第166話:オヅヌ大戦1
ついに激突! この先、視点が変わる予定です。それぞれの戦闘があるからね!
ぼくたちがそうやって話しているとデンティフェルさんが薬を持ってきた。デンティフェルさんはぼくを見つけると、小走りで走ってきてぼくを抱きしめた。
「最高だ、君は最高だよ!」
興奮した様子でぎゅうぎゅうと胸を押し付けてくる。うむ、ゴリゴリしない、柔らかい。暑苦しいなココ。ん..……出られないのかな。おーい、出し下さいよ..……ねぇ。
「デンティ、やめないか。ラビ君が死んでしまう」
「おっと、これは失礼。でもありがとうね。君のツノのお陰でいい薬ができたよ!」
アスタコイデスさんが止めてくれたので事なきを得た。命の恩人ですよ! 一時、走馬灯か見えましたから。
それはそれとして、作ってもらった薬だ。デンティフェルさんの説明によれば、この薬は服用することで呪いなどにかかりにくくなるんだと。今ミナサノールで蔓延してるくらいの呪いならば確実に弾けるだろうという事だった。
ぼくのツノから採った薬をぼくが飲むのもどうかと思うけど、まあ背に腹はかえられないよね。各人も皆飲んでいる。これは人間も魔獣も一緒だ。
「全員、準備は出来たであるか?」
ミラビリスさんが号令を出してくれて、ぼくらは三度ミナサノールに向かった。念の為、鷲君には上空で待機してもらうことにした。いざとなったら連れて逃げてよね。
ミナサノールの街門は相変わらず誰もいなくてそのままである。もしかして呪いにかかった人々は創造的な行動が出来ないのかもしれない。
街の中に入っても何も変わらない。このままギルドに向かおうと思ったら上空から声を掛けられた。
「おやおや、何度やられれば気が済むのですか? 全く、これだから下等生物は」
「なんだと? 貴様とて人だろうが!」
「何を馬鹿なことを。人なんてとっくの昔に捨てましたよ」
見るからに人な気がするけど、どうやら違うらしい。ぽつりと晶龍君が「邪仙」と呟いた。既に人間を辞めた仙人なのだな。直ぐに人ではないと身体から発している瘴気からも分かる。
「さて、食い散らかしなさい、獅子吼、伏虎!」
「御意」
すうっと影から二頭の獣が出て来た。そしてそこで目の前に立ったのはノワールだ。
「ふふん、あんたたちに格の違いってモンを教えてやるのにゃ!」
「これはこれは。出来ますかな?」
「にゃーを舐めるンじゃないにゃ!」
「落ち着けノワール。一人で二体を相手にするつもりか?」
「ブラン……仕方ない、ブランにも譲ってやるのにゃ」
「かたじけない」
この辺りは打ち合わせの時にやったことだ。獅子吼と伏虎に直接対峙するのはノワールとブラン。戦いながら外へと誘導し、そこでエリンとフェザーに待機してもらって畳み掛ける。
「では、いつでも掛かって来るがいい」
「何を! にゃーたちが返り討ちにしてくれるにゃ!」
ノワールが勢いよく飛び出す。体格からするとノワールの負けなのだが、当たり負けはしない。それはそうだ。元々のベヒーモスというのはかなりデカいのだ。それを今のサイズに圧縮している。密度が半端ないのだ。
「ぐおおおお!? な、何だこの衝撃は!」
「伏虎よ、気を付けろ。どうやら見かけ通りでは無いらしい」
「余所見をしている暇があるのか?」
怯んだところに今度はブランが攻撃を仕掛ける。周りに氷の刃の鎧を纏っている。久々にブランの氷鎧を見たなあ。攻防一体のあの姿は割とかっこいいなと思ってる。
「ほう? 氷を操るか。ならば伏虎よりも私が相手した方が良さそうだな?」
獅子吼がブランの前に進みでる。となると自動的に伏虎がノワールの前だ。獅子吼は身体に金属の様なものを纏っている。鎧の様だ。伏虎はノワールに対して周りに何か球のようなものを浮かべている。どうやら火球の様だ。
「そんな危にゃいモノを出すなんて、一緒に燃えるつもりにゃのかしら? 外でやりましょう。後で全力を出せなかったと言われても困るからにゃ」
「のぞむところだ。我が焔玉にて焼き払ってくれよう」
「伏虎、気を付けよ。外に何か仕掛けてあるやもしれん」
「だとしても焼き尽くすのみよ!」
そう言うとノワールと伏虎は外に飛び出して行った。
「貴様は外に出なくとも良いのか?」
「貴様らを分断するのが目的だからな。無闇に合流されて合体技でも使われたら困るではないか」
「なるほど。少しは頭が回るようだな。よかろう。ここで貴様を屠ってやろう!」
「出来るものならな!」
そう言うとブランと獅子吼が同時に地を蹴って宙へと駆け上がった。氷と金属がぶつかり、きいんきいんという音が響く。
「まあ伏虎が行ってしまっては困るでおじゃるな。スクナ、イダテン、いでませい!」
オヅヌが手に持った符を振るうとそこにスクナとイダテンが現れた。両方ともしっかりと戦闘準備は出来ている様だ。二体の鬼はぼくらを値踏みする様に見回した。




