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第144話:森の覇権争い

雄牛対大鷲。勝負の行方はいかに?

 その日からぼくらは湖の小屋での生活を始めた。「ぼくら」と言っているのはぼくの頭の中のもう一人のぼくが居るからだ。


 湖の周りはとても草の生育が良くて食べ物には困らない。困らないんだけど、草食動物が水を飲みに来ると頭の中で『今だ、喰らえ』って聞こえるんだ。


 いやいや、襲ってくるやつなら自業自得だけど、自分から襲うのはどうなの? ぼくは争い事は好まないよ!


『ちっ、そんなんだからグレンに捨てられんだよ』


 ぼくが頭の中のどこかで思ってることをやっぱりぼくは的確についてくる。でも、それがぼくの心の傷を抉ったと感じたんだろう。直ぐに『すまん』と謝ってきた。


 やっぱり、ぼくは戦えないからグレンに捨てられたんだろうか。はじめはグレンだって、戦うことに重きを置いてなかったはずだ。それがいつの間にか戦いに巻き込まれ、勇者よりも強くなり、魔王との戦いに赴いている。


 ぼくは、どうしたら良かったんだろう。あのままどこにも行かずにここで暮らしていれば、グレンはずっとそばにいてくれたんだろうか。


『まあ、そんなに落ち込んでるもんじゃねえべ』


 声を掛けてくれたのは大きな雄牛の人だ。ここに水を飲みに来ているので仲良くなってしまった。


『ワシにも連れ合いが居たんだがなあ。魔王軍との戦いではぐれてしもうて、探し回ってここに辿り着いたんだべ』


 雄牛の人は魔王軍と勇敢に戦ったそう。それはもう、誇りを、そして仲間を守るために。ぼくは、そういう戦いも好きでは無い。戦わなければ奪われると分かってはいるから抵抗はするけども。


『まあ、ワシの連れ合いならどこかで生きとるだからそのうち会えるべさ』


 雄牛さんはそう言いながら水を飲む。探すのはもうやめたんだろうか。


 雄牛さんの他にも色んな動物が飲みに来る。ぼくらは喧嘩をしないようにやっていた。肉食獣はいなかったから食物連鎖も起こらなかったしね。まあぼくは捕食者なのかもしれないけど。


 空からは鷹のような猛禽類がぼくらを狙っている風だったが、雄牛さんが居るとそれも殆ど諦めて帰っていっていた。


 ある日のこと、見ずうに水を飲みに行くと、小さな羊がフラフラと駆け寄って湖の水を飲み始めた。よほど喉が乾いていたんだろう。周りを見る余裕もなく、一心不乱に喉を潤していた。


 上空に黒い影が舞う。最初ぼくらはそれに気付かなかった。少しかげったなと思う程度で。そいつは一直線に降りてきて、羊の背中に爪を突き立てた。まあ羊毛に埋もれてるんだけど。


 やはり相手は猛禽類らしく、羊を捉えた足を離そうとはしなくて、そのまま持ち上げようとしていた。四度目の羽ばたきあたりで、羊の身体が宙に浮いた。


「メェ~~~~~~」


 悲痛な叫びがそこら中に響き渡る。でもこれは仕方ないことなので介入するつもりはない。それが自然界の掟なんだ。


 その掟に雄牛さんが敢然と逆らった。雄牛さんは羊を見つけると、なんとジャンプして鷹を追い払ったのだ。不意をつかれた鷹はなすすべもなく吹き飛ばされ、羊から剥がされる。


『貴様!』

『弱いもんイジメしてんじゃねえへ?』

『くっ、覚えてろよ!』


 鷹は捨て台詞を吐いて消えていく。羊さんは涙を流しながらお礼を言っていた。


 このまま、あの鷹が引くとは思わない。なんと鷹は自分よりも大きい鷲を連れて来たのだ。


『ワシの手下を虐待してくれたのは貴様らか?』


 その時はぼくとすっかり仲良くなった羊さんと雄牛さんでおしゃべりをしている時だった。


『ワシの友人が狙われたんでなあ。そりゃあ妨害くらいはするべさ。世の中は弱肉強食。この子を食えんかったんはそっちの鷹の実力不足だんべ』

『それにはワシも賛同する』

『アニキ!?』

『阿呆。実力不足はお前の責任だ。だけどな、ワシたちにもメンツってもんがある。そこの羊たあ言わねえ。あんただ、雄牛のおっさん。あんたをワシらの餌にしよう』

『このワシを捕まえて飯にすると言うべか? 面白い冗談だべ』


 雄牛さんが不敵に笑う。相手のワシは翼を広げて威嚇を始める。かなり大きい。でも雄牛さんは更に大きいんだ!


 二人は対峙する。そして同時に動き出した。雄牛さんはその身体を活かして、空からの攻撃をはじき返すつもりだろう。というかそれ以外の攻撃方法はない。なにせ、相手は空が飛べるのだ。


 かと言って真正面から行ってもあの鷲に勝ち目はないだろう。体格差というのはそれほどまでに違う。


 二人は間合いを測りながらジリジリと付かず離れずしている。それなりの助走がなければ体当たりしても痛くないからね。いや、ぼくなら潰れちゃうよ?


 ずっと睨み合いをしているその時、相手の鷹が観戦していた羊さんの背中を掴んだ。


『ひゃっほー! 背中がお留守だぜ!』


 いやらしい笑いを浮かべて、鷹は羊さんを持ち上げる。急なことで踏ん張りが効かなくなり、羊さんは大空へと舞った。

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