第157話:君を乗せて(フライトプランはお任せ)
あのどれかひとつにキミ(グレン)がいるから
道道歩きながらぼくはアスタコイデスさんに今までの旅の事を説明した。長い長い話になるが、ぼくの話を聞いてくれみたいなノリだったんだけど、アスタコイデスさんはちゃんと話を聞いてくれた。
晶龍君との別れについては目を丸くしていたけど、龍族ならそういうこともあるかと納得はしてくれた。また、ぼくがジョーカーを倒したり、大阪の街を救ったりしたのもびっくりしながらではあるが聞いてくれた。
で、アスタコイデスさんの話。ぼくを捕まえられなかった後、ギラファしゅきさんにあれは商人の息子なんかじゃないと説明。何とか納得はして貰えたそうだ。
それから修行しながらこっち方面に来ていたらしい。何故かって言うと白とか緑とかと顔合わせなくないから避けてたって言ってた。
江戸にも寄ったらしい。モンドさん、元気かなあ? それで山に登って修行をしていたところ、そろそろ食料などが不安になってきたために街に下りてきた、と。
『アスタコイデスさん』
「アスティと呼んでくれたまえ」
『あの、アスタコイデスさん』
「アスティだ、ラビ君」
『アスタ』
「アスティ」
ダメだ。呼び捨てに出来なかった。ともかくお互いの自己紹介が終わったのでここからはティリミナスに向けて急いで行きたいところだ。
「私はラビ君と一緒ならどれくらい寄り道をしても構わないんだが?」
『いや、普通に移動したら半年は掛かるじゃないですか!』
「まあまあゆっくりしようじゃないか。あ、ちょっと遠回りにはなるけど色々寄っていくかい?」
『ダメです。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線でお願いします』
それを言うとアスタコイデスさんは難しい顔をした。
「ふむ、となると魔の森や凍結山脈を抜けていかねばなるまいな。これは時間がかかりそうだ」
『え? いや、時間が掛かるならもっと短縮出来るルートでも』
「いや、直線距離では一番近いのだ。もっとも、起伏に富んでいたり、様々なモンスターと遭遇したりと障害は多いんだか。まあ私とラビ君なら乗り越えられるよ!」
直線距離で近くても意味が無いよ! しかし困ったなあ。何とかして……おや?
『ラビ様! 今お助けします!』
上空から念話が届いて、見れば鷲くんが翼を広げてぼくのところに滑降して来ようとしていた。横には鷹もいる。
『わーわー、待って、ストップ! ちょっと落ち着いて!』
『しかし、ラビ様を一刻も早くお助けせねば』
『別に誘拐とかされてないから!』
必死の説得で何とか鷲さんにもわかって貰えた。鷲くんは翼を畳んで降りてくる。アスタコイデスさんは武器を構えて警戒はしてるが、そらは一応みたいだ。
「ラビ君、この巨大な鷲は君の知り合いかな?」
『おい、貴様、ラビ様に向かって失礼な口を叩くんじゃない!』
『鷲くん、ちょっと落ち着いて。ええと、アスティさん、この鷲は最近知り合ったお友達で』
『お友達だなどと勿体ない! ラビ様の第一の臣下にございます』
恭しく頭を下げる鷲くん。いやもう面倒だから臣下でいいか。
「私はラビ君の新しい保護者になりたいと思っているアスタコイデスだ。よろしく頼む」
なんか不穏なセリフが聞こえた気がしたけど気の所為かな?
『保護者とか要らねえだろ。ラビ様はこの森の支配者だからな!』
いやいや、鷲くん、そんな話は今はやめてくれないかな? ぼくはその、グレンのところに行きたいんだ。
「我々はこれより魔王軍討伐の為にティリミナスに行くところだ」
『そういえばラビ様もミナサノールまで行きたいと仰ってましたね』
「そうなのか。ミナサノールは残念ながら陥落したからね。奪還せねばならんのだよ」
『そういうことでしたか。分かりました。お約束通り、ラビ様はワシがお連れします』
あ、そういえばそんな事も言ってた気がするけど、今はアスタコイデスさんが居るからなあ。残念だけどゆっくり歩いて行くよ。
『舐めてもらっちゃあ困りますね。こう見えて重い人間を運ぶのは慣れてますからね。何せ牛だって運べるんだ』
なんでも雌牛さんをこっちに連れてきたらしい。雄牛さんの伴侶なんだと。まあそれはそれでいい事したんだねって思う。
『さあ、乗ってください。ワシの翼ならティリミナスまでひとっ飛びでさあ』
「それはありがたい。ラビ君、お言葉に甘えるとしよう」
『そうだね。ありがとう、鷲くん』
『おお、おお、ラビ様のお役に立てるばかりでなくありがたいお言葉まで。勿体ない。では、お乗り下さい』
ぼくとアスタコイデスさんが乗っても鷲くんの背中にはまだ余裕がある様だ。
『では、飛びますぜ!』
そう言って翼を羽ばたくとぼくらはあっという間に空に吸い込まれた。空を飛ぶというのはこんな感じなんだと感動を覚えた。でも、ちょっと寒いよね? アスタコイデスさん、震えてるもん。




