付かせる。
「な、なんだこれは!」
慌てているようだけど全く問題なし。
「網絡崩纏陣!」
カッコよく名前はつけてみたけど、意味はよく分からない。何となく響きだけで決めた。まあやってる事は結界を糸状にして敵を捕縛するってだけなんだけど。蜘蛛の巣みたいに絡めとるからいつかかったのか分からないんだよね。
「イダテンくんだっけ? 動けなくなった感想はどう?」
「貴様、このような。真正面から戦おうとは思わんのか!」
「いやあ、私、そういうの苦手なんだよね。まあ並大抵のやつには負けないんだけど」
そう。並大抵のやつには負けないのだ。この世は規格外が多すぎる。まあ熾天使の中でも戦闘力はみそっかすだからなあ、私。というか戦闘力だけなら智天使や座天使にも負けたりするよ!
ふ、ふん、熾天使の実力は戦闘力だけじゃないもんね! 天界ではジブリール様に次ぐ回復力と、ジブリール様をちょっとだけ凌駕する結界術の使い手だもん。ま、まあ他の熾天使はみんな神の敵を滅ぼせとばかりの戦闘狂ばかりなんだけど。あ、ジブリール様は別ね。
「くっ、確かに正面から戦う戦わないは自由。囚われた時点で負け、という事か」
「分かってくれて嬉しいわ」
「……などと言うとでも思ったか?」
「は?」
なんか雲行きが怪しくなってきたわよ?
「これだけは使いたくなかったが……雷神化!」
イダテンの身体が光って唸る……じゃなくて、高熱を発して糸を引きちぎった。いや、光のようになってすり抜けた? よく分からないけどそんな感じ。
「我が名はスカンダ! アグニの息子にして雷光を司るもの!」
えええええ、変身したぁ!? こんなのどうしろってのよ。あの身体、あれ、雷でしょ? どうしても私じゃ捕えられないわよ!
「マリアヌス、マリアヌス。聞こえますか? 今あなたの心に直接話し掛けています」
「あっ、ジブリール様!? いや、あの、今取り込み中なので、後でもいいですか?」
「まあまあ、長話はしませんので。そういえばお兄様がね」
「その話、長くなるやつじゃないですか! ジブリール様のお兄様話は長いんですから」
「ちぇっ。分かりました。では一つだけ。光を閉じ込めるにはどうしたらいいかしら?」
えっ? 何をいきなり言って……
「あなたならできるわ。じゃあね」
「あ、ちょっと、ジブリール様!?」
言われたことで昔ジブリール様と話した事を思い出してる。確かあの時は……
「貴様に敬意を表して、最大の速度で屠ってやる! 光速の一撃を食らうがいい!」
そう言ってスカンダが突っ込んでくる。私は咄嗟に結界を張った。そういえばあの時も。私は結界の中を変質させる。
「そんなもので我が攻撃が防げるとでも……なんだと!?」
私は結界の中に角度を少しづつつけて、内面を鏡のように磨き上げた。そしてそれでスカンダを包む。
「くっ、これは一体!?」
「熱の遮断はそこまで難しくないんですよ。あとは光の速さに対応するだけ。でも、光と化してるなら、光の性質、鏡で反射するのを利用すればいい。もうそこからは出れませんよ?」
「くっ、またしても。おのれぇ! ここから出たら必ず殺してやるからな!」
そんな日が来ないことを祈ってますよ。さて、それではグレンのところに戻りますか。




