第152話:戦いの後始末
彼らは暴風の牙という名前の冒険者パーティです。牛さんを助けた時の街に居た冒険者たちなのです。
「はぁはぁはぁ、もう良かろう。このオレの手を煩わせることが出来たことを光栄に思うがいい!」
そういうと、オークエンペラーは豪快に笑った。ぼく? いやいや、確かに叩きつけられたり、そこに攻撃くわえられたりしたけと、ダメージ自体はそんなにないよ。
その秘密はぼくの赤いオーラ。ぼくの強度を強化したり、相手の無意識に作用して、攻撃の手を緩めさせたりするんだよね。
それにしても洞窟の中はそこらにオークの死体が転がってて血で汚れてるんだよね。あまり土と混ざったものは食べたくないんだけど。あ、草原に生えてる草は別ね。あれは新鮮な方が美味しいから。
オークエンペラーは何ともなってないぼくの姿を見て凄く怯えている。というか震える手で攻撃するから、ぼくに当たりっこしないんだよね。
「ウオオオオオオオオ、もう、殺す!」
今までは殺すつもりではなかったんだろうか、なんて考えてみる。オークエンペラーは渾身の力で手に持った二本の剣を叩きつけるように振り下ろしてきた。
こんなので勝てると思われちゃあ困る。ぼくは赤いオーラを全開にして。
『赤き恐慌のオーラ』
ぶわっと溢れ出る程に強まったオーラは奔流となって、エンペラーを呑み込む。エンペラーは恐怖に全身を支配された。
「な、なんだ、これは、身体が、うごかん! なんでこんな、まさか、これは、恐怖! このオレが恐怖を感じたというのか!」
いやまあ割と最初からガタガタしてたと思うんだが、言わないでやるのが花ってやつかね?
トドメをさしてしまおう。ぼくはツノにオーラを集中させ、回転させるようにしてエンペラーの身体を貫いた。
エンペラーの身体がドサリと音を立てて沈むと、辺りが静寂に包まれた。他にもオークが居たのかもしれないが、ぼくとエンペラーの一騎打ちの間にいなくなってしまったらしい。
ぼくはオークエンペラーを見る。うん、まあ割と美味しそうではあるね。なら食ってしまおう。
『あー、まあ、今回は及第点って事にしてやるよ』
『それはちょっと判定が厳しすぎない?』
『ばーか、あんなのオレにかかれば二秒だ、二秒』
ぼくはぼくの中のぼくと話しながら、オークエンペラーの身体を解体していく。そして、せっかくなんで焼いて食べる事にする。グレンと旅してた頃は焼いたお肉を食べるかって突きつけられたりしたからなあ。
まあ、あの頃は食べたいかって言われても食べたいなんて思わなかったんだけど。でも、今になってあの時はどんな味だったんだろうか、なんてグレンの笑顔まで一緒に思い出す。
ぼくの魔法で丸焼きにして、冷めるまで待ってからかぶりつく。なんだか味気ない気がする。そういえばグレンは塩とか使ってたなあ、などと思って辺りを探してみる。
すると調理場らしきところにオークたちが使ってたであろう塩が塊で置いてあった。オークが塩をどうするのかって思われるかもだけど、オークとかゴブリンとかは塩味を好んだりするので自然塩のある場所に巣を作ったりするそうだ。
ぼくはペロリと舐めてみる。かなりしょっぱい。羊さんはこういうの好きそうだから教えてあげたら喜ぶかもしれない。
エンペラーの身体を粗方平らげたら眠くなってしまった。仕方ないのでそのまま寝てしまおう。ああ、眠い。おやすみ。
目が覚めると洞窟の外で気配がする。この気配は人のものだ。恐らくこの辺りの森を根城にしている冒険者とかだろう。
「おい、本当にここにオークジェネラルが出たってのか?」
「間違いないよ。目撃証言だってあるんだ。それも複数」
「ちっ、腕のある冒険者はみんなティリミナスに参集されてるってのに」
「仕方ないだろう。俺たちは各地で活発化しているゴブリンやオークの退治が目的なんだからな」
「適材適所だよね。全く」
何やら色々冒険者が集められてるらしい。ということはそこに行けばグレンにも会えるのだろうか。
「おい、タムロム、警戒しろ」
「はあ、なんだよ、ゲンツ」
「気付けよ。血の臭いだ。それもかなりな量の」
「まさか誰か犠牲者が? ローリエ、斥候をお願い」
「ううー、洞窟の中は専門外なんだけどなあ。でもまあ良いよ、魔法使うし」
ほわほわとしたものがこちらに飛んできて辺り一面を照らす。まあ血の海がこんなに酷いとは思ってなかったよ。ちなみにぼくも血塗れだったりする。どこか帰りに洗わないとなあ。
「光の神よ、暗き洞窟に汝が光を届かせ給え、ホーリーライト!」
神官服を着た女性が手に持ったメイスを掲げると、そのメイスが光を放ち、そこから光の玉が洞窟の上空へと打ち上げられた。
「うわっ、なによ、これ」
「ルフィアナ、大丈夫か?」
「大丈夫って何がよ」
「いや、なんか敵対勢力が隠れてないかとか」
「あー、私の心配じゃないのね。まあいいわ。邪なるものの存在を浮かび上がらせよ、センスイービル!」




