第149話:見張りの処分
グラスプとグリップで迷いましたが、グリップは棒状のものを握る時だそうなのでグラスプにしました。
鷹が偵察から戻ってきた。どうやら山から離れたところにオークが集落を作っているらしい。なんでそんなところに?
と思ったが恐らく原因はあの黒い子山羊ではないだろうか?
『山肌に洞穴があり、そこを塒にしています』
恐らく鷹の事だからそれ以上の偵察はしていないんだろう。
『分かった。様子を見てくるよ』
『じゃあ、その場所にワシがお連れします』
『そうかい? じゃあ頼むよ』
鷲くんはぼくを掴むと大空に舞い上がった。こんなところから落ちたらぼくでもタダじゃ済まないだろう。
『着きましたぜ』
まもなく、山肌の洞窟が見えた。終始二、三匹のオークが出入りを頻繁にしている。オークの顔の区別なんかつかないから同じオークかは分からないんだけどさ。
ぼくら以外の潜入メンバーはいないから思う存分暴れられる、とは、頭の中のもう一人のぼくの声だ。
『鷲くんはみんなのところに戻ってそっちを守って欲しい』
『こちらはどうしますか?』
『ぼくだけでいいよ。足手まといはいらない』
『御意』
あー、のんか意地悪な物言いになっちゃったな。あれだとぼくがとても傲慢な奴に見えてしまうからね。でも頭の中のぼくがそう言えって言うんだもの。
ぼくらはそのまま洞窟の前で見張ってる男たちを始末しないとね。まあ男っていうかオークなんだけど。メスだったらごめんなさい。いや、でも、オークは九割男性って聞いたことある!
ぼくが洞窟の前に進み出るとニヤニヤしながらオークが近付いてきた。
「おいおい、晩メシがあっちから近付いてきやがったぜ」
「バカ、ここで騒いだらボスにこのホーンラビット取り上げられるじゃねえか。オレはよ、もうあのクソまずいメシは食いたくねえんだ」
「そうだよなあ。たまにはしっかり焼けた肉食いてえよなあ。まあ焼けてなくても食うがよ」
「違ぇねえ。よし、じゃあ半分ずつな」
「ならお前には頭をやるよ。オレが胴体な」
「そんなのほとんど食うところねえじゃねえか、ズルいぞ」
どうやってぼくを食うかで揉めてるらしいでも残念だな。食われるのはお前たちなんだよ。
『よぉし、じゃあこの二匹はちゃっちゃと片付けろよ』
『いや、待ってよ。ぼくが相手するの?』
『オレが相手したら意味ないだろうがよ。ほら、訓練だよ、訓練』
ううー、頭の中のぼくは強引だなあ。さて、どうやってこいつらを殺すかだけど、やはりツノと蹴り、だろうね。普通に仕掛けても防がれちゃうから、油断を誘ってやるか。秘技、愛FULL拳! ぼくは瞳をうるうるさせて二匹を見た。
「おいおい、こいつ、命乞いでもしてんのか?」
「おもしれえな。まあそれでも腹の中に入りゃ同じだけどな」
ダメだ、油断を誘えない! いやまあそんなものかもしれないけど。
意を決してぼくはまず、右側のオークの心臓目掛けて突進する。静から動へ。急に動かれると反応に困るというのはあるのだろう。ぼくのツノはオークの左胸を貫いた。ツノは長さを伸ばしている。
「なっ、おい、大丈夫か!?」
「ぐぐぐ、こ、この野郎!」
貫いてもまだ死んではいないみたいだ。ぼくは追撃とばかりに蹴りを顔面に叩き込む。これはアゴにヒット。ここでもう一匹のオークが武器を構えた。
「くそ、メシの分際でよくもこいつを!」
オークが闇雲にぼくに棍棒を叩きつけようとする。そんなのに当たるほどぼくはぼーっとしてないよ?
あまり長引いて仲間を呼ばれても面倒だ。一気に決めよう。ええと、確かこうやって相手の心臓に狙いを定めて、ううん、握るって感覚が分からない。
そうだ、締め付ける感覚なら良くされてたじゃないか! マリーに抱き締められていたことを思い出そう。あのゴリゴリに痛くて抜け出せない感覚だ。
『心臓掌握』
赤いオーラを心臓に巻き付ける様にして捉え、掴み、潰す。オークのもう一匹は胸を抑えてそのまま倒れ込んだ。
『成功したじゃねえか。発動までかなり遅かったけどな』
『そんなこと言わないでよ。初めてだったんだから』
『それもそうだな。じゃあ残りも屠っとけ』
ぼくは最初の一匹に近付いてそのまま喉を串刺しにした。ツノに血が滴り落ちる。
『さて、腹ごしらえはしとくか。このまま突入するにしてもオーラは使うだろうしな』
『ここで食べるの?』
『いや、あっちの草陰に持って行って食おうぜ』
ぼくは二匹の死体を運ぼうと、あっ、運べなくない?
『ちっ、しょうがねえな。急いでここで食うぞ』
『わー、急げ急げ』
そうしてぼくはオーク共に噛み付いた。血の味が新鮮で喉を潤していくのがとても快感だ。ぼくは夢中になって貪っていく。
あらかた食べ終わり、死体を残したまま、ぼくらは洞窟に入る事にした。中にはまだオークたちが沢山いるんだろうなあ。このままだと草食に戻れなさそうだ。




