第150話:オークジェネラル戦
アーサー王も苦戦したうさぎ(マテ)
洞窟の中に入って進む。夜目は利く方だから暗くても平気なんだよね。でもオークたちはそうでも無いのか、通路のところどこに明かりが置いてある。置いてある、というのは使われてないが設備はあるという事だ。ぼくには点けられないけど。
しばらく進むと左右に道が別れている、どっちに進めばいいかなんて分からないから、なんとなくで選ぶ。進んで行くと、オークが三体ほど、部屋に屯していた。
こっちには気付いてなさそうだし、特にこの先に部屋どころか通路すらなさそうなので放置して逆方向を進む。
しばらく進むと広い部屋に出た。そこから色んな場所へと通路が延びている。何処が何処に繋がってるのかは分からない。そして広い部屋にはそれなりの人数が居た。
いっぺんにこれだけの人数の相手をするのは正気の沙汰じゃないと思う。ヴリトラとかならブレスで一掃なんだろうけど。
『あれもぼくがやるの?』
『お前がやらなきゃ誰がやるんだよ』
『キミ、とか?』
『ったくしょうがねえな。手本見てるから見てろ』
そう言うとぼくの身体は前に進み、勝手に広間の中央に辿り着いた。周りには武装したオークが何匹も一番大きいのは普通よりもふた周り大きい 。
「なんだァ? メシのタネにでもなりに来たのか?」
下卑た笑いを起こすオーク共。ギャグでもない人の言説を笑うのは良くないことだ!
『絶望誘発』
ぼくの中のぼくは、身体の中に意識を集中させた。腹の底から何かが湧き上がってくる。形にならないそれを球の形で周りに広げていく。あっという間にそこの奴らが呑み込まれていった。
「は、はがががが」
「ひいっ、ひいっ」
オークたちは涙を流したり、ショックで息の根が止まっていたりするみたいだ。そんな中でもただ一匹、耐えきった奴がいる。一番大きいオークだ。
「ぐっ、て、てめぇ、何をしやがった!」
『何やったの?』
『へぇ、耐えやがったのか。こりゃあすげぇなあ。てことはこいつは単なるオークとは違いそうだぜ』
『いや、だから何やったの?』
『うるせえな。絶望する程度のオーラを薄めて周りに飛ばしただけだってーの。対集団戦用の技だぜ』
ぼくの中のぼくは誇らしげに言う。いや、それ以前に戦闘を避ける努力はしなくていいのかな?
「このクソホーンラビットが! お前程度の分際でオークジェネラルたる、このオレの首が取れるか!」
ふた周り大きいオーク改め、オークジェネラルは手に持っている武器を振りかざした。武骨なデカいバトルアクスである。
凄まじい勢いで振り下ろされる斧をぼくは慌てて交わす。いや、ぼくの中のぼく、交わす気なかったよね?
『なんだよ、あの程度交わさなくったって平気だろうがよ』
『平気じゃないよ! 脳みそ潰れちゃうじゃないか、絶対!』
『いや、だからな、オーラで全身覆ったら効かねえだろ、あのぐらい』
どういう仕組みなのかは分からないが確かにぼくは硬くなることができる。それでもあの勢いは無理だと思うんだけどな、ぼくは。
『ちっ、面白くねえの。まあいいや。あの程度ならお前でも倒せんだからやってこいよ』
『いや、無理無理無理無理。どれくらいの体格差があると思ってんの!』
『いや、柔らかいと思うぜ、あいつの防御力。なんならエリンよりも薄いだろうぜ』
さすがにエリンを防御力の薄さで引き合いに出すのはどうかと思うよ。確かに防御力は弱そうだけど。もちろん森以外での話。
「ひき肉にして食ってやる!」
再び振り下ろされる斧をぼくはひらりと交わし、まずは動きを奪うべく、相手の足を攻撃する。まずは両脚の腱だ。後ろに回って丈夫にしたツノで切り付ける。
「なっ!?」
オークジェネラルは突然の下半身の機能低下に驚き、膝を着く。膝を着いた状態でもまだぼくより大きいんだよね。めちゃくちゃに斧を振り始めた。
『なんかめちゃくちゃだね』
『オークってのはすぐ冷静さを喪うからな。身体は熱く、頭はクールに。戦闘の時の心得ってグレンも言ってたろ』
『でもグレンちっともクールじゃなかったと思うんだけど』
『それは言ってやるなよ。そもそも向いてねえんだ、クールとか』
グレンに対しての評価はぼくもぼくの中のぼくも同じようだ。そりゃそうだ。同一人物だもの。
「クソッタレ、届かねえ。卑怯だぞ!」
『誰が斧の攻撃範囲まで行くかよ』
『行っても避けれると思うけど』
『そう思うなら近づいてもいいんじゃねえのか?』
『いやあ、万が一ってのもあるし』
かと言ってこのまま遠くであのジェネラルが疲れるのを待つというのもどうかと思うんだよ。ここで新しい技の登場である。いや、発案者はぼくの中のぼくなんだけど。
『ヴォーパルソード』
ツノにオーラをまとわりつかせ、一点目掛けてツノを向ける。そしてオーラだけを飛ばして相手にヒットさせるんだ。
オークジェネラルも御多分に洩れず、喉を貫かれて倒れた。何かを叫びたそうにしてたけど、喉を切り裂いていたので声は出なかったよ。




