第148話:オークを多く食う
すいません、前回の文で文中にオーガとあるのはオークの間違いです。いや、紛らわしいよね。オーガは固くて食べられないよ!
ひ弱なはずのホーンラビットのぼくに確かな一撃を与えたのに、ぼくがなんともなくてピンピンしているのがオークには不思議だったようだ。
『ほれ、お前の番だ。こんなやつ瞬殺してやれよ』
『えー、瞬殺ってどうやって』
『まずはそうだな、ツノにオーラを纏わせろ』
『ええっ? そんなのよく分からないよ』
いきなり言われたって出来るわけが無い。こういうのは段階を踏んでひとつずつ階梯を登っていくものだと思うんだよ。ぼくは単なるホーンラビットだよ?
『オレは出来たんだからお前も出来るって』
『どうやったのかなんて覚えてないのに出来るわけないよ!』
『ちっ、まったく、それならお前はグレンのところに戻っても役立たずだな』
『そ、それは……』
言葉に詰まるぼく。いや、ぼくはグレンともう一度ちゃんと話したいだけで。それに、あんなに強いみんながついてるんだからぼくなんか居なくても。
『あー、あー、辛気臭え話してんじゃねえよ。しっかり見て覚えろよ』
なんだかんだで世話を焼いてくれるもう一人のぼく。まあそうだよね、同じ身体だもんね。
『はあっ!』
ぼくの中のぼくは気合を入れた。ぼくの身体の中を熱いものが巡っていく。なんというかぐるぐる何かが身体の中で渦を巻いている様な。
やがて、そのぐるぐるは大きさを増していく。ぐるぐるしてる間に膨らむ感じだ。ゆっくりと渦がぼくの頭に向かってくる。ゆっくりと、喉から上に上がる。喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うけど、これは喉元を過ぎても熱さが残っている。
ツノの生え際が一段と熱くなった。このまま射出できそうだ。いや、ごめん、無理だわ。ツノは頭から生えてるからね。多分折れたら戻ってこないよ。
ツノにどんどんと赤いオーラが巻きついていく。頭の上なんで目には見えないけど暑さを感じるんだ。ツノには痛覚も温点も冷点ないんですけど、感じるんだよね。
ぼくの頭の上のツノに集まるオーラを不気味に思ったのかオークは逃げようとする。でも、オークの足は動かない。
『動けなくしてっから安心しろよ』
ぼくの中のぼくが教えてくれた。さっき頭に集中する時の片手間で動きを封じたんだそうな。そこまでぼくは出来ないよ?
『あとは首を刎ねるだけだ。簡単だろう?』
ぼくのツノには力が漲り、しかも長さも若干どころか大分伸びている。剣みたいに使っても多分大丈夫だろう。
ぼくは意を決して一歩前へ出た。オークの顔が怯えているが、これは仕方ないことだ。ぼくらを食べようとしたんだからぼくらにたべられても文句は言えないと思うんだ。
狙うは一番細そうな首筋。ぼくは前に向かって跳躍すると、オークの目の前まで跳んで、横なぎに一閃、ツノを振り切った。
ずるり、とオークの首がズレていく。ごとんと地面に首が落ち、オークの首から下は力なく膝を着き、そのまま前に倒れ込んだ。これでツノウサギカル(仮称)は倒れた。
辺りを見ると、ヒツジスキーは上から襲ってくる鷲くんの攻撃を受け止めきれずに嘴での攻撃を何度も命中させていた。ぼくの方の戦闘が終わったのを知ると、巧みに近付き、頭を鷲掴みにした。鷲だけに。
そのまま上空へとご招待して解放。キャッチアンドリリースは釣り人のマナーだね! 釣りと言うより吊りだけど。ヒツジスキーは真っ逆さまに地上へと落ちていった。
一方のウシニクミヤゲ(仮称)は距離を取りながら雄牛さんに攻撃を仕掛けている。雄牛さんの方はまったく効いた様子がない。そりゃあそうだ。近接しての武器攻撃ならともかく、遠くから逃げつつ石投げてるだけだもん。
ウシニクミヤゲは他の二人がやられた事を悟るとそのまま逃亡しようとした。雄牛さんはそれに素早く反応する。後ろ足で地面を蹴って急加速。あっという間に間合いを詰めて下から上へツノを突き上げる。オークは腹を貫かれて絶命した。
三者三葉……もとい三様ながら全員オークを葬ったぼくら。羊さんは戦力には数えてないから大丈夫。鷹は……まあいつの間にか居なくなるからいいか。
『この肉は主様に食べて頂きたく』
恭しく、鷲くんがぼくにオーク肉を差し出す。いや、そんな、ぼく一人が全部食べるなんて事、って思ったけど、羊さんも雄牛さんも草食動物なんだよね。いや、それ言うとぼくもなんだけど。
『うひょー、いいのか? 鷲も食えよ』
あっ、食欲に惹かれてぼくの中のぼくが勝手に答えちゃってる。でもまあ仕方ない。ぼくが食べるよ。オークの肉はそれなりに美味しいからね。
一通り食べ終わるとぼくの中のぼくは満足したようでしばらく寝るなって答えなくなった。いやまあいいんだけど。しかし、この後はどうしようか。オークがこの辺りを彷徨いてるならそれを何とかしてからでないとグレンのところには行けそうもなさそうだ。とりあえず鷲くん、いや、鷹の方がいいかな? 偵察をしてもらおう。鷲くんは目立つからね。




