第159話:sideグレン その5-2
はぁ、やっと再会まで持ってこれました。
ミラビリスとハスタートが戻って来たのは日が暮れなずんでいるぐらいの時間だった。
「いやぁ、参ったねえ、アレは」
「うむ、キリがない上に対処のしようがない」
ギルドまでフラフラになった二人を支えながら改めて話を聞いた。ガナダンさんが話を促す。
「どこから話そうかねえ。あの陰陽大将とやらはとてもとても勝てる気しないねえ」
「ハスタート、ちょっと最初から説明するから黙って座っていてくれ」
「あ、そう? じゃあ白、後はよろしく」
「承った。さて、まず我々はミナサノールの城門に辿り着いた。いつもは門番が居るはずなのに、誰もいなかった。門の中からは異様な瘴気が漏れていた」
この辺はぼくらの時と同じだ。
「我々が門から入ると街に居た虚ろな目をした奴らがこっちに掛かってきた。そのまま切り伏せるのもダメだと思ったからほうほうのていでギルドに向かった」
「冒険者ギルドに辿り着いてともかく一旦中に入る事にしたのよ。でも、そこはあのオヅヌとかいうやつの根城みたいでね」
ハスタートの話によれば中に居たのはオヅヌで自己紹介をしながら二体の鬼をけしかけてきたと。スピードの速い青鬼がハスタートを、スピードはそこまででもない赤鬼がミラビリスをと分断するかのように襲撃してきたんだとか。オヅヌの出方を伺いながら戦っていたから反撃もままならなかったというのが言い分だ。
「あんなのを相手に周りを気にしながらとか勝てる訳がない。八方塞がりだわ」
「まあ八方塞がりというか何か方策を考えてからでないと無理だろうな」
二人の言葉に辺りは沈黙が支配した。
「やはり、黒にも出張って貰わないといけなさそうだよ」
「無理だろ。餌がないとここまで来ないだろうがよ」
「あんた兄でしょ? なら引き摺ってでも連れて来なさいよ」
「確かに自分は兄だが、あいつが兄だからと言うことを聞く訳が無い」
またシーンとなる一同。ともかく今後は作戦を立てようとその場は解散となった。
ぼくらは仲間内でも話した。あの二人と協力すれは或いは何とかなるのではと。だが、葛葉はあの病気の原因を突き止められないし、相手の奥の手も分からない。とりあえず撤退覚悟でもう一度当たってみるかということになった。
ぼくはぼんやりと遠くを見ていた。南の方にはラビの、ぼくらの故郷がある。今頃はラビは故郷に着いただろうか。それともその手前とかで安住の地を見つけたのだろうか。
ともかく絶望的な状況の今、巻き込まなくて良かったと心から思う。そんな風に思っていた時だった。南の方の空に何かが動いた様な気がした。
まあ鳥が飛ぶのは珍しくないし、と思っているが、なんか妙に胸騒ぎがする。空を飛ぶメンバーに確認してもらおうと思っていたらその影は大きくなりながらこっちに向かってくる。
でかい。前に出会ったルフ程ではないけどそれなりに大きい、あれは鷲だろうか。鳥だから空を飛ぶのは珍しくないんだが、魔王軍との最前線には鳥も近づかなくなってると聞いたのだが。
でかい鷲は大きな翼を広げたまま、ティリミナスの方に降りて来ていた。これはもしかしてまずいことになるかも、そう思って外に出るとハスタートとミラビリスは既に臨戦態勢で鷲を迎え撃とうとしていた。
「あれぇ、ハスタートにミラビリスじゃないか。やぁやぁ、久しぶりだな!」
「はあ!? お前、アスタコイデスか?!」
「嘘、赤じゃない。なんで貴方が鷲になんか乗ってる訳?」
「はっはっはっ、色々あるんだよ。ともかく降りるからそっちに行くよ」
そう言って降りてきた鷲が着陸するのを待たずに赤いプレートメイルの長身の女性がひらりと飛び降りた。
「みんな、出迎えご苦労! ってそんなわけないか。久しぶりだね、ハスタート、ミラビリス」
「赤、あんた行方不明になってからどこ行ってたの?」
「あー、まあ修行で山から山へと転々とね」
「はあ、ともかく赤が、アスタコイデスが来てくれれば百人力だ。黒を呼んでこよう」
「デンティフェルちゃんも居るの? うわー、懐かしい」
「居ないが、お前がいると言えば飛んでくるさ」
どうやらあの赤いプレートメイルの女性はいわゆる「赤」と呼ばれる人らしい。赤は戦士と聞いたがあんな女性だったとは。
鷲が羽ばたきをやめて静かに地面に降り立った。その背中から何かがまた転がり落ちて来た。夕日に染まっているからか、妙に赤く見えるそれは、ぼくには見慣れた、でも、こんなところにいるはずのない存在で、会いたくて、でも、巻き込みたくなくて、遠ざけていた存在。
『グレン!』
あの日、テイムを解いたぼくにはもう投げかけられないだろうと思った言葉。ぼくの名前を読んでくれる声。ああ、ああ、なんて事だ。生きてまた会えるだなんて思わなかったよ、ラビ!
気付くとぼくは走り出してラビを思いっきり抱き締めていた。泣き虫だと笑われるかもしれないが止めようのない涙が溢れて零れ落ちていった。




